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新時代の営業・マーケティング・リーダーシップ論が詰まったTHE MODEL(ザ・モデル)

『THE MODEL マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス』を読んだ。BtoBの営業・マーケティングメインの話だが、著者のリーダーシップ論も学ぶべき点が多かったので、営業、マーケティング、リーダーシップ3つの観点で感想を書いていく。

誰が書いたのか

著者はオラクル、セールスフォース、マルケトとITシステムのB向けサービスの営業/マーケティングに長らく携わり、現在はマルケト日本法人の社長を務めている。初期のアメリカ本社のセールスフォースに入社し、営業プロセスをゼロから作っていった。著者も冒頭で下記のような言葉を残していることから、ゼロから何かを作り上げていく経験こそが、ビジネスマンとしての価値を飛躍させてくれる。

既に動いているもの上手に動かす仕事と、一から何かを作り上げる仕事は天と地ほど違います。そして一から何かを作り上げる過程に携わった人だけが、後にあの仕事は自分がやったのだと実感することができます。

なぜ価値があるのかは下記のように解説している。

成功モデルとは完成したモデルではなく、完成に至る過程で行われた何百何千という意思決定のプロセスそのものだからだ。それを自分のものにすれば、環境や条件が変化しても自ら対応できる。これこそ、私がビジネスで最も大事だと考えている「再現性」だ。

ピックアップ①: 営業プロセスごとに役割は異なるが、共業できる仕組みを作れ

本書は営業のプロセスをマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスと役割によって分け、各プロセスの役割からKPI設定まで戦略レベルから細かく解説している。そして、上で挙げたそれぞれのチームが共業できている組織が強いと主張する。(例えば、顧客と密に接点を持つカスタマーサクセスがマーケティングに顧客の声を共有するなど。)

とは言っても、いつの世も「~しましょう」と言うだけで出来れば苦労はしない。結局は仕組みにしないと絶対に上手くいかない。なぜなら、人は自分たちの目標(KPI)を達成することしか考えず、他チームのことよりも自チームのことを優先する作用が働くからだ。社会心理学者の研究結果によると、これを解決するための最も有効な手当は、別々のチームが共同で作業せざるを得ない目標設定をした時だった。

フィールドセールスがインサイドセールスにフィードバックしたり、インサイドセールスがマーケティングにフィードバックするなど、「逆の流れ」を作ることが重要。そのために本書では、売上をKPIに持つチーフ・レベニュー・オフィサー(CHO)を設置して、売上全体をリードするといいと提案している。

ピックアップ②:新規リードが増えるにつれて重要性が増すリサイクル

次はマーケティングの観点で見ていきたい。

多くの企業で新規獲得をマーケティングのKPIに設定していると思うが、新規のリードは永遠に増える続けることはなく(マーケット規模に依存)、リードが増えれば増えるほど、既存リードへのフォローの重要性が比例して増していく。特にBtoBや高単価のBtoC商材であれば、リードになってからの潜伏期間が長く、その重要性は言わずもがな。

▼本書で示されているデータ
リード全体の10%・・具体的に検討している
リード全体の25%・・将来的にも購入に至らない
リード全体の65%・・将来購入の可能性はあるが、今すぐではない

新規リードが増えれば、獲得コストももちろん落ちていく。事業の開始当初のフェーズはサービスへの関心が高いアーリーアダプターが食い付き、インバウンドで初速を出せる。これが成長フェーズに入ると広告の出稿や著名人とのタイアップ企画などを使って関心が薄い層まで獲得していく必要があり、獲得効率が悪化する。獲得効率が落ちる最大の要因を著者は受注率の低下としている。組織拡大の中で全体の受注率を高い水準で維持するのは至難の業だからだ。セールスフォースですら至難なのだから、これは一定仕方がないことなのだろう。この水準をどこまで下げずに済むか、これが組織力/オペレーション力の勝負であり競合優位性になる部分だ。

では、売上目標が高くなる中で、受注率が落ちてしまうとどうなるだろうか?そう、新規リード獲得の目標が数倍に跳ね上がるのだ。売上目標が2倍になり、受注率が1/2になれば、必要となる新規リードの獲得は4倍になる。これがどれだけ大変なことかはマーケティング担当者であれば百も承知だろう。さらに、新規リードは必ず頭打ちになるということを考えると、手をつけるべきは既存のリードということになる。これを本書ではリサイクルと呼んでいる。

