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ロマンポルノ無能助監督日記・第32回[『家族ゲーム』で松田優作から「最高のチーフ」と言われた訳は・・・]

『家族ゲーム』の企画者である山田耕大著「昼下がりの青春」によると、最初に森田さんの希望で、家庭教師吉本役を桑田佳祐にオファーしたところ、サザンオールスターズを発掘してアミューズを立ち上げた大里洋吉社長が「シナリオは私はすごく気に入って、桑田に読ませたら絶対やるだろうし、音楽そっちのけで映画に没頭されて我々はオマンマの食い上げになるから、今回は勘弁して欲しい」と頭を下げて断ったのだそうである。

その後、松田優作が興味を持っているという情報から、「大スターがまさか」という思いで新宿のバーに会いに行くと、ご機嫌に立ち上がって森田さんに握手を求めて来た、という事である。

後から話を総合すると、優作さんは森田監督の時は、最初から最後まで機嫌が良いが、他の監督の時は、そうもいかないようで・・・
森田組のスタッフに対しては、誰に対しても柔らかい物腰であるが、他の組になるとそうもいかなかったようである。

この年の暮れに、僕は『宇能鴻一郎の濡れて打つ』で監督デビューするが、3年後の86年、ロマンポルノのロケハンで初台の産業試験場跡地(現在はオペラシティとなっている)に行くと、松田優作主演・小池要之助監督『ア・ホーマンス』の撮影中であった。

そこは敷地が広く様々な画が撮れるので、多くの撮影が入っていて、一時期「日本のハリウッド」などと呼ばれたこともあり、こちらがロケハンで来ても、撮影は奥の方で行われているから、すぐに現場が見えるわけではない。
優作さん主演でスタッフにも共通の知り合いがいるという情報で、いい思い出のはずの『家族ゲーム』のチーフが監督になって、「たまたま、そちらが撮影と同じ場所にロケハンに来た」という偶然を利用して、今後のためにも挨拶しておこうかと思って、やって来た小池組のスタッフに聞くと、「さきほど、小池組松田組になりました」
と言って、悲壮な顔で現場に戻っていった。
つまり、小池監督がその日にその現場で解任となり、以降は松田優作監督で進行する、という意味であった。
そうなると挨拶に行ったら小池監督解任→松田監督新就任を祝福するみたいなことになってしまうし、こちらの挨拶を受け入れる余裕があるか分からないから、現場に近づかないように、ちょっとだけロケハンして帰った。
公開でも松田優作監督作となっている。(86年10月10日公開)

何をするのか予測不能な優作さんは、芸風でもある。

『家族ゲーム』のクライマックスと言えば、次男・茂之の西武高校への受験が成功しての家族パーティに吉本も参加、四人がけのテーブルに五人が座ってギチギチの窮屈な様相を捉えながら、最初はみんな楽しく食事しているが、父親・孝助の「世間一般的な常識」、つまり、良い高校へ行って良い大学にいけば良い人生が得られるというありきたりな考え方で、父親の権威(滑稽だが)を見せつつご機嫌に吹聴している姿、それが当たり前の理屈としてこの家族に覆いかぶさっている空気を多分不快に感じたらしいが表情を変えない吉本が、わざと孝助に肘をぶつけたり、ワインをこぼしたりしながら、それでも孝助が気づかないので、無表情のまま食卓を滅茶苦茶にしてしまい、やっと「あんたさっきから何してるんだよ」という孝助を殴り倒し、更に母親・千賀子も、茂之も長男も家族全員空手チョップで殴り倒して食卓を斜めにして全ての食器を落とし、別に感情的になった訳ではなく一仕事終え、お疲れ様でしたという感じで、普通に下手に去ってゆくという7分間のワンカットであろう。
最後まで優作が何をするのか予測不能なままがキープされる。

