なぜ今、寮に住む「ボーディング」が注目されるのか?(前編)
こんにちは、HLAB, Inc COOの高田です。日本初の「共に住み学ぶ寮」としてレジデンシャル・カレッジ SHIMOKITA COLLEGEを東京・下北沢につくりました。レジデンシャル・カレッジってなんぞ?寮じゃないの?という方もいらっしゃるかもしれません。詳細は別のnoteに譲るとして、なぜ今、ともに住む「ボーディング」なのか?をここでは説明していきたいと思います。
実は、現在、「全寮制」のボーディングスクールが日本に少しずつ増加しています。寝食を共にしながら学び合う、「共に住み学ぶ」という考え方が、改めてこの時代に(特に、コロナ禍において)注目されているのです。
続々日本国内にも生まれる「寮」を持つ学校たち
全寮制と聞くと一見、中高生以上かと思いきや、2020年4月には広島になんと「小学生向け」全寮制の学校、神石インターナショナルスクールがオープン済。幅広い世代に対して全寮制の教育を提供する場が日本国内に増えているのです。
ここで、知る限り、2021年の前後3年間で小学生~高校生向けの「全寮制」の学校のうち、最近できた(あるいはこれからオープンする)学校を列挙してみます。(学校教育法で「学校」とされるいわゆる一条校以外も掲載しています)
2018年:国際高等専門学校(石川県)【高】
2019年:広島県立広島叡智学園(広島県)【中・高】
2020年:神石インターナショナルスクール(広島県)【小】
2022年:国際高等学校(愛知県)【高】
白馬インターナショナルスクール(長野県)【中・高】
インフィニティ国際学院中等部(鹿児島県奄美大島)【中】
英ハロウ・スクール安比/Harrow School(岩手県)【小・中・高】
2023年:神山まるごと高専(徳島県)【高】
英ラグビー・スクール/Rugby School Japan(千葉・柏の葉)【小6~高3】
うーん、凄い(笑)観測範囲だけで9校ですよ。すごいペースです。
しかし、なぜ、これだけのボーディングスクールが設立され、そして注目されるのでしょうか?このnoteでは数回に渡り、「ボーディング」の注目される理由とその価値について深堀りしていきたいと思います。通り一遍等な説明はGoogleで検索してもらうとたくさん教育メディア的なところで出てくるので、今回は違った角度から皆さんに意見をお伝えしたいと思います!
なぜ、大学に高い学費を払ってまで通うのか?
皆さんご存知の通り、このコロナ時代、自宅からのリモートワークやソーシャルディスタンスなど、「個人」で他者と物理的・直接的に会わずに生活することがスタンダードの社会となりました。
現在、世界の教育トレンドとして、ムークスというものがあります。MOOCs(Massive Open Online Courses)と書き、日本語では大規模公開オンライン講座、などと訳されるものです。スタンフォード大学が最初に始め、そのあとでMITやハーバードといったところが相次いで参入していきました。
そこからさらに、edXやcourseraなど、無料で海外の大学の授業を受けられるプラットフォーム・サービスが公開されました。日本でも東大などが授業を公開しており、世界中の人が受けられるようになっています。日本国内の高校生向けオンライン教育サービスでいえば、有名どころは「スタディサプリ」でしょう。無料ではないものの、月額1,980円で一流講師の授業を受けられ、大学受験対策ができてしまうのです。
つまり、2022年現在、無料ないしは従来よりも相当な低価格で、世界中どこにいたとしても超一流の授業が受けられる世界に突入しています。加えて、新型コロナウイルスによりアカデミックなコンテンツをオンラインで学ぶ、というオンライン授業への流れを加速させています。実際、SHIMOKITA COLLEGEに住んでいる大学生も、授業のほとんどがオンラインとのこと。
このように、多くの情報が無料で手に入り、しかもスター教員の授業や、良質で分かりやすい授業を無料で受けられる世の中で、なぜ「高いお金を払ってまで学校に通う」のでしょうか。
学費は、日本国内の国立大学であれば70万円程度、私学は100万円以上を超えてくる状況であり、決して安いとは言い切れません。アメリカの大学なら年間で5~600万円(生活費を入れたら900万円も超えてくる)ほどの金額感です。そこまでの金額を支払い、学校に通う理由は何なのでしょうか。しかもコロナ禍のこの機会に全部オンラインでもいいんじゃないでしょうか。コロナ禍になって、学校が提供する価値はなんでしょうか?
