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運賃はたったの「9円」─高齢化・過疎化の進む韓国の田舎を“激安タクシー”が救う【クーリエ・ジャポンからの抜粋-Vol.160】

かつてこの片田舎では、タクシーは手が届かない贅沢品だった。だが今では、村で最も貧しい人々までもが、この相乗りタクシーに容易に乗ることができる。乗客1人分の運賃が10円もしないからだ。

「これは神様の贈り物です」と、85歳のナ・ジョンスンは言う。舒川(ソチョン)郡にある彼らの村は「希望タクシー」、通称「100ウォン(約9円)タクシー」の発祥地なのだ。

韓国の田舎に起きた「革命」

遡ること8年前、舒川郡は危機に直面していた。人口減少に伴い、バスの乗客が減り、利益の出ないルートが廃止されたのだ。すると、バスの運転手がストライキを起こし、1日に3本あったバスがまったく来なくなった。その結果、僻地の集落で暮らす自家用車を持たない人々が、移動手段を失ってしまった。

そこで地元政府は、そうした村の住人たちにタクシーを使わせることにした。短距離移動の場合、このタクシーは客に100ウォンしか請求しない。残りの運賃は郡が肩代わりする。

このサービスが一番ウケている層は、収入が少ない年配の住民たちだ。ただし、高齢者に限らず、最寄りのバス停が700メートル以上離れた集落に住む人は誰でも、近隣の町に買い物に行くときにはこの9円タクシーを呼ぶことができる。

韓国政府のバックアップもあり、この計画はすぐに成功した。舒川郡での成功によって、この方法は他の地域にも広がり、韓国の田舎の交通事情に革命を起こした。

お年寄りにもタクシー運転手にも嬉しいサービス

ここ数年、韓国は世界で最も低い出生率を記録している。その結果、社会の高齢化が進み、社会福祉の予算から通学用の公共交通機関にいたるまで、社会のあらゆる面で歪みが生じている。

郡の役人によれば、補助金を出して、足腰の弱った高齢者以外はほとんど誰も暮らしていない山間部の小さな集落にバスを走らせたり、そのバスが通れるだけの幅がある道路を整備したりするよりも、100ウォンタクシーを支援するほうがよっぽど費用対効果が高いという。

舒川郡のスランゴル村に住む71歳のパク・キョンスは、週に1〜2回、100ウォンタクシーで街へ買い物に行く。彼女にとって、それがこの村で過ごす退屈な日々の気晴らしになっていると言う。村にある12軒の家のうち、3軒は空家で、日に日に老朽化が進んでいる。

「コロナ禍で、ますます孤独を感じています。子供たちが遊びに来るのが難しくなっていますから」とパクは言う。

また、地元のタクシー運転手も、9円タクシーを歓迎している。追加収入を見込めるからだ。

「私はおそらく、このあたりのお年寄りのことを誰よりもよく知っていると思います。週に2〜3回はタクシーに乗せてますから」と、100ウォンタクシーの運転手リ・キヨプ(65)は言う。

「誰かがタクシーに乗らないことが1〜2週間も続いたら、その人に何かあったのだとわかります」

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