これは1日がかりで2テイク撮ったという記憶だったが、最近1テイクだと分かった(宮川一朗太と対談で判明)のは、僕は特にやることないので、現場進行はサードでカチンコを叩く明石知幸に任せて、食堂でお茶のんでいたからだった。
憧れの「現場はセカンド以下に任せて、チーフは食堂でお茶をのむ」というスタイルで小さな幸福を感じていたが、落ち着かなくなりセットの前まで行くと、明石が出て来て不機嫌そうに「もう一回やりますよ」と言った記憶だったが、真実は「まだ本番行ってませんから」であって、時計を見ると12時だから、自動的に「じゃ、メシ入れようか」と言ったら、その僕の“官僚的態度”に明石がカチンと来たらしく「芝居見ててよ、続けてやるから」と言って、中に入っていったのは正しく、その後本番で、一発OKだった、という・・・午前中はリハーサルで、カメラは回らなかったのであった。

つまり、やることないと言っても、チーフは現場進行を見守り、キャストとスタッフの空気を読みながら、12時過ぎても昼食時間をおして、終わったら2時くらいになるかも、だが、そのままこのシーンを撮り終えた方が皆の気分が良いか、特に優作さんの気分が良いか、昼食を入れて休憩して、午後から落ち着いて撮影に挑んだ方が気分が良いのか、その場で判断する義務があったというか、当然、テスト続行でメシ入れる選択肢は無かったのに、それ最初から明石に任せて自分は食堂でお茶飲み、昼になってやって来て、まだ本番行ってないのに「メシにするか」というのでカチンとなったわけで、その気持ちはわかります・・・ヒドいよね・・

優作さんとしても、ここは最大の見せ場で、それまで不穏な空気を発散していた吉本が一気に爆発する姿を、森田流の映画デザインのなかで、ありきたりの爆発では無い爆発でも予測不能なのはキープしたいから、見えてはいなくても朝から相当な緊張をしていたのであろう。
僕は、その見えない緊張を嗅ぎとって、本能的に逃避していたのであったのだな・・・

現場を見てないのは、7分ものあいだ咳払いもしないでセットに立っていられる自信が無かったもので・・・
終わったのが1時過ぎか、2時になっていたかは分かりません・・・

優作さんとしては、このシーンが4週間の撮影の3週目の最後に来ているのが、とても気分が良かったようなのである。
そこにチーフ助監督がいたかどうかは関係なかったようだ。
「普通は、こういうシーンは最後に組むもんだが、これを3週目にやって、あとの1週間は消化試合にするというスケジュールの組み方は素晴らしい。最高のスケジュールだよ、金子は最高のチーフだよ」
と言ってくれた、というのは誰から聞いたんだっけな、森田さんだったっけな。
いやあ、ただ由紀さおりさんのスケジュールが3週間しか無かったので、特にそんなことを考えて組んだ訳では無かったんだが、そう取ってくれるならラッキー、要領の良い金子くん。
後々、ばったり出会ったりした時でも、優作さんは、僕に対して「最高のチーフ」として応対してくれたのであった。だから、『ア・ホーマンス』の現場にも、行こうと思ったんだが・・・

更にその『ア・ホーマンス』の年だが、カミさんとの初デートは有楽町スバル座での『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の2回目であったが、この時、最前列に座っている優作さんをカミさんが発見。「あれ、松田優作じゃない?」と。
それでカミさんを背後に挨拶に行くと、
「おぉ金子ぉ、これ、はじめて?」
とスクリーンを示す。
話題の“ザンパラ”を、初めて見に来たの?という意味で、優作さんは何回目だったのであろう。
「いえ、二度目です」
と言うと、ニッコリ笑い、
「そうか、最高だろ」
と言ったのであった。お前も二回目で女連れて来たんだよな、という表情だった。

『家族ゲーム』を今見直すと、子供に、“受験を勝ち抜いて上層人生を目指せ”と教える日本の「平均的家族」長である父親の考え方って、世の中に毒された実は滑稽な思想で、それを伊丹さんが面白く誇張気味に演じていて、家族たちはどこか反発しているように見えても結構従って、そんな思想は脆弱で壊れやすいはずなのに、巧妙に仕組まれて空気のように蔓延しているから、どう吹き飛ばせばいいかの回答は無い、という“感覚”というか“世界観”が、映画としてデザインされ、その中で常に違和感を発散している松田優作が存在することで、デザインが際立っている・・・と、いうようなことを僕は感じた。
(撮影現場で、森田さんとアイコンタクトで「伊丹さんて上手く無いな」と感じたようなことは、出来上がりでは全く感じさせず、優作さんとの良い対比になっている)

