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出版業界の小物(コモノ)としての矜持。これからも声を上げて小物道を歩く

あるオンライントークショーで、30代の会社員作家さんが「私は本業のほうでは小物(コモノ)なんです。でも小物だからこそ、働き方や働く環境について、勇気を持って発信していこうと思います」と語っていて、すごくいいな!と感じました。というのも、最近、こんな質問を受けたんです。

「編集者を30年近くやってきて、“売れる正解”ってなんですか?」

キャリアは長いけれど業界では小物の私はプルプルと震えました。それを聞くなら、アスコムの◯◯さんとか幻冬舎の◯◯さんとかのとこに行ってくれよ! という心の声をグッと抑え、「・・・・なんでしょうね? 売れたら正解になっちゃう世界ですからね、、、いやもう、わかんないっすね!」と返すのが精一杯でした。でも、小物だからこその正解ややり方があるのでは?と、帰りの電車の中で思ったのです。そしてそれらをみんなで共有すべきでは? だって、人類の8割は、小物だもの!

こんにちは、マルチーズ竹下と申します。東京の出版社で、書籍編集をしております。ときどき、シュッパン前夜の活動の一環でnoteに投稿していますが、自ら発信するタイプの編集者に居がちな「ベストセラーたくさんつくりました」派でも、「SNSフォロワーたくさんいます」派でもありません。雑誌編集者時代は、半径5メートルで見えてくる違和感を追いかけ、書籍編集部に移ってからは、「昨日より今日、少しでいいから、読者を幸せにするor人生に役立つ」実用書や啓発本を出版したい思いで、けっこう長く編集者を続けてきました。まあそんな、本の街神保町に、粘り強く生存しているタイプです。

冒頭に戻ります。

小物だからと卑屈にならず、良い仕事をしていこうと背筋を伸ばしたら、ひとつだけ思い当たったのです、正解のようなものに。それは、

「人の話を聞け!」。

当たり前すぎる・・・・! もし自己啓発本のテーマで著者がこれを提案してきたら「いやいやそれって医者の『睡眠しっかりとって1日3食ちゃんと食べたら健康になれる』と同じで耳にタコですから」と全力で却下しそうなくらい当たり前すぎる。でも、あなたが私と同じく小物なら、ぜひとも人の話を聞いてください。だれも言ってこなければ、あなたから言い回ってください。「今度こういう企画を通したいの」「このタイトルどう思う?」「この惹句、言いたいこと伝わってるかな?」「このデザイン、文字読みにくくない?」――と。つまり、著者はもちろん、その本にかかわる(直接かかわっていなくても)あらゆる人に触れ回る&意見を請うのです。そして、自分と違う視点を提案されても「チッ」と思わず、ちょっと時間をおいてから(言われた直後は頭がカッカして冷静に考えられないからね)、その意見を検討してみるのです。

若いときの私は、「自分のアイデアが絶対正しい(なぜならこの本or企画をいちばん理解しているのは私だから)」と思い込み、できる限り外野の意見を取り込まないことに汗を流していました。まあいまでも、上司に意見されると舌打ち連打です。だって「外野がガヤガヤ言うと一貫性が薄れて体幹ヘナヘナの本になる、五輪開会式みたいになる!」からです。
でも、ある程度書籍編集の経験を積み、仕事のやり方をふり返ったとき、人の意見を聞いたうえで試行錯誤したときのほうが、良い結果を得られたかなと思うケースが多いんです。

「YouTubeではこの言葉がホットだから、帯に入れてみたら?」(YouTube中毒のAさん)、
「似たテーマの記事あったよ。企画通すときの援護射撃になるかも」(朝日新聞信奉者のBさん)、
「このジャンル、◯◯プロダクションの△△さんが得意だよ。依頼するなら予算調整しようか?」(当時の上司)
「この企画は雑誌◯◯宣伝担当者の好みだから、言えば広告載せてくれるかも」(社内人事に精通した弊社のKGBことCさん)
「私はこの企画ハズレだと思うけど、ゲラ見た◯◯さんから初版を1000部上げろと言われた。あなたが◯◯さんに根回ししたの? 私の顔つぶされ(以下略)」

とかとか。。。。。(上記は社内の声ばかりですが、もちろん社外にもタイミングをいて触れ回るとさらによい)
もちろん、なんでもかんでもまぜこぜにせえ、と言うつもりはありません。これは要らない、これは取り込もう、と知恵を絞って考える汗も流そうね、と言いたいのです。


一から十までひとりで考え、完結させる編集者もいるかもしれませんが、そんな人は一握り。
自虐で自分を小物と称するのではなく、むしろ誇らかに小物と名乗り、小物だからこそどんな意見も受け容れるぜ!(でも取り込むかどうかは別)と胸を張って、これからも働いていくつもりです。そのほうが、みなさんの大好きな“正解”に、たどり着く気がするのです。

さて、明日はお休み。そしてまだまだステイホーム。大物キャラであふれる米ドラマ『ザ・グッド・ファイト』のつづきを観よう。そしてルッカになった夢を見るのだ。

文/マルチーズ竹下

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