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Part4:日本におけるB2B Fintech

日本一便利な法人向けオンラインバンクを目指すFinswer Bank(フィンサー
バンク)を作っている、株式会社Finswer COOの田口です。

前回は、なぜグローバルにB2B Fintechが盛り上がっているのか。実際に世界にはどのようなプレイヤーがいるのか、といった点について解説しました。
今回は、日本におけるB2B Fintechの現在地を深掘りしていきます。

日本の現在地

前回の記事では、グローバルのB2B Fintechは「支出管理領域」と「銀行領域」の2つの領域が、相互に干渉し合いながら発展してきていることをまとめました。

それでは日本における現在地はどのようになっているでしょうか?
主要なプレイヤーをまとめてみると、以下の図のようになります。

左側の支出管理領域については、すでに多くのSaaSが登場しています。図で示した企業以外にも、Moneyforwardさんやfreeeさんなどが、既存サービスとバンドルして機能提供をしている領域でもあります。
(以前のこちらの記事を参照)

しかし、欧米と比べて右側の、銀行領域のサービスが少ないことがわかると思います。また、銀行領域に括りはしたものの、BPSP(請求書をクレカ払いにすることで支払いサイクルを先延ばしにできるサービス)やファクタリングなど、厳密な意味での「銀行」との協業が不要な事例がほとんどです。

なぜ銀行領域に挑むFintechが日本に少ないか

こうした欧米と日本との違いはなぜ生まれているのでしょうか?
直接的な理由としては、銀行のAPIの整備や利用が進んでいないことだと考えています。
どういうことかというと、日本でFintech企業が、口座開設や預金、送金といった銀行機能を顧客に提供するためには、銀行との提携が不可欠です。銀行業の免許をスタートアップが取得するのはあまりにハードルが高いからです。
(本筋からズレるマニアックな論点として、Paypayのような資金移動業者としてB2B Fintech事業をやるという選択肢もあり得ます。しかし比較的ハードルが低い第二種資金移動業者では送金額が100万円以下に限定されるなどの課題もあり、現実的にはなかなか難しいのではないかと思われます。)

この「銀行との提携」の意味するところは、システム的には、銀行システムとAPIで接続し、Fintech事業者のサービスを通じて、ユーザー企業が銀行機能を利用する、ということになります。

ところが特にB2Bの領域では、

  • 法人の口座開設を可能にするAPIを提供する銀行がこれまで日本には存在せず(弊社が提携させていただく北國銀行さんが日本で初めて開発中)、

  • 振込を行うためのAPI(業界では更新系API、といいます)も、整備が遅れていたり、整備はしていると対外公表していても、「これまでAPIを利用した経験がないこと」などを理由とするビジネス判断で接続をしないケースも多い

というのが現状でした。

そのため、そもそもFintech企業が口座開設や預金、送金といった銀行領域を提供することができなかった、ということになります。

もっとも、これだけ書くと「なんだ、銀行が悪いのか?」ということになってしまいますが、必ずしもそうではないと考えています。
もちろんAPIの整備には開発費用がかかりますし、その維持コストもかかります。それを負担するのは一義的には銀行側です。ベンダーロックインされており、自行だけで自由な開発をできないという側面もあります。
そうした中で、Fintech企業側からの需要が少なかった、ということも原因の1つでしょう。銀行側にとっても明確な経済的メリットが少ない中では、いわば鶏と卵状態にあると言えます。

だからこそEU圏では行政が規制によって銀行APIの整備を進めてきた側面があります。また、アメリカは最近までオープンバンキングにかかる制度はありませんでしたが(今年末に施行予定)、それでも圧倒的な市場規模の大きさとスタートアップの旺盛さ、それに銀行のシステム基盤の作りが日本と比べて疎結合だったため(伝聞です。悪しからず)、うまく進んできたと言えるでしょう。

(海外の法整備はMF廣瀬さんの以下のnoteが参考になります)

それでも大事な銀行領域

このように銀行領域におけるFintechの台頭が日本においては遅れているわけですが、しかし銀行領域こそFintechの本丸です。
例えば、年間のB2B決済金額は約1,100兆円と推定されています。

出典:令和5年度 商取引・サービス環境の適正化に係る事業 (クレジットカードのインターチェンジフィーの標準料率公開に伴うモニタリング調 査及び加盟店負担低減・B2Bキャッシュレス取引拡大に向けた調査事業) 調査報告書, https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2023FY/000797.pdf

また、取引先への支払い手段として利用している決済方法を調べた調査では、79.8%が銀行振込を選択しています。

出典:アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc., 「企業間決済(B2B)のキャッシュレス化」に関する2024年最新調査,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000049.000099463.html

この調査はあくまで手段として利用しているかどうかを聞いているものなので、先ほどのB2B決済金額約1,100兆円の内数を推計することはできませんが、感覚的には、金額規模の大きな取引ほど銀行振込で行っているのではないか?とも考えられます。
もちろん、日々の通信量の支払いやECサイトでの物品の購入などでクレジットカード決済比率は今後も高まるでしょうが、あくまでB2B決済の主流は、銀行振込であり続けるのでしょう。

そんな理由もあって、僕たちのFinswer Bankは銀行領域も含めた事業展開をしようとしているのです。

まとめ

今回は日本におけるB2B Fintechの現在地をまとめました。
前回まとめた欧米の動きと比べれば遅れている感は否めませんが、プレイヤーも出揃いつつあり、かつ銀行側のAPIの整備も少しずつですが進んでおり、今後伸びていく余地しかない領域です。

ところで今回の記事でも触れたように、銀行領域でFintech事業を営むのであれば、銀行との協業は不可欠といっても過言ではありません。しかしそもそも、銀行とは何なのでしょうか?
いわゆるメガバンクと言われる三菱UFJやSMBC、みずほ、りそなの他にも、各都道府県には地域銀行があります。それ以外にも信用金庫や信用組合などの地域金融機関も存在します(これらは銀行ではありません)。

いまは金融業界の外にいる方にとっては、「銀行」は身近なようでよくわからない存在なのではないかと思います。

そこで次回は、こうした「銀行」の基礎知識についてまとめていきます。


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