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俳優・松澤仁晶の挑戦|『シュシュシュの娘』でみつけたもの

俳優部の松澤仁晶です。

「新型コロナウィルスにより苦境に追いこまれた全国のミニシアターへ」

『シュシュシュの娘』の台本の1ページ目には、こう記されています。
初めて目にした時の、感銘と奮い立つ想いは今も忘れられません。
『シュシュシュの娘』は、このコロナ禍の時期に、様々な人々の志が集まって、創られた作品だと思っています。
私のレポートは、役作りを通して、どうこの作品に携わったのかをお伝えしたいと思います。

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この作品で、私は佐川宜人役をやらせて頂きました。
この佐川という役は、まだ配役が決まる前、初稿を監督から読ませて頂いた時から、強烈に惹かれ、やってみたいと憧れた役でした。
ですから、佐川役をお願いします、と監督から連絡を頂いた夜は興奮のあまり眠れないほどでした。お恥ずかしい話しですが。

『シュシュシュの娘』の台本は、2つのパターンでシーンが書かれていました。
1つは会話によって構成されるシーン。
もう1つは、ト書きによって構成されるシーン。

ト書きは、場面や俳優の動きの説明です。通常は、シーン冒頭や会話の間に書かれるものですが、そのト書きしかないシーンが、『シュシュシュの娘』には幾つもありました。
そして、佐川はそのト書きに多く登場する人物だったのです。
ト書きに記され、文字の向う側に見え隠れする佐川宜人に、私はとても惹かれました。

役の決定を受け、喜び勇んで役作りを始めました。
念願の役を頂いた事、謎多い人物へのアプローチになる事、自分で言うのなんですが、私の意気込みは相当でした。佐川をスクリーンの表に出す出さないは、私の役作り如何にかかっていると。

佐川の職業は少しばかり特殊です。先ずはその職業への取材から始めました。
役どころとして、俳優部の三溝浩二さん、金谷真由美さんが同じグループになります。3人で顔を合わせ、取材の報告を兼ね長時間の打ち合わせ。また個別に電話や、LINEグループでも頻繁に意見交換を繰り返しました。
ト書きで表現されたシーンで、佐川は、佐川たちは、何をどう話しているか。妄想を膨らませイメージを明確にしていく。             俳優として一番楽しい時間かもしれません。

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俳優部が役作りに勤しんでいる頃、ネットにはメイキング映像が次々にアップされていきました。ボランティアスタッフさんの活躍が紹介され、負けてられないぞ、と思いながらも、紹介されているロケ地に想いを馳せます。
ロケ地となる街には、金谷さんと下見にも行きました。半日、街を逍遥し、空気を感じ、なんとなく役が見えてきた気がしてきました。
衣裳が決まり、クランクインが近づいた頃、監督から追加の台本が送られてきました。
それはト書きのシーンではなく、井浦さん、三溝さん、金谷さんとの会話で構成されたシーンでした。その緊張感あるシーンで、佐川は中心となって話を進めていました。
作品の中で重要なシーンです。

が、困った事が起きました。そこに描かれる佐川には、2パターンあるように、私には読み取れたのです。どっちが正解か。
クランクイン間近。しかもそのシーンから、撮影がスタートする事となりました。
イン前日から現地入り。監督、スタッフさんと共にロケセットの飾り付け。作業をしながらも、どちらが正解か考え続けました。
宿泊所に戻ってからも、三溝さん、金谷さんにお願いをして、何度も台詞合わせをして頂きました。それでも決められません。どっちなのか。
悩む理由は分かってきまたした。
Aパターンが正解かもしれない。が、私はBパターンをやりたいんだと。
決められないままに布団に入り、クランクインの朝を迎えました。

「入江組シュシュシュの娘、クランクイン、おめでとうございます!」
角田助監督さんの声が現場に響き渡るころ、やっと決心がつきました。
中間でいく。AとBの中間くらいの感じで。
そんなのアリかと思われるかもしれませんが、そう決めました。
段取りからリハーサルへ。

「はいはい、いい感じじゃないですか。」
監督から芝居にはダメはなし。動きの修正が若干入り、いよいよ本番へ。
息詰るほどの緊張感。スタンバイ時も、4人ともに終始無言。
数カットを収録し、「はい、OKです。シーン変わり」
監督からその声を聞いた瞬間、はぁーと大きく息を吐き出しました。
クランクアップくらいの達成感です、と正面にいた井浦新さんに思わず言ってしまいました。
この4人が顔を合わせるのは、このシーンだけです。上映中どこで出現するか、お楽しみに。

この最初に撮ったシーンで、一挙に佐川をつかめた気がしました。
そこから先は、両パターンを使い分け、撮影期間中、本当に楽しく演じさて頂きました。

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無事にクランクアップをした後、インスタライブが行われました。ありがたい事に、入江監督と二人でトークする機会を頂きました。そこで、ずっと聞きたかった事をストレートに監督にぶつけてみました。

なぜ、私を佐川役に選んで頂いたのでしょうか?
私になら佐川ができる、と思われたのでしょうか?

入江監督からは、驚きと感動の返答がありました。
「どんな役者さんでも、例えば『AI崩壊』の大沢たかおさんも、桐生という役ができると思ってお願いした訳ではないんです。大沢さんとなら一緒に桐生を創っていける、そう思ってお願いしたんです。」
一緒に創っていける、そう思って選んで頂いた。
台本の1ページ目を読んだ時と同じ様な、感銘と奮い立つ想いが胸に溢れました。

『シュシュシュの娘』に参加できて、本当に良かったと思っています。
俳優は孤独な作業も多いですが、みんなと一緒に創っていくこと、この当たり前の事がやはりとても大切だ、と改めて思わせてくれたからです。
あの暑かったインから、寒さ感じるアップの日までが、とても懐かしく感じます。
改めて、スタッフ、キャスト、そしてサポートして頂いた皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。

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追伸:
シュシュシュの娘に感化され、松澤も自主映画の制作に取り組みました。
「ひどくくすんだ赤」
制作進行中で、シュシュシュの娘の公開の頃に完成予定です。乞うご期待。


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