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序章2 ミヅハノメ

 ある休日、美琴は茶屋で昼食の多忙を終えて、片付けを始めた。先輩巫女から洗濯を頼まれた布巾類の入った桶を社殿の裏手にある水場へと運んだ。
 美琴は水場で布巾を洗いながら社殿から視線があるような気がして、何度も社殿に目をやるが人影はなかった。

(暇じゃ‥‥)
社殿には水を司る神がいた。名はミヅハノメ。水の神が得意とするのは恋愛や結婚、縁結び等である。ミヅハノメは社殿から水場で洗濯している巫女を見つけた。
(あの術を久方ぶりにやってみるか)
ミヅハノメは巫女に向けて、右手をかざす。右手の周りには何重もの形状文字のような模様が金色に浮き出てきた。呪文のようなことを呟くと同時に、ミヅハノメの姿は金色の粒ようなものへ変化して、空へ消えた。

 美琴は最後の1枚の布巾を洗い終え、物干し竿に掛けている時に急にかつて感じたことのない脱力感が全身を襲った。立ってもいられない、脳から筋肉へ通信が途絶えてしまったかのようだった。
(このままでは倒れてしまう!)
大きく後ろへ身体は倒れいく。
と同時に美琴は意識を失ってしまった。

 そのまま倒れたかに見えた。
が、美琴の身体は地面に対して水平に約5センチほど高さで浮いている。目を見開くと、瞳には金色の星々が映り込んでいる。髪の毛は少し濡れて、周囲に水滴が浮遊し輝いている。
地面の土がしっとりと濡れ始め、土の隙間から小さな水の粒が溢れ出てくる。その後、美琴の身体はフワリと重力を無視して浮きながら社殿の屋根の上にゆっくりと着地した。

(久方ぶりの世俗じゃ)
美琴の身体に憑依したミヅハノメは、夕陽に反射するビル群を見ながら、かつてそこにあった大自然の風景(何千年前の記憶)を思い出した。ミズノハの登場に大地が気づいた、風がミズノハを中心に集まってきた。樹々の囁きのように葉が小刻みにぶつかり合い幸せを感じる律動を刻んでいる。まるで拍手のような音だった。

 ミヅハノメの周りに金色の羽衣が浮き出て、社殿の屋根から地上に降り立った。
(この度はこれで満足じゃ)
社殿の正面中央で、両手を組みながら永らく自分がいた社殿を外側から眺めた。徐々に瞳から金色の星々の模様が消えていった。

──そこで目が覚めた。

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