僕の家庭でも、高校受験を控えた中学時代は「自分は何番か」に拘り、自分の「顔」ですら「平均点からすると良いランクだろう」なんて考え方をしてたし、父親も「東大合格高校ランキング」が載っている週刊誌を買って来て、それを何度も見て「三鷹高校は東大3人か、でも浪人だ」と嘆いていると、母親は「順位に拘るなんてバカね」と言っていたにも拘らず、「成績上げて良い高校に行き良い大学へ良い人生へ」という空気には誰も逆らえない。
それで、「期末テスト叙事詩」なる小説をノートに書いていた。そこでは「勉強・スポーツ・顔」が“クラスの階級を分けている要素なのだ””中三2学期の期末テストで人生は決まる”と論じて、自分なりに世の中の真実を見抜いたつもりであった。
学芸大学に進学したこともあり、「教育問題」が「日本の問題」なんだという「問題意識」を持っていた。

それがオリジナル脚本「冬の少年たち」に成長していって城戸賞に応募して落ち、通底するテーマをベースにしながら、森田さんは、もっと軽やかに映画にデザインしてゆくのを目の前で見ていた、ということになるだろうか・・・これは、実は「作家として」はショックなことであったのだが、その時は気づかないフリをしていたかも知れない。

そこから40年近く経って、受験競争自体が、今やノスタルジーに見える。
社会が固定化して、学校でいい成績取っても、上層の人生になるとは決まってないと分かってしまい、社会へ出る前の若者の閉塞感が今の空気を醸造している。
松田優作がブチ壊せるような空気では無い。
ここにある軽さ、明るさは、「もっと流動的だった日本社会」へのノスタルジーを感じさせる。
「受験競争が社会の問題だ」ということに対してノスタルジーを感じてしまうとは、40年でなんちゅう面白みの無い社会になってしまったんだろう・・・と思う。コロナの閉塞感だけでは無く、それ以前から日本社会は完全に変質していた。
『家族ゲーム』は、今、そんなことを感じさせる。

茂之が通う中学校の描写は、撮影現場も楽しいものだった。

伊藤克信の先生が、テストを点数の低い順に発表して、低い点数の3人に対して「校庭に取りに行け!」と、窓から丸めて中庭に投げるが、落ちてゆくテスト紙をカメラで追いかけるという撮影はせずに、テスト紙のまだ入っていない無人俯瞰カット(人工芝の緑がデザイン的)の後、良きところに丸めたテスト紙を配置して、そこに生徒がフレームインして取って帰る俯瞰を繋げる、という撮り方に感心した。
微笑ましいこの先生のやり方も、今だったら大問題だから、あり得ない描写ということになるだろうが。

父親・孝助が吉本に、クルマの中での密談で、「順位が1位上がるごとに5万円」というファイトマネーを提案したこともあって、茂之の順位は次第に上がって(どう教えているかの具体的描写は無いが)、西武高校受験も可能なレベルになってゆくが、本人はワンランク下の神宮高校に願書を出す。

その理由は、事あるごとに茂之を集団でいじめるグループのボス・土屋が西武高校に行こうとしているからだ、と分かってくる。
しかし、そのいじめに対して、吉本が手ほどきして、殴り返す方法を教え、その通りにやって単独で土屋を殴り倒すと、今度は土屋が茂之に「やり返されたことは秘密にしてくれ」と、泣き言を言って来る。

この土屋と茂之の、幼なじみとしての関係も、最初のうちは謎だ。

茂之が日直で、やはりこの映画がデビューである15歳の前川麻子が演じる田上由利子と、朝の教室で二人きりでいる時に、由利子は茂之に「沼田くん、好き」と告白する。
前川麻子は、その後小説を出したり、ロマンポルノで『母娘監禁・牝』(87年)にも主演したが、この頃は、少女としての色気が異常なくらいあった。
だから、この「沼田くん、好き」も、ゾクゾクしてしまうが、茂之は一瞬の間を置いて辺りを見廻すと「土屋に頼まれたな」と言うのだった。
(前川麻子は高校生の時、劇団「品行方正児童会」を立ち上げ、僕も見に行った。
『それから』で映画デートもした。TV『マイ・フェア・レディーズ』ではヤク中の女子高生役で出てもらった。今でも、小劇場で作・演出・主演をしており、機会があれば見に行きたい)

