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成長の可能性を信じる、という話

先週、無事Liberal Arts HUT powered by 米国大使館 & HLABのプログラムが終了しました。米国名門大の学生たちと、1週間に渡って中高生の皆さんにプログラムを提供してきました。WeWorkやTokyo Global Gatewayといった学びや交流に適した場にてプログラムを開催できたことも非常に貴重な機会でした。

今回のプロジェクトは、私に加えてHLABの大学生スーパーインターンの小野くんとJustinが、共に中身が何もないゼロ段階から全力で関わってくれ、非常に良い結果となりました。また、合計200名以上の中高生の皆さんに学びの機会を提供できました。今後の行動のきっかけとなったことを祈っています。

インターンの2名とプロジェクトを振り返っている際、改めて高校生の可能性に驚かされた、という話が出ました。プログラムはAll Englishで開催され、(カスタマイズされているとはいえ)大学で学ぶ内容をレクチャーする時間もあり高度だったはずで、英語力が必ずしも高くない中でそれでも食らいついてきてくれたし、最後には理解して高いモチベーションを保っていた、という点です。今回はここをちょっと深ぼってみたいと思います。

キーとなる「ちょっと年上のお兄さんお姉さん」の存在

今回のプログラムでの設計思想をちょっぴりお伝えします。プログラム中は以下のグループで活動していました。

①米国大学生(セミナーを教えるメインの先生)
②日英バイリンガル大学生(セミナー・アシスタント)※ただし英語のみ
③中高生(~8名)
④英語話者エージェント ※一部プログラムのみ

①の大学生が大学の専門分野を全て英語で教えるなかで、適切な平易な英語への言い換えや日本文化を前提に置いたヒントを②の大学生が出していくイメージで役割分担しています。同時に質問を投げかけて返ってこない際に一緒に生徒の立場になって考えてみて、みんなが聞きたいであろう質問を投げかける、というような役割も求められます。

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セミナーを教えるBrown大学のAlexとアシスタントのManami

この②の大学生は、日英バイリンガルの大学生に依頼しており、(基本的に英語しか使わないものの)中高生の日本語の質問も理解可能です。そのため、中高生からすると話しかけやすい「ちょっと年上のお兄さん/お姉さん」ということになります。この大学生メンバーは、高校生の緊張や学びへのハードルがガッと下がり、高校生のモチベーションと可能性を引き出す大事な存在です。(ちなみに、みんなサマースクールを一度経験しており、トレーニングを過去受けているので、メンターとしての経験も豊富、ということは一応付け加えておきます!みんな、ありがとう!)

加えて、③の中高生がグループ、ということも重要です。集団で受講して、そこで他のメンバーの発言を聞いたり対話が起きたり、みんなで意味を理解した上で用語を復唱したり、と、ひとりだとできない行動をプログラム中には入れ込んでいます。

最近接発達領域の力強さを改めて感じた

今回プログラム中の中高生のイキイキとし、精一杯伝えようとしたり理解しようとしたりする様子を見て、高校生の可能性を感じたわけですが、これは教育学で言うところの「発達の最近接領域(zone of proximal development:以下ZPD)」の力強さゆえだと気づきました。

ZPDはロシアの心理学者ヴィゴツキーにより提唱された子どもの発達理論ですが、ヴィゴツキー(※1)によれば、ZPDとは

It (The zone of proximal development) is the distance between the actual developmental level as determined by independent problem solving and the level of potential development as determined through problem solving under adult guidance or in collaboration with more capable peers.
 発達の最近接領域は、自分だけで問題を解決する場合に規定される現在の発達水準と、大人の指導がある、あるいは自分よりも能力が高いピア(仲間)との協働により問題を解決する場合に規定される潜在的な問題解決の水準との隔たり(粗訳)

ということや、続けて

The zone of proximal development permits us to delineate the child's immediate future and his dynamic developmental state, allowing not only for what already has been achieved developmentally but also for what is in the course of maturing.
 発達の最近接領域は、子供の近い将来の状態に加えて、発達において子どもが既に到達したものだけでなく成長過程に今あるものを考慮するような、発達のダイナミックな状態を規定することを可能にしてくれます。(粗訳)

ということを述べています。発達において「既に獲得したもの」だけでなく「これから獲得できるもの」にフォーカスしており、さらに雑にまとめると

ひとりでは到達できない発達レベル < 適切な指導の下や、みんなとなら到達できる発達レベル

ということを言っていると理解しています。だからこそ、適切な支援を教える側はしないといけないし、ひとりよりみんなでやってみることが大事、ということになります。(ちなみにヴィゴツキーは言語獲得の段階での観察からこれを導いたため、言語習得過程という意味で今回のプロジェクトと相性がとても良いです。)

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とはいえ、適当な指導や誰でもいいから人を集めりゃ高いレベルに達するわけもなく、このときに大事になってくるのが、足場かけ(Scaffolding, Brunerらによる提唱)と呼ばれる適切な支援で、ここも大事になってきますね。

HLABにおいては、ピア・メンタリング(仲間同士お互いから学び合うこと)を大事にしており、理論的にはこのZPDもひとつの論拠です。今回のHUTプロジェクトでも、個別指導だとダメでしょうし、バイリンガル大学生による適切な支援ともいえる「足場かけ」がなければ、効果は限定的なものになってしまっていたのかもしれませんね。

ひとりでは到達できないレベルに適切な支援と仲間の力で到達できるのだ、とその成長の可能性を信じることが大人になっても大事なのは、大前提なのは忘れちゃいけませんね!

※1:Vygotsky, L. S. (1980). Mind in society: The development of higher psychological processes. Harvard university press.

P.S. 私は教育学の専門家ではないので、本や論文、それと実践の中での理解から今回は書いてみました。ちゃんとここらへんも本腰入れて勉強したい2020年です。笑

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