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スピードの出る本のはなし{web版・日日の灯 2023.09.27}


いま書いている小説の初稿ができて、気がついたら夕方になっていて、家の周りを一周してから夕飯をつくった。物語の終わりは書いていると突然現れるのに、ずっと前からそこにいましたよ的な顔をしているからスピードを出しすぎた自転車がガードレールへ激突するみたいになっていきなり終わって、受け身の取れない自分だけが宙を舞い、全身に擦り傷をつくることになる。擦り傷はつくりたくないけれどスピードを出さないと実際どこへも行けないから、やむをえず自分の中でスピードを上げていく段階がある。書き上がった小説は1周目の文章だから、まだ言葉が信じられないほどごわごわしていて、何を書いたのか自分でもよくわかっていないし、自分が何を書いたのかあまりわかりたくないなと思ってしまう。でも1年後にこれを書けと言われても難しいだろうし、そういう種類の文章ではある。夜になったらまたはじめから書き直してみる。

書いているあいだは落ち着いていて、脳みそが後ろ向きに細長くなったような気分でどこまでも集中していける。最近は朝方にその都度やる必要のある仕事をして、昼から夜までの時間で小説や詩などを書き、ソリッドで具体的な実務作業とぼんやりとした雲をレンズ越しに文章にするみたいな抽出の作業を1日という水槽の中で混泳させているのだけれど、そういうリズムにもすこしずつ慣れてきた。10月はもう少し外の世界にも出かけたい(どうだろう)。小説はこれから何度かしっかり書き直しをして、11月の末頃に1冊の本になって世の中に出せたらいいと思う。これは一般的な出版社ではありえないスピード感かもしれないけれど、編集とデザインと営業をすべて自分一人で兼ねていると、制作の流れをもう少し早めることができる。冬に行われる展覧会の期日が一応のデッドラインなので、そこに間に合うようにやっています。今回は一点物のアートブックというような形式ではなく、もう少し広くいろいろな人たちの生活へ入っていけて、その先で関わりの持てるような本になればいいなと考えています。大変なこともありますが、すこし楽しみです。


web版・日日の灯 2023.09.27
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このweb版不定期連載では、{日日の灯}を発行しているのもとしゅうへいが生活のなかで起こったことを短く書きます。生活のメモです。



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