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詩集『南緯三十四度二十一分』

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詩集『南緯三十四度二十一分』収録作品の一部を掲載しています(発行:2020年)
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#短編小説

ブイヤベースまで36キロメートル

ブイヤベースまで36キロメートル

 「ブイヤベースまで36キロメートル」という標識が出ていた。砂丘にブイヤベース? 僕はクラッチを踏んでギアを五速に入れた。このあたりは取り締まりをやっていないから少し飛ばせる。長い直線なのだ。あたりに建物はまばら、といってもほとんどバラックみたいな小屋が砂の間にぽつぽつと突き刺さっているだけで、あとはマスタード色の大地が地平線とその輪郭を分かち合っているだけだった。



 オイル交換のために立

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おしがけピンキーグレー

おしがけピンキーグレー

 那須高原で星が見たいと言ったら君は車を出してくれた。二時間走って降りると海だった。

 夜の海に砂浜はなく、代わりに工場の煙突がピンク色の炎をあげていた。そこは東扇島の埠頭だった。君はナビなんて見なかったし、ここならいいものが見れるんだとか言って車を駐めたっけね。冬の大三角形はかろうじて見えたけど、他の星はてんでダメ。対岸の工業地帯が二十四時間輝いているもんだから、夜空なんて霞んでしまってね。で

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