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「インフルエンサー本」が激増しているのはなぜ?
TwitterやInstagram、YouTubeなどで多くのフォロワーから支持されるインフルエンサー。彼らの存在は今、出版界にも色濃く影響しています。
いわゆる「インフルエンサー本」というもの。ひと昔前はTwitterのまとめ本ブームなどもありましたが、現在はインフルエンサーを著者とした本が、ほとんどのジャンルで出版されるようになりました。
たしかに、多くの固定ファンを擁するインフルエンサーの本は、出版社側にも魅力です。著者がひとたび告知をするだけで、発売前であってもネット書店の予約数は跳ね上がります。発売と同時に在庫切れ、ということもしばしば。
ある程度の数字が見込めることから、インフルエンサー本の企画は、数年前から激増しています。企画の提案時に、フォロワー数などの数字的な裏付けがわかりやすく、類書実績がない著者でも通しやすいことがあるのかもしれません。
また、一部では、YouTubeの登録者数や再生数などの基準を作り、システマティックに量産する出版社もあります。
無料(タダ)の壁
ここまでの話からすると、「出せば売れるのだから、インフルエンサーの本をいっぱい作ればいいじゃん」と思われるかもしれません。
しかし、そう甘くはないのが出版界。フォロワーが沢山いれば、本も売れるとは限りません。
SNSやYouTubeと書籍の間には、「無料(タダ)の壁」というものが存在するからです。
「お金を払って購入する」というプロセス。しかも書籍は1000〜2000円という価格帯なので、一冊にかかるハードルは高めです。無料だから見ていたけど、改めて本で読むほどの価値ある情報なのか? というところを改めて考えなければなりません。
無料の壁を越えてくれるのは、フォロワーが100万人いれば、そのうちの数%ほどの低い割合の可能性もあります。初速はよく、あっという間に重版はかかるけれど、一定期間ののち、勢いがピタッと止まってしまうことも少なくありません。
媒体の特性を活かしているのか?
インフルエンサーの持つ情報を書籍化するとき、最も重要なのは媒体の特性を考えること。TwitterにはTwitter、YouTubeにはYouTubeに適した内容と表現があります。
わざわざ書籍化しても、結局「YouTubeで見たほうがいい」という表現では、意味がありませんし、おそらく買ってもらえません。
コンテンツが同じテーマであっても、ネット上のコンテンツと書籍は別物。例えば100M走の世界記録をもつウサイン・ボルトが、マラソンを走れないのと同じです。同じ走る競技ですが、作り上げるカラダ、積み上げるトレーニングは全く違います。
サッと流れきて、パッと開いて、チャっと見る、瞬発系の100M走のようなコンテンツを無理やり書籍にして持久系のマラソンを走らせようとしても成果は出ません。つまり、著者パワーに頼り切った安易な企画では成果は出せないということです。
SNSでものすごい人気を誇るコンテンツでも、ここは一旦冷静に。著者パワーのことは考えず、出版企画として基本に帰ることが大切です。結局、書籍の場合は、ファン以外の読者を獲得しないとベストセラーには結びつかないからです。
これまで、いろいろな本を作ってきましたが、どのターゲットに、どういう情報を、どのような表現で、どのタイミングで、といった、ごく基本的な課題を丁寧にクリアしながら本を作っていくこと。こういう丁寧さ(誠実さ)が大切であるとつくづく痛感しています。
「全ての本が初速大事」問題
インフルエンサー本が多く作られる理由のひとつに、「初速がよくないと話にならない」という問題があります。つまり、新刊を出したら、すぐに売れなければならないということ。
近年、書店では売上実績のデータを重視する傾向がさらに強まっています。ひと月ほど平台展開し、反応が悪ければ即撤去(悲)。内容が面白くても売れなければ淘汰される厳しい現実があります。
仕掛け販売も実績が伴わなければ、難しいという状況。その点、固定ファンのいるインフルエンサー本は、「初速だけ」は見込めます。ベストセラーへの道の第一次予選を突破してくれる優等生なのです。
ただし、ネットを中心としたインフルエンサーの支持者は、リアル書店で購入してくれるとは限りません。むしろ、属性的にネット書店でポチッとする派が圧倒的に多いのではないかと。
ネット書店ではランキング上位に来ても、リアル書店での動きが悪いという現象も多く見られるので油断はできません。
一部の出版社に見られる「3万部の壁」
大きな出版社でよく聞くのは、営業が本気で動くのは「3万部を超えてから」という話。規模の大きさゆえに、1〜2万部の本は沢山あり、そこから抜けて3万部を超えてこないと積極的に営業はしてくれないという暗黙のルールがあるらしいです。
3万部……もうベストセラーじゃん。そこまで持っていくのが超大変! そのために、発信力のある著者パワーに頼らざるを得ないというのも要因のひとつと考えられます。
是か非か? インフルエンサー本
当たれば特大ヒットになるインフルエンサー本。ある意味、編集者にとっては麻薬のような企画なのかもしれません。
個人的には、著者の発信力だけに頼りすぎるのはどうかと思っています。そもそも著者は好意で宣伝してくれているわけで、負担をかけることになるし、その対価が支払われるわけではありません(まあ、本が売れればバックはありますが)。
それに、発信力のない魅力的な著者の出版チャンスが減ってしまうのではないかと懸念しています。
是か非か? 振り幅を極端に考えず、中庸で。インフルエンサーをあくまで一著者として捉えたいです。出版物であるならば、本そのものに力をもたせられるように丁寧に作ること。
著者を知らない人でも、書店でたまたま見かけて手に取ってしまう本。
読者を魅了する本が先にあって、その後ろ盾に著者パワーは「あったらうれしい」程度に考えるのが、企画を成功に近づける最良の道ではないかと思っています。
文/編プロのケーハク
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