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近代デザインの歴史書「GRAPHIC DESIGN THEORY」

こんにちは、ナカムラです。今回は「GRAPHIC DESIGN THEORY」という書籍を紹介したいと思います。

本書は、20世紀~21世紀初期の伝説的なデザイナーたちが唱えた24の論考を1冊にまとめた書籍です。

デザインの歴史と、その歴史を築き上げたデザイナーたちがどのような思想から作品を生み出してきたのかを知る手がかりになる、一種のガイドブックです。

グラフィックデザインなので視覚言語を対象とするのですが、わずかに挿絵があるだけで、図解はほぼありません(泣)なので、今回は本書に加えていくつかの記事や書籍を参考に、19世紀~21世紀初期のデザイン史をまとめ、順番に説明したいと思います。

1)デザインの歴史(総論)

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本書で触れられている19世紀~21世紀初期のデザインの潮流を、1枚の図にまとめたものです。(字が小さくてゴメンナサイ…)

順を追って説明するので、図と照らし合わせながら見てもらえればと思います。

2)19世紀(デザインの起源)

まずは19世紀のデザインから。デザインの起源は19世紀の産業革命期で、粗悪な機械生産に対する反発から「手仕事の美しさを取り戻す」ことを目指して始まりました。

これがアーツ・アンド・クラフツ運動というものです。

教会のステンドグラスやインテリアのような、装飾性の高い”美しさ”を希求する運動で、結果的に高級品となり、その恩恵はブルジョワ階級のみが享受することになりました。反乱の予感ありですね。

3)20世紀(モダニズム - 前期)

20世紀に入ると、ロシアで新たなデザインのムーブメントが興ります。19世紀のブルジョワなデザインを「エリート意識とエゴに駆られた産物」「主観的な視覚性が社会を腐敗させた」と批判し、合理的かつ客観的なデザインによって、社会を変革しようとする活動です。

これをロシア・アヴァンギャルドと呼びます。

アヴァンギャルドのデザイナーたちは、作者性よりも匿名性を重視し、主観性を排して、誰にでも理解できる可読性・明瞭性の高いデザインを目指しました。

革命後のロシアに広まった「工業的発展こそが社会的進歩である」という社会通念から、工業的な合理性を重視したデザインが発展したと考えられます。

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(アレクサンドル・ロトチェンコ『レンギスのポスター』)

このロトチェンコの作品のように、

・幾何学図形
・対称性にこだわらない文字配置
・力強いフォント
・フォトモンタージュ

など、可読性の高い特徴が見られます。

4)20世紀(モダニズム - 後期)

アヴァンギャルドの思想に影響を受けたスイスのデザイナーたちによって、「社会の変革」という理想は形式的な方法論に変換され、破壊的な傾向を切り離したデザイン理論が確立されていきました。

その結果生まれた、地域や個人の特性を超えて、世界共通へと進む様式をインターナショナル・スタイルと呼びます。

インターナショナル・スタイルは、厳密にグリッド化されたレイアウトと書体を絞ったタイポグラフィによって、より中立的で合理的なデザインの価値を広めていきました。

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キューブ型のソファ「LC2」でおなじみのル・コルビジェも、インターナショナル・スタイルの1人です。

・モノトーンで無装飾
・合理主義かつ機能主義的
・直線的な造形表現

いかにもアヴァンギャルドの流れを汲むインターナショナル・スタイルという感じです。

また、この時期はアメリカにおいてデザインのビジネス的地位が確立し始めた頃でもあります。

コトラーの言葉に「デザインは、企業が競争する上で持続可能な優位を得るために使用できる強力な戦略ツールである。」とあるように、デザイナーとクライアントが直接取引し、優れたCI・VIが誕生しました。

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(ポール・ランド『IBM社のロゴ』)

余談ですが、目(eye)蜂(bee)Mのロゴは、社内イベント用にデザインされたもので、「標準のロゴを脅かす可能性がある」として当初は配布が禁じられていたそうです。

5)20世紀(ポストモダニズム)

モダニズムが50年以上続くなかで、大きな変化・進化は見られなくなっていきました。そうした停滞感への反発的な形で生まれたのがポストモダニズムです。

「個人や共同体は無限に多様であり、視覚形式は絶えず変化するので普遍性はあり得ない」として、主観的な、自己表現としてのデザインを主張しました。

ただし、実態としてはモダニズムの概念の解体ではなく、モダニズムの揶揄やパロディ的な要素が強かったようです。

原研哉さんは、著書「デザインのデザイン」の中で、

モダニズムの可能性と限界を自身の経験の中で見切ったデザイナーが、確信犯的に架空の記号体系をつくってデザインを遊んでみせた

と表現しており、「デザイン史における転換点にはなり得ていない」と評しています。ある意味で、19世紀への回帰っぽいところもあるので、真新しさはなかったのかも知れませんね。

6)21世紀(現代デザイン)

やっと我々の時代にたどり着きました。この時代は、何を置いても「テクノロジーの進化」が中心にあります。

テクノロジーが発達する以前は、出力するメディアによって制作過程も用いる技術も異なりました。映画、印刷、アニメーションでは使う技術もツールも異なっていたのが、20世紀です。

現在では、最終的な出力方法の違いはあれどほとんどがデジタルのソフトウェアを用いて制作されますよね。そしてそれらには互換性があります。

この互換性が肝で、以前は物理的に分断されていた技術、構成、図像などを自由に組み合わせることができるため、多様な(ある意味で無限の)視覚的・空間的形態を形成できるわけです。

また、今ではデザインツールやフォーマットもたくさん生まれています。それによって誰もがデザイナーになりうるし、そのデザイン手法はある意味で共通化されます。

Twitterでよく見かける二次創作や、『〇〇ジェネレーター』なんかもそうですが、ネットワークが拡張し、アイデア、ツール、知的財産をよりオープンに共有する文化が広がってきています。

これが新しい普遍性集合的作者性の正体です。

19世紀に見られた単純な主観性でもなく、20世紀の徹底的な客観性でもない、開かれた普遍性が21世紀のデザインにはあります。

デザインはストーリーテリング』の著者、エレン・ラプトンはこの状況をこう表現しています。

ポストモダニズムの後、今まさに出現しつつある普遍的なデザインは、一般的で中立的なコミュニケーション様式ではない。むしろ、テクノロジーによって進化し続けるコミュニケーション環境の中に絡まった、前例のない範囲の人々によって拡張・検証される視覚言語なのだ。

7)最後に

本書を読み進める中で、「この流派はなぜ誕生したのか?」「この思想から生まれるデザインってどういうもの?」という疑問が湧いて色々調べたのですが、この活動が1番学びになりました。

序文にも「インターネット時代のデザイナーに最も欠けている『思想』を手助けする一冊」とあるのですが、確かにここまでデザインの思想を体系的にまとめている情報はネットに落ちてないです。

その中でも、下記に参考記事として掲載しているものは具体的な内容が盛り込まれていてとても参考になりました。

以上、近代デザインの歴史書「GRAPHIC DESIGN THEORY」でした。最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

ナカムラ

※参考記事※

※過去の関連note※


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