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【Archive 2016】さいたまトリエンナーレ2016の可能性と課題-新しいタイプの芸術祭をどう評価し継続するか-

【さいたまトリエンナーレ2016を振り返って】

執筆は、約4年前の2016-12-09 14:31。

さいたまトリエンナーレ2016に参加し、「SMF学校」を運営した中で感じ、79日間の会期終了目前に、市議会の方々の勉強会で発表させていただいた記事を再アップしました。

現在2020-6-28に見ると荒削りの部分もありますが、今後の思考のベースとして改めてアップします。

この時の経験が現在の「さいたま国際芸術祭2020」でのアートプロジェクトの展開・運営につながっています。

今のさいたまの芸術文化の場と照らし合わし、改めて考える機会を創造する叩き台になれば幸いです。

少しずつ小さな変化かもしれませんが、当時記した「可能性と課題」に対して、市民の方々と共有、議論ができる場、声が現れてきていることがとても素晴らしいことだと感じます。



さいたま国際芸術祭2020
現在新型コロナウイルスの影響で開幕延期中 
本来なら2020-3/14-5/17の会期だった。

さいたま国際芸術祭2020「Sightama Art Center Project 」
生活都市さいたまで、市民や来場者自身のライフスタイルに合わせた「アートへ参加する習慣」をつくりだすプロジェクト


以下当時の記事そのまま掲載


79日間にわたる「さいたまトリエンナーレ」にSMF学校というプロジェクトを展開する中で感じた事、考えた事を現段階でさいたま市議会にて報告できる機会に昨日恵まれました。

現場で起きている事をしっかりお伝えし、今後の展開に向けての進め方等を共に考えていける時間になりました。

昨日の提案資料と共に概要をこちらでもご紹介します。


さいたまトリエンナーレ2016の可能性と課題ー新しいタイプの芸術祭をどう評価し継続するかー

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さいたまトリエンナーレ2016の可能性と課題ー新しいタイプの芸術祭をどう評価し継続するかー

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初めに自己紹介の後、

「文化とは何か、なぜアートを用いるのか」についてお話をしました。

さいたまトリエンナーレ2016の可能性と課題ー新しいタイプの芸術祭をどう評価し継続するかー

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文化の語源を辿ると、ラテン語 colere(耕す)から派生したドイツ語の Kultur や英語の culture は、本来「耕す」、「培養する」、「洗練したものにする」、「教化する」といった意味合いを持つそうです。【出典:ウィキぺディア】

つまり文化は物ではなく、アクションであるということが分かります。育て、耕していくことで生まれ、多くの人と共有される価値観などになっていくのです。

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さいたま市では、「生き生きと心豊かに暮らせる文化芸術都市」の創造を目指して、「さいたま市文化芸術都市創造条例」(平成24年4月1日施行)に基づき、文化芸術都市の創造に関する施策を総合的かつ計画的に実施するため、「さいたま市文化芸術都市創造計画」を策定しました。

この条例の文化芸術都市創造の象徴的・中核的な事業として、今回の「さいたまトリエンナーレ」が位置付けられています。

また、この計画では、将来像である「生き生きと心豊かに暮らせる文化芸術都市」の創造に向けて、条例に基づく7つの基本施策を定めるとともに、「文化芸術を活かしたまちの活性化」、「文化芸術都市創造を担う人材の育成」、「さいたま市の魅力ある資源の活用と発信」を3つの重点プロジェクトとして位置付け、計画期間である今後7年間において、重点的に取り組むこととしています。

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では、今回、生活都市さいたまで行う、トリエンナーレの場では「文化」はどこにあるかというと、私は、「人・アート(プロジェクト)・制度」という円環の重なり合った部分に見出され、「人・アート(プロジェクト)・制度」が有機的に互いを尊重して生き続けることで芸術祭自体ひいてはその外の社会へも波及していくものと考えます。

アートだけ、伝統工芸だけ、芸術祭をやっただけ、では文化は生まれず、「人・アート(プロジェクト)・制度」それぞれの円環で、育て耕すことが大切なのではないでしょうか??


