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「ブルシット・ジョブ理論」そのものが“クソ”な理由──英誌が徹底分析【クーリエ・ジャポンからの抜粋-Vol.127】

グレーバーは、2018年の著書『ブルシット・ジョブ──クソどうでもいい仕事の理論』で、社会が意図的に多くの無意味な仕事「ブルシット・ジョブ」を創造してきたと主張する。

たとえば金融業務は、教養はあるものの学生ローン返済のためにお金が必要で、仕事のせいでうつ病に苦しむ労働者の時間を埋める存在でしかないとしている。

しかし、マグダレーナ・ソフィア、アレックス・ウッド、ブレンダン・バーチェルの3人の研究者が、グレーバーの著書で述べられた主張を分析したところ、実際のデータが示す事実は、グレーバーの予見とは真逆であるケースが多いと判明したのだ。

言い換えれば、ブルシット・ジョブの理論は、ほとんどが“クソ”だということがわかったのだ。

教育を受けていない人ほど「自分の仕事は無意味」と感じやすい

グレーバーが著書にて中心的に引用しているのが、イギリスとドイツの労働者に「自分の仕事が世の中に意味のある貢献をしているか」と尋ねた調査だ。自分でも意義を感じられる仕事を持つのは困難のようで、約40%が「自分の仕事は当てはまらない」と答えた。この事実自体に、特に驚きはないだろう。

一方、前出の研究チームは欧州労働条件調査の結果を引用した。この調査では、2015年までに35ヵ国に渡り、4万4000人の労働者から回答を集めた。研究チームは、「役立つ仕事をしていると感じるか」という質問に対し、「めったにない」または「まったくない」と回答した人たちに注目した。

社会において、ブルシット・ジョブの占める割合が高いと示唆するグレーバーの調査とは対照的に、「自分の仕事が役に立たない」と回答したEUの労働者は、2015年で全体のたった4.8%だったのだ。

さらに、事務系の仕事に従事する人は、ごみ収集や清掃といったグレーバーが不可欠だとする仕事をする人よりも、自分の仕事を役に立たないと考える人が圧倒的に少ないのだ。

「学歴」と「自らの仕事の有意性をどう感じるか」──この2つの関係について実際に研究者たちが見出した傾向は、グレーバーのそれとは反対だった──つまり、教育を受けていない人ほど、自分の仕事が役立たないと感じる傾向にあるのだ。

労働者の「疎外感」にこそ問題があるのでは?

しかし、グレーバーの理論の一部は、間違っていなかった。自分の仕事が役に立たないと思う労働者は、不安を感じたり気分が落ち込んだりする傾向がある点がそうだ。

先ほどの研究チームは、その理由がマルクス主義者の発想である「疎外感」にあると提言している。この「疎外感」は、19世紀に職人が個人で事業を営むのではなく、弾圧によって工場で働かざるを得なくなったときに覚えた感情を表したものだ。

疎外感は、労働者が上の立場の人にどのように扱われたかによって生じる。「管理者が労働者を尊重し、サポートし、労働者の言うことに耳を傾ける、また、労働者が自分自身のアイデアを用いて取り組む機会があり、質の良い仕事をする時間を与えられたら、自分の仕事が役に立たないとは思わないだろう」と研究チームは記す。

労働者は、能力を生かしたり独自性を表現したりする機会がない場合に、自分は役に立たないと感じる傾向がある。これは大卒の専門職従事者よりも低賃金の仕事をする人によく起こる問題だ。

これは本質的に、「人は悪い仕事を辞めるのではなく、悪いマネジャーを辞めるのだ」という古い格言の言い換えである。「自分の努力に意味がない」と感じる労働者が5%に満たないというのは、むしろ管理者にとっては褒められるべき状況だと言えるだろう。

なぜ人はときどき自分の仕事をつまらなく気が滅入ると感じるのか──そのことを説明するために、わざわざ「ブルシット・ジョブ理論」という手の込んだ陰謀を想像する必要はないのだ。往々にして人生というのはそういうものなのだから。

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