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『イラスト図解 世界史を変えた金属』より 第4回~〈BC38-19億年〉鉄鉱石と銅鉱石の起源―生命と地球環境が鉱石を作る~

金属の成り立ちや特徴、人類史における関りまで解説した好評既刊『イラスト図解 世界史を変えた金属』から一部を公開いたします。
第4回は第1章・第2節「〈〈BC38-19億年〉鉄鉱石と銅鉱石の起源―生命と地球環境が鉱石を作る」を紹介します。

1-2 〈BC38-19億年〉鉄鉱石と銅鉱石の起源―生命と地球環境が鉱石を作る

鉄鉱石の生成

鉄鉱石は、世界中の至るところで産出します。これは、太古の炭酸の海でたくさん溶け込んでいた鉄が、シアノバクテリアが吐き出す酸素とくっついて酸化鉄になり、沈澱したためです。
沈澱する量は、季節変変動や気候変動により変わります。このため、まるで木の年輪のような縞模様の鉱床(縞状しまじょう鉄鉱床*)が出来上がりました。
現代使われている鉄鉱石は、太古の海でシアノバクテリアが作り出した酸化鉄の分厚い層が、隆起して陸地になった場所から掘り出されています。深い穴を掘る必要がなく、地表にある鉱石をき取る簡単な堀り方で、「露天掘り」と呼ばれます。鉄鉱石は、世界のどの場所でも見つかります。鉄器を使う文明は、世界中の至る地域で発生しました。
ときどき「鉄鉱石を掘り過ぎると、資源が無くなるのではないか」と心配される方がいますが、そんなことは全くありません。現在の鉄分濃度が高い高品質な鉄鉱石だけでも、数百年は枯渇しません。わずかに低い濃度のものも使うとなれば、その数十倍の資源量になります。鉄の心配よりも、製鉄の際に出る二酸化炭素や、ほかの重要な金属の枯渇*の方が、より現実味を帯びています。何といっても、地球の重量の3分の1は鉄です。

*縞状鉄鉱床
しまは、珪酸塩鉱物と赤鉄鉱や磁鉄鉱などの鉄鉱石が交互に積み重なってできたもの。27億年前から19 億年前に形成された。
*重要な金属の枯渇
鉄鉱石は、地球の歴史の中で生命が地表に生み出した鉱石なので、ほぼ無尽蔵に世界中に存在する。他方、銅やニッケルなどは、特定の場所にしか鉱石として存在しないので、掘り尽くしてしまうと他の場所を探すしかない。銅やニッケルは、電気自動車や風力発電などで需要量が増えているため、採掘可能年数がどんどん短くなってきており、本当にやばい状況である。

銅鉱石が採れる場所

銅鉱石の採れる場所は、鉄鉱石と異なり限定されています。銅鉱石は鉄鉱石とでき方が異なるためです。
銅鉱石がある場所は、大昔の海底の地殻の裂け目(プレート境界*)の上です。そこは高温のマグマが地表の近くまであふれてきています。このような場所では、地殻の裂け目から染み込んでいった海水が、高温のマグマと接触して蒸気になり、再び地殻の裂け目を上昇していきます。その過程で岩石中の硫化鉱物*が溶け込み、海水中に押し出され冷やされて、硫化鉱物が粒子となって付近の海底に沈殿します。こうした場所が銅鉱床になります。やがて海底が隆起して、海面から顔を出します。
古代の青銅器文明は、まさにこのような地に栄えました。エジプト文明、ミノア文明、ギリシア文明、メソポタミア文明、アッシリア文明、インド文明など、青銅器文明の場所は、地図上に記してみると、みごとにプレート境界の上に集まっています。ただし、中国文明はプレートの上に栄えました。そのため、青銅器を使う時代はあったものの、他の文明圏よりも一足早く鉄器文明に移行しました。

*プレートの境界
地球の表面は一枚板ではない。形状の異なる大小の板に分かれている。この地殻の板は、その下のマントルのゆっくりした対流に合わせて動き、境界は次第に裂けていく。この地殻の板をプレートと呼び、裂け目を境界と呼ぶ。
*硫化鉱物
硫黄と結合した金属を含む鉱物。火山活動などの硫黄環境で、高温水が地殻の中を移動するときに硫化物を生成する。熱水活動は限られた場所で顕著なので、鉱物として発見しやすい。

