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編集者はバトンでつながっている。見て学ぶ編集スキルについて


こんにちは、高橋ピクトです。
実用書の編集を始めてから、先輩から多くのことを学んでいます。
 
私は、20年ほど前、編集プロダクションにアルバイトとして雇ってもらいました。それから、その編プロに就職、その後、今の出版社に勤めることになりましたが、編集スキルは学校で学んだことはなく、先輩から教わったり、見て学んできました。
 
編集の現場は、そんな感じで、スキルのバトンを渡されることで成り立っています。先輩が後輩に教えてくれることもありますが、後輩が先輩から見て学ぶことも多いと思います。

 今回は、私が「先輩から見て学んだ」2つのスキルをお話ししたいと思います。

初読へのこだわり


 一つ目のスキルは、私が編プロで駆け出しの頃にクライアント、つまり仕事を受けていた出版社の編集者さんから学んだことです。
 
依頼を受けて制作していたのは、パソコンの実用書です。
WordやExcelを使って、ビジネス文書を作る方法をまとめた本。
そこで学んだのは「初読で伝わる説明をする」こと。
そのクライアントからは「Wordを初めて使う人でも、説明された操作をすれば、必ず本のとおりに書類が作れる」、そんな本を作ってほしいと指示を受けました。
 
たとえば…
・同じ作業の繰り返しであっても、手順は省略しない
・ボタンなどの機能はキャプチャ画像で、一目でわかるように示す
・必ず複数人で動作チェックする

 
これが守られていなければ、ゲラが真っ赤になって返ってきます。
しかも、このとき難しいのは、説明が多くなれば、紙面が足りなくなるということです。説明が多くなり、紙面が文字だらけになると、それはそれで「簡潔に」と赤字が入ってきます。そんな中でも、どうにか手順構成やレイアウトを工夫して、初読者に親切な設計にする、そんなことを学びました。
 
驚くべきことに、このこだわりは、上級者向けの本でも同様でした。
その編集者さん曰く、「上級者であっても、知らないパソコンの操作やアプリケーションの機能がある、だから、私たちは解説を省略しない」。
 
私はそのこだわりを意識して受け継ぐようにしています。
たとえば、私が制作する健康書であればストレッチの手順は省略しない筋肉の名前にはルビを振る、アウトドアの本であればロープの結び方はイラストで丁寧に初出の道具には必ず解説を。初心者であっても、指導者であっても初読で理解できるよう丁寧に解説することを心掛けています。
 

迷いをかくさない


もう一つのスキルは、チームワークを高める話し方。
私のかつての上司から学んだことです。
 
私が今の出版社に入ったばかりの頃、上司が打ち合わせに同席してくれることがありました。
 
出版企画の中にはシリーズや、肝いりの仕事を立ち上げるときなど、
いわゆる勝負をかけたい仕事をお願いすることがあります。
こういうときに、ついてきてくれる上司だったのです。
 
企画を依頼する際は、企画のゴール地点を見定め、それをチームのスタッフに伝えることが大事です。
このことは「出版社と編プロ、良い関係の作り方。仕事の依頼〜チェックまで」でも書きました。
 
しかし、このとき上司が話したのは、自分の迷いでした。
たとえば、スポーツの指導書シリーズを立ち上げる時や、麻雀の入門書を企画する時、編プロさんやデザイナーさん、監修者や著者が集まる場で、こんなことを言いました。
 
「どうしたら10年、20年読まれ続ける本ができると思いますか?」
「私は、いくつかの考えがあるけど、正直に言って迷っています」
「みなさん、一緒に考えてくれませんか?」

 
はじめは、スタッフも驚いていました。
え?そこを考えるのが出版社じゃないの…?と言わんばかりに。
私も、正直頼りないと感じてしまいました。
 
しかし、上司は、そこに至るまでの経緯や、自分たちがどんな出版社で、どんな実績があり、どんな失敗をしてきたか、丁寧に(ちょっと長いのですが…)説明していきます。出版の意義、自分たちの仕事がどれだけ社会に影響を与えるか、そして、どうしてスタッフそれぞれの力が必要なのかを自分の言葉で語っていきます。
 
そこまで聞いたスタッフたちは、心得たという感じで、思い思いに意見を出し合ってくれます。たとえそれが初対面の方であっても、自分の言葉でしっかりと私たちと向き合ってくれます。
 
私は、出版社の編集者は企画の責任者であり、常に答えを持っていなければいけないと思っていました。スタッフの迷いにこたえられる存在でないといけないと。
 
しかし、この上司の立ち振る舞いを見ることで、無理して答えを用意する必要はなく、皆が同じスタート地点に立ち、一緒に考える場を作ることが出版社の本当の仕事だということがわかりました。
 
そして、その環境をつくるには、自分の言葉で、正直に今の気持ちや目標を伝える。何でもかんでもわかった気にならず、弱みをさらけ出すくらいでちょうどいいのだと気づきました。
 
後々、仕事を続けてわかったことですが、その上司を知る編プロさん、デザイナーさんは
「●●さんからお願いされたら断れないんだよね~」と口々に言います。
「任されるから、プレッシャーはかかるけどやりがいがある」と言う人もいました。一言でいうと、その人、愛されキャラなんです。
 
流石にキャラまでマネするのは無理ですが、この経験は私の仕事に影響しています。その証拠に、私の企画スタート時の説明は、企画の概要だけでなく、その企画にかかわる実体験や失敗談なども話すことになり、あちこちに話が飛びます。でも、頼りない話であっても発言しやすい空気を作るきっかけにはなっていると思います。
 
今日は編集者が引き継ぐスキルの話をしました。
編集の高い志と、一見かっこわるいけどチーム力を上げる話し方。
 
以前、編集部の後輩と一緒に、デザイナーさんと打ち合わせをしたことがありました。その後、後輩が「打ち合わせって、こんなに任せていいんだぁ」とつぶやいていました。
頼りないと思ったのか、何か発見があったのか。
 
このバトン、誰かに引き継いでもらえるかはわかりませんが、
私自身は先輩たちからの教えを大事に、前進したいと思います。
 

#私にとってはたらくとは #仕事について話そう #編集者

文 高橋ピクト
生活実用書の編集者。『新しい腸の教科書』『コリと痛みの地図帳』などの健康書を中心に担当。「生活は冒険」がモットーで、楽しく生活することが趣味。ペンネームは街中のピクトグラムが好きなので。
座右の銘は、大学時代に先輩から教わった「金を残すな、人を残せ」。

Twitter @rytk84

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