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映画評 不都合な記憶🇯🇵

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ある男』『蜜蜂と遠雷』の石川慶監督による、理想を追求する夫とアンドロイドの妻の歪んだ愛のかたちを描いた、SFサイコロマンス。

人類の宇宙移住が進んだ西暦2200年。宇宙に浮かぶ高級レジデンスに暮らすナオキ(伊藤英明)とマユミ(新木優子)は、仲睦まじい理想の夫婦のように見えた。しかし、ナオキは自分を愛していた幸せの日々を取り戻すために、理想像を具現化したアンドロイドのマユミを作る研究に没頭していた。しかし、異変を感じ取ったマユミは、自身の置かれた状況に気が付き始める。

映画全体を通じて、舞台を宇宙船のSF設定である必要性は感じなかった。ナオキがマユミを支配し、地球から遠ざける目的で宇宙船に移り住んでいるのは理解できるが、どこかの研究室付きの豪邸でも成立するだろう。

仮に宇宙を舞台にするのであれば、より閉鎖感や孤独感を出さなければならない。周りを見渡せば真っ暗な背景に星々、地上よりも娯楽や人との繋がりは皆無だ。宇宙のスケール感も追い討ちをかける。また、ナオキによってマユミは支配されている設定であれば、スリラー感やミステリー要素も欲しいところ。

だが、マユミはナオキによって繰り返し作り変えられ、記憶を失っているため、閉鎖感や孤独感はそれほど感じないところから始まっている。後半につれて、ナオキとの関係性が薄いマユミが作られていくことで、閉鎖感や孤独感を抱くようにはなったが、時すでに遅し。

また、スリラー感やミステリー感もほぼ無い。愛とは人とは何かを問う哲学要素が色濃いため、宇宙でたった2人の緊張感は皆無。終盤になって警告を記したメモ用紙をマユミが見つけるのだが、このように前半から謎の伏線が要所要所欲しい。むしろ、マユミが違和感に気づいていくミステリー要素を濃くできたことから、ナオキがマユミを壊しては作り変える描写は見せない方が良かったのでないだろうか。完全に宣伝ミス、構成ミスだ。

伊藤英明の演技が『悪の教典』のようで懐かしさはあるものの、本作の良いところはそれぐらいか。監督の作家性が出てるわけでもなければ、脚本も面白くも捻りもない。宇宙であればスケールの大きい話のように見えるというハリボテかつ記号的な考えで作られた、いわゆる客を舐めた映画だ。


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