下記はBtoBでよくある顧客ライフサイクルの単純ケースだ。既存のリードとは、リードから商談、商談から受注の間で落ちてしまっているリードのことを表す。この顧客に対して適切なタイミングでメールを打ったり、二次接触のためのイベントを開催するなど、受注へ転換することができれば、新規リードへの負担が大きく減らせる。

リード → 商談 → 受注

既存リードへのフォローアップを意識するかしないかで、まるでビジネスの組み立て方は異なってくる。

ピックアップ③:リーダーはマグネットのような存在になれ

最後はリーダーシップについて書く。本書の後半になるが、著者のリーダーシップ論で本質的だと感じる部分が多かったので、ピックアップしたい。

1.  ビジネスにおいて最も重要視すべきは「実行力」
2. 「自分がやったほうが早い」と考えるリーダーは採用しない
3. スキルではなく理念・ビジョンに共感した人材を登用しろ

1. ビジネスにおいて最も重要視すべきは「実行力」

USJを立て直した森岡さんも同じことを言っていたが、ビジネスにおいて最も重要視すべきことは「実行力」。著者も下記のように記載している。

世の中には経営に関する理論やベストプラクティスがあふれているにも関わらず、成功する会社とそうでない会社に別れるのは、その「実行力」に差がつくからだ。

「言うは易く行うは難し」の如く、実行しなければ何もしていないのと同じということだ。自分は何を実行したのか、何を生み出したのかは常に問い続けたい。

2. 「自分がやったほうが早い」と考えるリーダーは採用しない

いくら個人としての能力が高くても「人に任せるより自分でやったほうが早い」と考える人は、自分1人のキャパシティ以上に成長できない。それどころか周りの人たちをスポイルしてしまい、結局チーム全体としての能力を減じることになる。

非常に耳の痛い話だ。ここで重要なのは一歩引いた目線で見ること。つまり経営者的な視点で見ることだ。組織の中で仕事をするのであれば、必ず個人で仕事をするよりもほとんどの場合において、チームで仕事をした方が生産性が高く、成果も出る。一緒に働くメンバーの可能性を最大化させることがリーダーの最も重要な仕事になることは言うまでもないだろう。

この視点を持って仕事が出来るか否かが、エース級のプレイヤーからリーダーへと進化を遂げる際に最も重要なファクターになるのだと思う。

そして、マネジメントに突出している人材に関して、下記のように表現している。

坂道を転がる雪だるまのように、みるみる組織を大きくしていく人たちがいる。この人たちは自分自身が優秀であることはもちろん、一緒に働くメンバーの良いところを見つけたり、つなぎ合わせたりするのがうまい。

私の働く会社でもこのタイプのリーダーがいて、気づけばその人がいなくても強固なチームが出来上がっているといったことがあり、まさに理想のリーダーと言えるのだろう。

リーダーになる前は自分自身が成長することに邁進するのに対して、リーダーになった瞬間からチームのメンバーを成長させることに全力を注がなければならない。

3. スキルではなく理念・ビジョンに共感した人材を登用しろ

これは、今の会社が社員5名から100名以上の規模に成長する中で非常にその重要性を痛感している。

企業は多かれ少なかれピラミッド構造を取っているので、一現場担当者であれば影響の範囲は限られるが、部門や組織のリーダーになると、その下すべてに影響を及ぼしてしまう。

これは下記の理由による。

組織は最も上位概念に理念・ビジョンが存在する。これは創業者の価値観とほぼイコールであり、ビジョンを達成するために企業活動を行う。従って、役員、リーダー、メンバーそれぞれが理念・ビジョンに共感した上で共通のゴールを達成しようとしないと軸がブレて、成果を最大化できない。

しかもピラミッド構造になっているので、上の役職の人から価値観の浸透度の重要性は高くなる。根本的な価値観が違うと組織としての一体感が出ないため、どんな時でも理念・ビジョンに共感している人材を登用すべきなのだ。

その他

その他マーカーを引いた箇所がいくつかあるので、メモ的に貼っておく。

人を成長させるのは、常に現状を上回ろうとする向上心だ。リーダーは組織全体の成長のために、自分自身とチームのメンバー双方にストレッチゴールを設定することが求められる。
自分もマネジメントとしての経験を積むにつれてわかってきたが、役職が上になればなるほど部下は意見を言ってくれなくなる。しかし本当は、どんどん自分の意見をぶつけてほしいし、それに対する議論が起きることを望んでいるものだ。自分が確固たる意見や信念があるなら、臆せずそれをぶつけることの重要性をこのやり取りから学んだ。


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