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【詩】知っていることを書きつづけよう、知らないあなたのために

ぼくが知っているのは
風化の流砂にさそわれた一対の喉仏

ぼくが知っているのは
なにも開けられない鍵の冷ややかな稜線

ぼくが知っているのは
明日ここを立ち去っていく あなたという肉体の重量

あなたのそのか黒き先端は
今はもう あなたではなくなった或る男
過去にしか存在しない所作が 
生きたいあなたを末端から蝕む壊疽となる
すでに不要となったその男を あなたは
襤褸となった肌着できつく縛り 
切り落とせと 
ぼくに命じる
ぼくが怯えるのは 肉体上の痛苦と醜悪
腐肉 血みどろ 刃に堅い反撥を伝えるはずの骨の音
あなたの肉体を 
ぼくの魂の受肉とみなすに過ぎない 古典劇
六月 晴れ間のような 熱く騒々しい、ほら

ぼくのその薔薇色の先端は 
今もまだ ぼくの一部と信じていたい愚者
過去に存在できない迷い言が
未遂を可能性と履き違えるポリープとなる
誰彼なく巻き添えにする愚者を あなたは
青錆となった首飾りできつく縛り
切り落とすと
ぼくを組み敷く
ぼくが怯えるのは 肉体上の痛苦と醜悪
腐肉 血みどろ 骨を勁く打ち割るはずの刃の音
ぼくの肉体を
ぼくの精神の杯とみなすに過ぎない 独白劇
二月 潦のような 浅く狭苦しい、それ

ぼくは その壊疽を切り落とせるのだろうか
ぼくと言葉や 言葉以上のものを交わした
惜夜の閨の漆黒が
切除と同時に ぼくとあなたの前から
消え去ることに怯えているのであろうか
(そんな優秀なセンサーはなさそうだ)
鈍器はレール違いの phantom pain を
首を伸ばして俟つけれど

あなたは このポリープを切り落とすのだろうね
ぼくと皮膚や 皮膚以上のものを重ねた
夜明けの呼吸の青紫が
切除と同時に あなたとぼくの間から
溶け去ることに泣くのだろうか
(そんな男くさい顛末なら素敵だよ)
紙細工は瞬時に忘れる soap operaを
永遠に忘れたくないけれど

ぼくが知らないのは
生息地を喪った森の戦ぎの主旋律

ぼくが知らないのは
出口扉に先立たれた嘘の背中の直ぐな線

ぼくが知らないのは
あなたの向こうで遠ざかる

                                                       ぼくを連れたあなた





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