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未だに解明されていない「プラシーボ効果」とは結局何なのか【クーリエ・ジャポンからの抜粋-Vol.157】

人間のこころが病気の症状を引き起こす力は、「ノシーボ効果」または「反偽薬効果」と呼ばれている。ノシーボ効果は有名な「プラシーボ(偽薬)効果」と表裏一体の双子のような関係にあるが、こちらは嫌われ者だ。プラシーボ効果では痛みや病気の症状が緩和されるのに対し、ノシーボ効果の場合はこれとは逆に、痛みや症状が現れるからだ。

2018年に行われた研究では、プラシーボ試験の参加者のほぼ半数が、薬理活性成分の含まれない偽薬を投与されたにもかかわらず、副反応を経験していることが判明した。

2020年にファイザーが新型コロナワクチンの最初の大規模治験を行った際にも、同様の現象が報告されている。治験期間中、本物のワクチンを投与されなかったプラシーボ群の4分の1から3分の1が倦怠感を、それと同程度の参加者が頭痛を、そして約10%が筋肉痛を訴えたという。

偽薬がパーキンソン病に効くことも

ノシーボ効果は嫌われているのに対し、プラシーボ効果のほうはもはや説明不要なほどによく知られている。しかしこのあまりの身近さゆえに、プラシーボ効果が多くの点でたいへん不可思議な現象だということが忘れられがちだ。

これまでの研究で明らかになっているのは、プラシーボ(偽薬)によって症状改善効果が得られる疾患がきわめて多岐に渡っているということだ。

プラシーボと抗うつ薬の比較では、プラシーボ効果がうつ病治療に重要な役割を果たしている可能性が示されている。

以上の結果から言えるのは、プラシーボ効果は単なる暗示や妄想のたぐいではなく、測定可能な生理学的変化を現実に引き起こす、ということだ。プラシーボを鎮痛剤として服用した場合、痛みに関連した神経活動を低下させ、オピオイドと同じ神経伝達物質や神経経路が使われることが複数の研究から判明している。

プラシーボ効果の研究者は、薬理効果の発現となんらかの関係がある要因をいくつか発見している。たとえば治療に対する期待の度合いや患者の個性の違い、患者と医師の関係など。またプラシーボが脳内の報酬経路を活性化し、オピオイド作動性やドーパミン分泌を高めることも知られている。とはいえ、プラシーボ効果をもたらす根本的原因はいまだ謎のままだ。

だが、ノシーボ効果やプラシーボ効果が謎めいて見えるのは、私たちのものの捉え方じたいが間違っているからではないだろうか。「意識」というものの見方を転換すれば、プラシーボ効果やノシーボ効果もさほど奇妙に映らなくなるかもしれない。

現代の西洋文化が捉える「こころ」は脳の副産物であり、神経学的プロセスが映じる影のようなものだとみなされている。思考や記憶や感情といった心的現象をかたち作るのは、こうした脳の活動だというのだ。

たとえば心理面で問題が生じるのは神経学的均衡が乱れたからであり、薬物療法によって改善できると考えられている。しかしこの仮定が正しいとすれば、精神状態が脳だけでなく、身体にもこれほど強力な作用をおよぼすのはいったいどうしてなのか? 

こころは「物質」として存在するか

実際、「意識は脳内処理プロセスの産物以外の何者でもない」というような説明は行き詰まりつつあり、哲学者や科学者にはそれとは異なる見方をとる者が現れている。意識は脳の直接的産物ではなく、「質量や重力のように、基本的特性として万物に備わっているもの」というのが彼らの考え方だ。

メインストリームの科学者は、意識を神経学的に説明できるようになれば、ノシーボ効果やプラシーボ効果のような「あまりに気まぐれな」現象の解明に役立つのではないかと期待している。

しかし「意識は基本的存在」とする哲学的な見方を受け入れれば、「こころ」はある意味では脳や身体よりも強力で、だから脳や身体は「こころ」から深い影響を受ける、と言えるのではないだろうか。

そして、プラシーボの錠剤が現実に生理学的、神経学的な変化をもたらすことが多い理由についても、いつか説明できる日がやってくるかもしれない。

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