こういった問いを今、世界中の大学や教育機関が考え始めています。コロナ禍になり、その問いにどれだけ真摯に答えられるかも試されています。実は、コロナ禍でオンライン教育が発達したことは間違いありませんが、同時にやはり「対面での学びの価値」も見直され始めているのです。
ハーバード大学のミッション・ビジョンから見る「住む」ことの価値
前述の問いに対する答えを見つけるため、注目したいのはアメリカで「最古の大学」と言われるハーバード大学。ミッションとビジョンを一部見てみましょう。(ちなみにコロナ禍前から、このミッション、ビジョンです)
超ざっくり日本語訳すると…
注目すべきは、ミッション、ビジョン共に「居住」することが文章に含まれていることです。異なる人生を歩んできた他者生活を共にすること、そして全寮制のレジデンシャル(居住型)教育。つまり、ハーバードは、オンラインで授業全部受けるだけでは意味がなく、住むことが大事で、そこで自分と異なる人と交流するのってめちゃくちゃ大事なことだよと強調しているわけです。
実際、edXなどにおいて、ハーバードの授業自体はオンラインで無料公開されています。ただし、オンライン講座を受講するだけではハーバードの本当の価値は享受しているわけではない、というメッセージなのだと思います。「全く違うバックグラウンドを持ち、全く異なる人生を歩んできた人たちと一緒に暮らし、そこで学びあう」ことこそが、ハーバードの提供する価値というわけですね。
そうなると、やっぱり今後、学校が売っていくべき顧客体験というのは、こういった対面での居住型教育と、そこで生まれるコミュニティにおける密な体験となります。コロナ禍以前から、このような考え方で大学を運営しているハーバードをはじめとする海外トップスクールは、それゆえに物理的な場を重視しますし、寮を必須とするのです。細かな設計にまでこだわり、場での異なる個同士の偶発的な交流から、学びが最大化される仕掛けを作り出しています。
例えば、ハーバード大学のとある寮では、自分の寮や部屋に行くときには、必ず食堂を通って行くような構造になっており、交流が生まれやすい。また、RA(レジデントアシスタント)と呼ばれる制度を設計し、上級生が下級生の面倒を見ていくという仕組みも作り上げているのです。ここまで、こだわり設計します。
ハーバード出身のFacebookの創設者、マーク・ザッカーバーグはFacebookのアイデアを最初持っていたものの、実際に形にしていく上では、ルームメイトや同じ寮に住んでいる仲間たちとスタートしたというストーリーを聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。ハーバードに寮がなかったら、Facebookは存在しないと言っても過言ではありません。
寮での偶然の出会いから、何か新しいものを生み出していってほしい。そういったことが起こるようなデザインを意図的に作るというのが、世界の大学が意識していることなのです。
目の色・髪の色だけが「多様性」ではない
こうした世界の流れを受け、私たちHLABも「多様な人と交流することによって、様々な価値観や考え方、選択肢を知る」ということを10年前の創業時から非常に重視しています。で、ここで鍵となってくるのが「多様なバックグラウンド」そして、そこで起きる「偶発的な交流」であり、この2点の質をいかに担保するかが教育機関、教育に携わる人間の腕の見せ所です。
ただ、ひとつ強調しておきたいこととして、「多様性」の定義があります。ややもすると、私たち日本人はすぐに顔の色や目の色、人種、国籍、言語といったことを多様性の一部だと思ってしまいがちです。しかし、決してそんなことはないのです。大切なのは、「各々が異なる人生を歩んできたのだから、価値観も情報も、全然違うものを持ち合っているよね」という考え方です。お互いがときにメンターであり、メンティー(メンタリングされる側)になって常に学びあう。これがまさにHLABが掲げる「ピアメンターシップ」というものです。
アジェンダのない会話の重要性
こういう話をすると「住む必要はないのでは」とか「コワーキングスペースでいいのでは」という方がいらっしゃいます。確かに、最低限そういった日中の交流でも、ある程度の学びは得られるでしょう。ただ、そこにはアジェンダが常に存在していませんか?
「アジェンダのない会話」というと、効率的なコミュニケーションとは対極にあるものです。目的のない会話。たわいもない、相手の立場も仕事の状況とも関係ない、感情とか好き嫌いに基づいて発言をしていいそういう場。なんでやねんって肩をどついたっていい、そんな身体性を伴う会話だって許される。寮の食堂で飯食いながら話そうよ、っていうのだって許される。特にコロナ禍ではこの「アジェンダのない会話」の機会がどんどん失われている気がします。
ただいま、おかえり。この毎日何気なくやっているやりとりの中で「最近どうよ」みたいなアジェンダのない会話が発生します。そこで思いも寄らない質問をされたり、誰かの知らない一面が見えるかもしれない。そこから新しい気づきにつながるかもしれない。そんな可能性を秘めているのが、アジェンダのない会話であり、だからこそ重要なんです。
どんなライフスタイルの人であろうと、家に寝るときには帰ってくるし、どんな人間でもご飯は食べる。寮にはこの「寝」「食」の機能が両方備わっていますから、偶発的な交流、そしてアジェンダのない会話が起きる可能性がどんどん上がっていきます。
「そこでの偶発的な出会いや対話が人生を変えるきっかけになるかもしれない」。そう信じて、世界中の教育機関は寮を備えているし、今、ボーディングが改めて注目されているのではないでしょうか。
後編では、ボーディングの価値はなにか?を言語化していきます。
私達が徹底的に細部にまでこだわり設計、運営している日本初のレジデンシャル・カレッジ SHIMOKITA COLLEGEも、是非よろしくお願いします!高校生、大学生、社会人が共に住み、学んでいる場です!
読んで面白かったら、是非サポートしていただけると嬉しいです!大学生との食べ語り代にします笑