                                                                                                
次に、「さいたまトリエンナーレに参加して」
良かった点と課題点をお伝えしました。

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スライドのシートにあるように、「人・アート(プロジェクト)・制度」の円環の視点でお伝えしました。

トリエンナーレで見出されたそれぞれの価値を今後どのように育てていくか、耕していくかを考えたいと思います。

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「さいたまトリエンナーレの可能性」では、
市民参加に焦点を当てている芸術祭であること。そして約130万人の人が暮らすまちであること(多くの多様性・価値を潜在的に持っている)、生活都市で行われること(観光などと結びつかないアート本来の持つ価値を模索することができる場であること)、その為アトリエでつくったものを設置するのではなく、プロジェクトタイプの手法を用いて作家が制作をすることで市民と関わっていく場面が多くつくられたこと。また芸術が街に歓迎されて行われるのではなく、政治の場面でもアートの意義を問われている場であることなどをお伝えしました。

「さいたまトリエンナーレの課題」として、このトリエンナーレで見出された「人・アート(プロジェクト)・制度」への視点や課題をどう今後生かしていくのか、が見えてこない点、そして芸術祭自体の評価をどのように行っていくのかの2点が大きな課題ではないかと感じています。先に示したように、経済波及効果や入場者数といった、従来の芸術祭の価値では測られにくい事柄をさいたまトリエンナーレでは価値として見出そうとしています。それを強く打ち出せるための評価のものさしを行政自らが、市民や作家と創造する。その事が今後の文化政策のとても大切な視点になるのではないかと感じます。

先の条例では「さいたま市総合振興計画基本構想の目標年次と合わせ、平成26(2014)年度から平成32(2020)年度までの7年間とします。とあります。今後の2020年に向けてのビジョンが求められています。その期間、どのように「人・アート(プロジェクト)・制度」を考えていく場や時間を創造していくかが大切です。
                                                                                                
次に、実際の現場の報告をしました。

「SMF学校」はわくわくするとくいわざ、創造力の学校です。
SMF(サイタマミューズフォーラム)に関わるメンバーが集まり創造的な授業を行います。2008年の発足から埼玉県内のミュージアムや地域を表現の場とし、様々な人が、広くアートに触れ、参加できる場をつくってきたSMFならではのノウハウを生かし、授業後も、日常生活自体にアイデアが溢れる時間を多くの参加者とつくります。

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・写真とデザイン「私新聞をつくろう!」
大宮の街を歩き自分の「!」や「?」を大切に取材をし、新聞をつくり、できた新聞は大宮駅で配布しました。

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・ヒカルキノコをつくろう!
形状記憶ファイバーでキノコを編み、そのキノコを氷川参道に展示します。ただ作品を作るだけではなく、生活空間に展示することで見えてくる景色までを作品の制作として考えられるプログラムです。

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・「都市の音・街の音」
生活都市にある音を採取し、PCで編集して作曲するプログラム。音を意識して街を歩くことで多くの発見がありました。完成した楽曲はのちにCDとして販売予定も?。

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・未来へのトンネル「TIMETUBE」
別所沼公園のヒヤシンスハウスの建設に携わった建築家のチームと造形のチームのコラボレーション。廃材を使った建築に、別所沼公園の時間を焼き付けた布で彩ります。公園を利用する人たちで作り上げられていく3日間のプログラム。


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・サンドイッチアートマン
芸術祭に関心のない人に展示空間に来てもらうことはほぼ困難。だったらプラカード型ギャラリーに作品を展示して自分から見せに行っちゃおう!というプログラム。
さいたまトリエンナーレの開催していないエリアにも意識的に出向きます!(最後の出撃が12/10にあります!)

