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映画評 サン・セバスチャンへ、ようこそ🇪🇸

(C)2020 Mediaproduccion S.L.U., Gravier Productions, Inc. & Wildside S.r.L.

ハンナとその姉妹』『アニー・ホール』のウッディ・アレン監督による、スペイン最大の国際映画祭「サン・セバスチャン国際映画祭」を舞台に、妻の浮気を疑う大学教授が体験する不思議な出来事を描いたコメディ。

ニューヨークの大学で映画学の教鞭を執る、売れない作家モート・リフキン(ウォーレス・ジョーン)は、有名なフランス人監督フィリップの広報を担当している妻のスー(ジーナ・ガーショ)に同行して、サン・セバスチャン映画祭にやってくる。リフキンはいつも楽しそうな妻とフィリップの浮気を疑っている彼が、クラシック映画の世界に没入する摩訶不思議な体験をすることになる。

本作の原題は『Rifkin's Festival』。アレン監督自身を投影したであろうモートの名字から取った映画祭だ。『8 1/2』をはじめ、『市民ケーン』『突然炎のごとく』『男と女』『勝手にしやがれ』『仮面/ペルソナ』『野いちご』『皆殺しの天使』『第七の封印』の9つのクラシック映画をオマージュしたシーンを存分に盛り込んでいる。つまり本作は、アレン監督による映画愛を描いたアレン監督による映画祭と捉えられよう。

しかし、映画愛を描いたことで、舞台をサン・セバスチャン国際映画祭に設定した必要性が見当たらない無い問題が浮上する。サン・セバスチャン国際映画祭を舞台にするのであれば、なぜサン・セバスチャン国際映画祭なのか明確な理由が欲しい。「映画祭の知名度を上げたい」「全世界の人に魅力を伝えたい」「かつてお世話になった恩返し」など情熱が重要だ。

だが、オマージュされた映画は関係がないと言って等しく、アレン監督自身も「完璧な街で大好き」程度。サン・セバスチャン国際映画祭の特色も伝わってこない。単純にオマージュを放り込みたいのであれば、アレン監督お得意のニューヨークを舞台にした方がまだ理解できる。主人公が映画学の教授という設定も大いに生かされたであろう。厳しい言い方をして仕舞えば、本作はアレン監督の自己満だ。


(C)2020 Mediaproduccion S.L.U., Gravier Productions, Inc. & Wildside S.r.L.

サン・セバスチャン国際映画祭である必要性が無い問題はまだいい方で、そもそもの舞台であるサン・セバスチャンである必要性もないのが大いに問題だ。

アレン監督過去作『ミッドナイト・イン・パリ』はパリを舞台にした映画だ。パリの観光地を回るのはもちろん、パリならではの楽しみ方を提示しており、主人公の性格とマッチしているのも微笑ましい。

さらに100年前のパリにタイムスリップし、偉大なる作家たちと交流する描写も、当時の世界情勢を反映した上で、パリを舞台にする論理に裏打ちされている。普段撮っている場所とは別の土地で撮影する映画として巧緻を極めている。

本作は、ただ単に主人公が妻の不倫疑惑でウジウジし、逃げるようにクラシック映画の世界に入り込んでいるだけ。そもそもサン・セバスチャンまで来て、妻の不倫疑惑に悩んでいるだけでも微妙な展開なのに、最低限の観光地を映さず、観客に堪能させないのは話的にも画的にも質が低い。美食の街、ビーチが強みのリゾート地などの説得力も皆無だ。上記した通り、ニューヨークを舞台にした方がまだ見れた。

また、映画の中に逃げ込むにしてもサン・セバスチャンを舞台にした映画のオマージュであれば担保できそうだが、何の捻りもない。『ミッドナイト・イン・パリ』と比較して仕舞えば、舞台設定が機能してるかどうか、内容にカタルシスがあるかなどの出来具合は一目瞭然だ。アレン監督の志の低さが如実に表れている。

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