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本が売れない。編集者が考える“変化への一歩”


今、出版業界が窮地に立たされています。
雑誌は一誌また一誌と休刊になり、書籍の売れ行きもどんどん落ちています。

こんにちは。実用書の編集者、高橋ピクトと申します。 
私が編集している実用書も危機が迫っていて、書店では実用書がおかれている棚がどんどん縮小されています。
 
たとえば、スポーツ書の棚。以前は、野球、サッカーと競技ごとにわかれていましたが、「スポーツ」でひとくくりに。囲碁・将棋・麻雀でわかれていた棚も「ゲーム」でひとつになっています。
 
そんな中、最近会った編集者が「営業から“新刊が不作だ”と言われたんだよ」と嘆いていました。日々、新刊の企画を立てている編集者にとっては、グサリと刺さる言葉です。

本が売れなくなったのはなぜ?

私も昨年を振り返ってみると、重版した本が昨年より少なくなっています。
本が売れなくなってきたことを実感する1年でした。
 
新刊が売れないのは、縮小する出版市場によるものか、
本の内容か、企画のコンセプトか。編集者の企画力が落ちているのか。変化した環境についていけていないのか……。
 
以前、ケーハクさんが
『出版編集の「売れる感覚が狂い始めている」問題』で、出版業界の変化を分析していましたが、私も、編集者として、この問題を考えてみたいと思います。
 
私も感じているのは、ケーハクさんがおっしゃっているように編集者の企画が「変化した環境についていけていない」ということです。さらに、その理由は「編集者が、企画に向き合う時間が減っているから」じゃないかと考えています(理由はひとつではないと思いますが)。

編集者の仕事、調整が多くないか…?

 
私が考えてみたのは、編集者の仕事環境です。
編集者の仕事のバランスが変化したと感じています。
 
編集者の仕事は、大枠で「企画」「編集実務」「調整」の3つにわかれると考えているのですが…下の図のように調整の仕事が多くなってきています。

ちなみに「企画」「編集実務」「調整」は、こんなふうにとらえています(私の場合です。出版社によっても違うと思いますし、編プロなのか、フリーなのか、立場によっても異なります)。
 
◆企画
人に会う
さまざまな場所に行く
根拠を集める
企画書を作る
プレゼンする
 
◆編集実務
構成を立てる
文章、ビジュアルのディレクション
人と物の手配
 
◆調整
社内業務(予算書、仕様書、契約書作成)
社内確認(企画、タイトル、デザイン)
プロモーション(新聞、テレビ、デジタル)
イベント企画、運営(書店展開の強化)
スケジュール調整・トラブル対応

 
ここで感じるのは…
調整の仕事、多くないか…?ということです。
 
私は、編集の仕事をして20年くらいなのですが、ここ5年、10年くらいで編集者の仕事が変わってきたように思います。

こう変わった、編集の仕事

まず、企画を通す際、書籍の制作中、出版後の社内業務が増えました。
ひとつの企画について企画会議の検討回数が増え、タイトルやデザインの進行状況を報告し会社の判断を聞き、トラブルが発生すれば“ずらせない”刊行日程(これもつらい…)の前にスケジュールを調整して回る。
 
それぞれがスムーズにいけばよいのですが、さまざまな意見が入りますので、一筋縄ではいきません。社内の人間関係と、関わる人の立場を理解して、物事を前に進める政治力が求められます。
 
こうなったのは、出版社が「本が売れない」現状に対応するため、ひとつひとつの出版物に対して慎重に判断するためです。売れる本ができるように、チェック機関が設けられるようになったんです。
 
私は、編集者の「調整の時間」を減らす必要があると考えています。
 
まず、社内チェックを簡略化するために、本の制作は編集に任せるという社内風土をつくることが必要です。そのためには、タイトルやカバーデザインなど、ある程度の方向性が決まったら編集者(編集部)に任せるなどの決まり事をつくるのがよいと思います。
 
そして、「調整」は人に任せる
制作中も、出版後も、本の内容やコンセプトを理解しているのは編集者なので、どうしても編集担当者に仕事が回ってきてしまいます。つい自分でやってしまうのですが、制作中は現場スタッフに任せる、販売(プロモーション)は営業に任せるということをやっていかないと、大事な企画や編集実務の時間を増やすことができません。
 
また、社内の書類の簡略化、社内の確認体系の簡略化もすべきです。
(管理職でもある私の目下の課題でして、最近は企画書フォーマットを更新しました。できれば出版契約書をデジタル化したいです)

企画の時間を増やそう

本当は「売れる企画をつくるには」的なことを語るべきなのかもしれません。これは大きなテーマだと思うので、ゆっくりと考えてみたいですが、まずできることとして、企画につながる時間や、インプットをする時間をとったほうがよいと思います。ただ考える時間をとるだけでは、よい企画は生まれませんので。
 
私の上司は常に「編集者はインプット7割、アウトプット3割」だと言っています。インプットをするには、まず人に会うこと、何か面白いことが起こる現場に行くことだそうです。
 
私は、「定期的に誰かに会う」こと、「初対面の人に会う」こと、両方を大事にしています。気軽に会える人、仕事で切磋琢磨している人とお互いに近況報告をする。「最近、注目しているもの/人は何か?」など、ざっくばらんに話します。
初対面の人に会うのはなかなか難しい事ですが、人からイベント事のお誘いにはできる限り断らないことにしています。人に会い、現場で体験することで世の中の変化をつかむことができると思っています。
 
「調整の時間を減らし、インプットの時間をつくり、変化に対応していく」これが私の考える変化の第一歩です。

徐々にですが調整の時間が減り、企画の時間が増えています。
昨年は、お誘いがあってランニングの大会に出たこと、プロ棋士によるタイトル戦を生観戦したこと、真冬にキャンプを行ったことが、貴重な現場体験でした。これらの体験がそのまま企画になるわけではありませんが、それぞれ形を変えて企画につながりました。今年、実用書になって出版される予定です。
 
まだまだ厳しい状況は続くと思います。
しかし、一人一人が現状に向き合って、志をともにする人たちが手をとれば
必ずよい出版ができると信じています。

#かなえたい夢 #業界あるある #変化 #編集者 #出版社と繋がりたい
 
文 高橋ピクト
生活実用書の編集者。『新しい腸の教科書』『コリと痛みの地図帳』などの健康書、スポーツや囲碁、麻雀、競馬、アウトドア、料理など、趣味実用書を担当することが多いです。「生活は冒険」がモットーで、楽しく生活することが趣味。ペンネームは街中のピクトグラムが好きなので。

Twitter @rytk84

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