レポート:
大宮駅前に謎の看板を持った集団が登場!彼らは一体何者なのか!?
http://soudasaitama.com/sightseeing/15432.html

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約30のプログラムを行ってきたSMF学校の中で抜粋してプログラムを紹介。

さらに、SMF学校の特色を生かした普段親しみのない方へもアプローチすることができる点として、金曜日のプログラムを紹介。 ベッドタウンに働きに出掛けているサラリーマンやOLさんにー金曜日の夜、飲みに行くのも良いけれど、自分のホームタウンでアートの時間を過ごすのはどうですかーという提案をしたいと考え実施するプログラムです。

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さいたま市には、週末に家族でサッカーを観に行くスポーツ文化があります。自分の贔屓のチームのユニフォームを着て、小さいこどもからご年輩の方までスタジアムに足を運びます。

さいたまトリエンナーレを通して、自分のまちで参加する芸術文化が、もっと様々な場所で生まれ、育っていけばよいなと考え、SMF学校は、金曜日の夜、気軽にアートの時間を過ごすことができるプログラムを提案し、5つのプログラムを展開。

これがとても好評で、近くに住む主婦の方、サラリーマン、芸術家を目指す高校生などがリピーターとして参加してくれました。

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最後に、なぜ?評価をするのかについて、私なりに考えた事をおつたしました。ここで押さえておきたい事は、「評価は創造活動」であるという考え方です。一つの事業を終え、その事業を的確に捉え、次へのヒントや地盤とする。ただ課題だけを見出したり、良い点だけを声高に伝えるために評価をするのではないという事です。

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提案として、SMF学校の今回のプロジェクトを「さいたま市文化芸術都市創造計画」に示されている基本施策の体系にあげれている項目で達成できたと考える事柄にチェックをするという自己評価を行いました。

すると「施策4:文化芸術に対する理解及び関心の促進」・「施策:1文化芸術都市の創造のために必要な文化芸術活動の促進」の項目の達成の割合が高い事がわかります。

一方、「施策5:地域に根ざした文化芸術に関する資源の発掘・保護・活用」・「施策7:文化芸術活動の場となる施設の充実」はほぼ達成できていません。

ここで大切な事は、「さいたま市文化芸術都市創造計画」の中で行われた「さいたまトリエンナーレ」がどの項目の達成を目指し、それがどの程度達成されたのかを見出す必要があるという事です。

施策5は、盆栽のイベントや、鉄道博物館などの独自事業で全体として達成できる項目である事がわかります。施策7は、さいたまトリエンナーレの参加作家にはどうしようもない項目です。こうしてみていくと、作家の持つ創造力で達成できる項目と、行政が持つ創造力で達成しなくてはならない項目、さらに、それぞれの異なる事業の持つ達成できる項目の明確化が大切である事がわかります。

「基本施策の体系」を元に、トリエンナーレだけでなく、他の事業も評価することで、全体の「さいたま市文化芸術都市創造計画」が達成されているのかが見出されます。


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また、「人・アート(プロジェクト)・制度」の円環に照らし合わせて、高松市でおこなっている、アーティストが保育園などの現場で活躍する芸術士の制度。横浜市でおこなっているアートの場やその支援について紹介させていただきました。
                                                                                                
文化政策を行うことで、普段は見えなかった事柄が見えてきます。
それはアートの持つ大きな役割の一つです。
しかし、それは自分たちにとって都合のいいものだけではありません。見せたくないもの、隠蔽していたもの、ある意味毒などが露呈します。

けれどそれを多くの人と共有し、次へ寄りよくしていくために多くの人が集まり考えること契機が今回のさいたまトリエンナーレだったのではないかと思います。

冒頭に文化は「耕す」ものであるとお伝えしましたが、トリエンナーレを経て見出した広大に広がるまだ荒れ果てている土地に、豊穣の実りを想像できるか、が私たちに問われているのではないでしょうか?
                                                                                                             
●関連リンク

・さいたま市文化芸術都市創造計画
http://www.city.saitama.jp/0…/005/001/001/souzoukeikaku.html    
                           
・SMF(さいたまミューズフォーラム)
http://www.artplatform.jp/

・SMF学校
http://smfartschool.wixsite.com/saitama

・高松市、芸術士の取り組み
http://geijyutsushi.archipelago.or.jp/?page_id=702

・アーツコミッションヨコハマの取り組み
https://acy.yafjp.org/

⚫︎写真作家・造形ワークショップデザイナー ・キュレーター・「時間」と「記憶」をテーマに制作。2012年〜ヒロシマの被爆樹木をフォトグラムで作品制作 ●中之条ビエンナーレ2019参加アーティスト ●さいたま国際芸術祭2020 市民プロジェクトコーディネーター