書籍目次

第1章 金属はどこで生まれ、人類と出会うのか?―宇宙・地球・生命・文明と金属
 1-1 〈138億年前〉元素誕生から地球誕生―恒星が金属を作り出す
 1-2 〈BC38-19億年〉鉄鉱石と銅鉱石の起源―生命と地球環境が鉱石を作る
 1-3 人類が最初に精錬した金属は銅?―銅器と青銅器
 1-4 金属の歴史に登場する鉄の種類―数万年も前から利用されてきた鉄
 Column 玉鋼

第2章 金属の記憶―金属の神話と錬金術
 2-1 金属と伝承―鉄の神話
 2-2 錬金術―黄金への永遠の願望
 Column ロマンティックな遭遇

第3章 金属の文明―金属変遷と東西の文明
 3-1 〈BC5000-BC1000〉青銅器と鉄器―青銅器文明から鉄器文明へ
 Column ブロンズ病
 3-2 〈BC1000-BC1〉ローマと中国―西端のローマ文明と東端の中国文明が始まる
 Column わが家の銅鐸

第4章 金属の思想―金属は文明と錬金術を生み出す
 4-1 〈AD1-500〉文明の興隆―ローマは興隆し、中国は鉄鋼先進国へ
 4-2 〈500-1000〉錬金術出現―ビザンチン文化と錬金術の萌芽期
 Column 神話と金属

第5章 金属の拡張―距離の拡張と技術の拡張
 5-1 〈1000-1400〉冶金の進化―十字軍の東方文化発見と鉱山冶金術の進化
 5-2 〈1400-1600〉冶金技術―大航海時代と鉱山冶金技術書籍
 Column ダンテ「神曲」の金属

第6章 金属の衝動―産業革命へ準備
 6-1 〈1600-1700〉鉄生産前夜―鉄生産は英国に移動し、ミクロ観察が発明される
 Column 一つ目小僧
 Column 三蔵法師の宿題
 6-2 〈1700-1760〉発見と革命―第一次元素発見ラッシュと高炉法の進化
 6-3 〈1760-1800〉蒸気と電気―蒸気機関と製鉄業が産業革命を生み、電気利用が始まる
 Column シューベルトは騒音に苦情を言ったか?

第7章 金属の胎動―産業革命への歩み
 7-1 〈1800-1820〉元素と刃物―電気利用で第二次元素発見ラッシュ、鉄は刃物と大砲へ
 7-2 〈1820-1840〉模様と金属―ダマスカス模様へのあこがれと新金属アルミニウム登場
 7-3 〈1840-1860〉黄金と彗星―黄金がゴールドラッシュを呼び、彗星のごとく転炉法が誕生する
 7-4 〈1860-1880〉理解と製鋼―周期表が理解を深め、製鋼法の死闘の中で鉄血演説が生まれる

第8章 金属の躍進―巨大建造物と新金属の大躍進
 8-1 〈1880-1890〉実用と製品―エッフェル塔とアルミニウム精錬
 8-2 〈1890-1895〉軍艦と鋼材―戦艦甲板の鋼材競争
 8-3 〈1895-1900〉放射線と新機能―放射線科学と新機能金属素材の開発
 Column 女神さまの内なる悩み

第9章 金属と機能―金属に新たな機能の可能性
 9-1 〈1900-1905〉電磁鋼と酸素―電磁鋼板の発明と酸素分離がもたらす高効率精錬
 Column 錫ペスト
 9-2 〈1905-1910〉表面の技術―表面硬さの知見と表面不動態化
 9-3 〈1910-1915〉機能材料―ジュラルミンとステンレス鋼
 Column エボシのたたら場探訪記

第10章 金属の成長―性質の成長と建造物の成長
 10-1 〈1915-1920〉硬さと戦争―衝撃と硬さの定義と戦争が生んだ巨大砲の衝撃
 10-2 〈1920-1925〉地球の理解―地球科学の登場と窒素の効用
 10-3 〈1925-1930〉進化と巨大化―合金の進化と鉄鋼設備の巨大化
 10-4 〈1930-1935〉理論と摩天楼―科学理論の進歩とステンレス鋼をまとう摩天楼

第11章 金属の運命―戦争に翻弄される金属
 11-1 〈1935-1940〉戦火の足音―金属理論の深化と第二次世界大戦
 11-2 〈1940-1945〉核と新素材―原子核の実験と鋳造技術
 11-3 〈1945-1950〉理解の進歩―金属科学知識の理解と鋳鉄技術の進歩


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