この由利子告白バナシの回収は映画の中には無いが、兄の慎一が吉本に、小学校の時に、授業中に茂之がウンコを漏らしてしまったのを土屋に見られているのが、二人の関係の良くないスタートだと教える。
淡々と語る慎一と、聞いている吉本の後ろ姿のカットにかかるこの語りは、劇場では爆笑で、詳細を聴き取れなかった。
撮影の現場でも、カメラの前田米造さんは、笑いを懸命にこらえていた。

由紀さおりさんがいない最後の1週間というのは、だいたい、この土屋と茂之の件りや、品川中学でのロケであった。

土屋グループが茂之を引き連れてゆく、遠方にガスタンクが見えるシーンとか、茂之を殴る荒地とか、そこは路線バスの引き返し場なので、そのバスのロングショットとか、茂之と土屋が語り合う海上公演の夕景とか・・・

結局、土屋は茂之の反撃に倒され、吉本は、学校に行って、やる気の無い進路指導の先生(加藤善博)に、茂之の西武高校への願書を出し直させ、茂之は西武高校に合格、家に帰って「土屋は落ちたんだ」と大喜びして、母・千賀子も「良かったぁ!」と抱きしめる。
他人が落ちたことで屈託無く喜ぶ母親の姿に、また場内爆笑だった。

森田さんは、渋谷「シェフ」での打ち上げの司会も自らやり、マイクを持たせたらプロはだしというか、見事に進行してゆき、監督業より上手いなと思ったが、そこで撮影の思い出を語るなかで「一番タイヘンだったのは、金子が1日17シーンの予定を入れて来た日だった」
と言うので、僕は、エッそうなの?となった。

1日平均5、6シーンを消化するなかで、その日は、確かに17シーンを予定に出したが、1行だけのシーンも何シーンかあったはずで、ページ数に換算すると徹夜になるような分量では無く、同じセッティングで撮れるところもあるから、職人監督なら早く撮れるだろう軽いシーンをまとめて予定を出したつもりで、森田さんは職人でないことは分かっているが、これ5本目でしょ「いい加減、もう慣れたでしょ」という突き放した心理は少しあったかな・・・でも、前日に前田さん中心に、撮り方を研究し、この方向からカメラ固定して、シーン飛ばして撮れるだろう、とか勉強したので、翌日は21時には終わった。チーフとしては読みどおり。
なので、そんなにキツイことも無かったんじゃないの?と、思ったのだが・・・

森田さんは、毎日、日活撮影所に来る京王線の中で、下り方向なので座れるが、台本を集中して読んでいた。それはその姿を見かけた人に聞いたのだが、脇目もふらずに台本を見つめている姿が印象深い、ということであった。

映画の1シーンとは、1行であろうが1ページであろうが、シーンとしての意味の重さが深くあり、書いた時は1シーンとして独立させているのだから、撮る直前には全体からの観点で、その1シーンの意味を考えねばならない・・・ということは、僕も、監督になってから分かったことであった。森田さんは、京王線で、集中して、シーンの繋がりの意味を考えていたのであろう。
だから、この1日17シーンというのは、タイヘンだったのですね。
打ち上げではマイクを持って、
「それを、前日、前田さんをはじめ、演出部の力を出し切って乗り切り、撮りあげ、乗り切ったことで、自信が出ました」
と、興奮していた。
「この映画は傑作になります」
・・・と、確かに言ったかどうか・・忘れたのは、森田さんはいつもそんなことを言っていたからで、クランクイン前の記者会見でも「僕は天才です」と言って、それを揶揄され見出しにされた記事がスポーツ新聞に小さく出たくらいだったが、「俺は天才だから」というのは、口癖のように言っていた気がする・・・気がするというのも、人から聞いたことが多くて、目の前で、僕の目を見て「俺は天才なんだよ」とは言ってはいなかった。言ったかな・・・
「自分は天才なんだ」と言うことによって、自らを鼓舞して、「自信」で監督していた人なんだと思う。
パートナーである三沢和子さんも「森田はインタビューの天才」と言う言い方をしていた。

この打ち上げでは、由紀さおりさんは、アカペラで「夜明けのスキャット」を歌ってくれて、とても幸せな気分になっていたところ、伊丹さんも発言した。

「今日、ここに来るまでに3本の映画を見ましてね」
と始まった。
「1本目は『天城越え』で、退屈で退屈で酷い映画。2本目は『うる星やつら』で、これは甘い甘いお菓子のような映画でしたが、その併映の『ションベンライダー』は神々(ごうごう)しいまでの素晴らしい映画で・・・」
と評論家のような言い方。

ここで伊丹さんの言う『うる星やつら』とは、傑作の名高い2作目の『ビューティフルドリーマー』では無く、1作目の『オンリーユー』であって押井守監督の映画デビュー作となる。
僕は面白く見たが、伊丹さんの「甘い甘いお菓子のような映画」という評も、悪意は感じるけれど、エンターテインメントなんだからお客へ媚びてもいいんじゃないの、という想いもあったし、この話って面白いでしょ、笑えるでしょ、という意味で、押井さんに笑いながら言ったところ、押井さんは僕に怒った。
内容は細かく覚えてないが、周囲に気を使って作家性を抑えて作ったので、そのように言われる筋合い無い、自分も『ションベンライダー』のような勝手な映画を作りたい、映画は勝手にやった方が勝ちだ、みたいなことを延々と言って僕に絡んだ。
いや、「僕に」ということでは無く「実写映画人に」とでも言うか・・・
僕は、「僕に怒ることは無いんじゃないのよ」と理不尽に感じたが、押井さんから見ると、伊丹さんと十把一絡げの「実写映画人」と思えたのかも知れない。
あ・・・じゃなくて、言われたことに対して言った当人には言い返せないから、僕に言い返していたのか・・・って今、気がつきましたよ、38年経って。
・・・あんなふうに言い返されてもねえ・・・もう、伊丹さんもいないし・・・
83年のダイアリーを読み返していたら、自分のベストテンが書いていある。
1)楢山節考2)細雪3)うる星やつら4)戦場のメリークリスマス5)時をかける少女6)夜をぶっとばせ7)セーラー服百合族8)家族ゲーム9)お姉さんの太股10)オキナワの少年
ちなみに洋画は
1)フィッツカラルド2)ガープの世界3)闇と沈黙の国4)鉛の時代5)サン・ロレンツォの夜6)トッツィー7)ヴォイツェック8)カスパーハウザーの謎9)ベロニカフォスの憧れ10)リナ・ブラーケ
次点/ダーククリスタル・評決・ヘカテ・フラッシュダンス・赤い影・モリエール・シャドー・ガンジー・ラブーム2・少林寺・氷壁の女・48時間
『うる星やつら・オンリーユー』を3位にしてんじゃん、『家族ゲーム』より上にしてんじゃん、それなのに、怒られちゃってさ・・・しかも、その怒りには「金子」は何の関係も無いのだ、というのが悲しかった。
だが、作家・押井守は、この伊丹さんの言葉をバネに使って『ビューティフルドリーマー』を“勝手に”作り上げたのだと思います。まあ、それに僕は一役買ってるんだから、よしとするか・・・

“『家族ゲーム』撮影終盤は消化試合”と書いたが、実際、クランクアップの2/12には、中あきの時間に渋谷宝塚で『ションベンライダー』を見ている。
これは森田さんも一緒に見たかも知れない。「さすが相米さん」と言っていたような記憶が薄らある。
前日の2/11は品川中学の職員室ロケから横浜実景へ移動する中あきの時間に、横浜にっかつで『お姉さんの太股』を一人で見ている。

『お姉さんの太股』の岡本かおりは、森田さんの『噂のストリッパー』で日活デビューし、『家族ゲーム』でも、慎一の好きな同級生の姉役で、2シーン出ていて、活発なコだったので僕も好感を感じて伴一彦脚本・鈴木潤一監督の『お姉さんの太股』を見たら、かなり笑えて面白かったのであった。

当時、週刊宝石の巻末にあった「あなたのオッパイ見せてください」の写真コーナーのエピソードがあり、原宿あたりでカメラマンから「オッパイ見せて」と言われて「いいわよー」と、アッケラカンと見せてしまう明るさが岡本かおりのキャラクターに合っていた。

『家族ゲーム』仕上げの最中に、制作部から、この岡本かおり主演・鈴木潤一監督の『宇能鴻一郎の濡れて学ぶ』の脚本とチーフ助監督をやるように言われ、プロデューサーの秋山みよさんと撮影所で会った。
更に、企画の成田尚哉さん、企画助手の小松祐司くんらとも会い、岡本かおりの女子大生が、セックス絡みのアルバイトをしてゆくストーリーで、特に原作は読まなくても良い、と言われ、大まかなストーリーを考えるように言われた。

『家族ゲーム』の方は、予告編を任されていたので、それは続け、ダビングは欠席することになり、森田さんに告げると、
「岡本かおりはスターになるよ」
と言っていた。

この後、鈴木潤一さんが撮影所の大江戸食堂での打ち合わせに入って来て、「岡本かおりに宇能鴻一郎は合わない。宇能モノはもう古い」と言い出して、波乱が巻き起こることになった。
・・・それ、次回ですね。

『家族ゲーム』は2/26の編集ラッシュまで記録しているから、3月半ばには完成して、撮影所で初号を見ているはずだが、それは記録していない。
『宇能鴻一郎の濡れて学ぶ』を旅館に篭って書いていた時期と重なる。

『家族ゲーム』公開は6月4日で、その年のキネマ旬報ベストワンになる訳だが、それは年末に発表なので、そうなる前に森田さんが撮影所に来て、食堂でお茶を飲んだ記憶がある。
この時、根岸吉太郎監督が通りがかった。
根岸さんは、薬師丸ひろ子・松田優作の『探偵物語』を撮っていたか、仕上げの時期だったのではなかろうか。

明石知幸によると、「『家族ゲーム』撮影の最終盤、優作さんの次回作として『探偵物語』で根岸さんと組むことがスポーツ紙に掲載され、「何で次に根岸なんだ」と嫉妬で詰め寄る森田さんに、まるで恋人に浮気がバレたみたいに「しまった...」と戸惑った優作さんがとても印象に残っています」
ということで、その心理が背景にあると思って、以下をお読み下さい。

根岸さんは、
「評判いいじゃない」
と、『家族ゲーム』のことを言ったら、森田さんは、
「ありがとうございます!」
と、最敬礼くらい頭を下げて喜んだら、根岸さんは笑って、
「俺が言ってんじゃないよ」
と、言って去って行った。
しばらく間を置いて、根岸さんが遠くへ行ったことを確認し、森田さんは、
「“俺が言ってんじゃないよ”だってよ」
と、毒づいて笑ったのであった。

更に、『家族ゲーム』ベストワンの次の森田作品は、薬師丸ひろ子主演の『メインテーマ』となった。
これに、僕は監督デビュー直後に、チーフ助監督として呼ばれた。
森田さんとしては、角川映画大作の助監督として“金子を呼んであげた”と思っているが、金子は監督デビュー直後なので、また助監督に「降格した」という心理があって、喜んではいなかった。

それプラス、根岸さんの『探偵物語』の撮影が延び、ひろ子ちゃんは玉川大学の卒業が危うくなっているので、『メインテーマ』チーフ助監督の第一の使命は、ひろ子ちゃんの撮影を、春休みじゅうに終わらせるということであった。

ところが、森田さんとしては、「根岸が粘って夏休みまでかかって撮っているのに、ベストワン監督のこの俺が、どうして春休みじゅうに撮らなければならないんだ」という想いを、最初から抱いていのであった。

ので、『家族ゲーム』では“最高のチーフ”としてスケジュールを書いたが、『メインテーマ』では、そうもいかないで、嵐が巻き起こる・・・というハナシは、更に先になってしまう・・・
無能助監督日記の途中で監督になって、その先書くのか?
先のことは分からない。この日記も、どうまとめていっていいか分からない・・・

ベストワン映画をサポートして、最高のチーフとまで呼ばれたんだから、「無能助監督」は外してもいいんかいな・・・


…to be continued


(チャリンの方には、本編カット部分を教えまする)

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