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第35回東京国際映画祭【作品紹介】コンペ編

『1976[1976]』(チリ/マヌエラ・マルテッリ)

日本での公開作 : なし
 ※俳優としては『マチュカ 僕らと革命』(2004)『NAKED BODY ネイキッド・ボディ』(2013)がある
カンヌ : 本作(2022/監督週間)
ヴェネツィア : なし
ベルリン : なし

ピノチェト政権下のチリ。主婦のカルメンは司祭からひとりの若い男をかくまうように頼まれ、了承する。だが、そのことは彼女の生活を大きく変えることになる。独裁政権下の静かな恐怖を描いた作品。

 マヌエラ・マルテッリは俳優として2000年代初頭から活動しており、本作が長編二作目となる女性監督です。
 独裁政権下で抑圧される女性を演じる主演の方が非常に魅力的です。政治的な骨太スリラーでありつつ、ピンクや赤を使った鮮烈な色使いも見ものでしょう。

『アシュカル[Ashkal]』(チュニジア/ユセフ・チュビ)

日本での公開作 : なし
カンヌ : 本作(2022/監督週間)
ヴェネツィア : なし
ベルリン : なし
その他 : 『Black Medusa』(2021/ロッテルダム映画祭コンペ)

チュニスの郊外。民主化運動の最中に工事が中断された建設現場で黒焦げの死体が連続して発見され、ふたりの刑事が捜査を始める。ジャンル映画に政治的メッセージを注入した異色の監督デビュー作。

 監督は短編を二本、ドキュメンタリーを一本手がけ、本作が長編劇映画デビュー作となります。そんなデビュー作がカンヌの監督週間に入ったので相当なものでしょう。
 あらすじは今回のコンペで一番面白そうだなと思います。ミステリー×政治なんてすごい良さそうですよね。予告でもぎょっとするようなショットがあったり映像面でも期待できそうです。

『ザ・ビースト[As Bestas]』(スペイン/ロドリゴ・ソロゴイェン)

日本での公開作 : 『ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件』(2016)『おもかげ』(2019)
カンヌ : なし
ヴェネツィア : 『おもかげ』(2019/オリゾンティ部門)
ベルリン : なし
その他 : 『Madre』(2019/アカデミー短編実写映画賞ノミネート)

スペイン、ガリシア地方の人里離れた山間の村を舞台に、移住して農耕生活を始めたフランス人の中年夫婦が直面する、地元の有力者の一家との軋轢をパワフルな演出で描いた重厚な心理スリラー。

 アカデミー賞候補になった『Madre』、そしてそれを長編化した『おもかげ』が話題になりましたね。スペイン・アカデミー賞であるゴヤ賞では5回のノミネートを受けています。
 あらすじはなんとなく去年のコンペ作品『ザ・ドーター』を彷彿とさせます。『おもかげ』は観られていませんが、骨太で叙情的な作品になっていそうで期待させます。なんと言っても主演が『ジュリアン』『悪なき殺人』などでもお馴染みの実力派ドゥニ・メノーシェですから。それだけで観る価値はありそうです。

『窓辺にて』(日本/今泉力哉)

日本での公開作 : 『愛がなんだ』(2018)『サッドティー』(2013)など
三大映画祭 : なし
その他 : 『サッドティー』(2013/東京日本映画スプラッシュ)『知らない、ふたり』(2015/東京日本映画スプラッシュ)『愛がなんだ』(2018/東京コンペ)

稲垣吾郎主演×今泉力哉監督。妻の浮気を知った男が、芽生えたとある感情に思い悩むが…。正直すぎる男がそれでも幸せを希求する、ちょっぴり可笑しい大人のラブストーリー。

 今泉監督、相変わらずの多作ぶりですね。『愛がなんだ』以降惚れ込んでいていつも一定のクオリティを保っているのが素晴らしいですね。
 今回はオリジナル脚本ということで今泉節全開で面白そうですね。稲垣吾郎、玉城ティナといったスターに加えて今泉組常連の若葉竜也、穂志もえかといった芸達者の演技も楽しみです。
 今泉作品は東京国際映画祭で『愛がなんだ』を観てファンになったので勝手に運命感じてます。稲垣吾郎ファンが押し寄せそうなのでチケット入手は困難な気がしますが頑張りたいと思います笑

『エゴイスト』(日本/松永大司)

日本での公開作 : 『トイレのピエタ』(2015)『ハナレイ・ベイ』(2018)など
三大映画祭 : なし
その他 : 『ピュ~ぴる』(2011/ロッテルダム映画祭シグナルズ部門)

愛とは自分を救うためのエゴなのか、それとも…。高山真の自伝的小説が原作の本作は、編集者である主人公・浩輔とパーソナルトレーナーの龍太との愛を描いた物語。

 松永大司監督作品は観たことないんですよね。精力的に作品を発表しており、村上春樹原作の『ハナレイ・ベイ』が有名でしょうか。
 宮沢氷魚、鈴木亮平がカップルを演じる作品で、母親役には阿川佐和子がキャスティングされています。このところ日本映画でも多いものの、LGBTQ当事者に全面的に絶賛されているような作品はあまりない印象です。
 宮沢氷魚は『his』でも好演されていた(映画としては僕はあまり認めていないですが)し、鈴木亮平は予告編の映像をみるとガチムチタイプで何気にゲイにはよくいるタイプにちゃんと見えるのがいいですね。
 当事者の僕としては身構えてしまいますが、どのような描写になっているか楽しみにしたいと思います。

『ファビュラスな人たち[Le Favolose]』(イタリア/ロベルタ・トーレ)

日本での公開作 : 『氷の挑発2/曲解』(2006)
カンヌ : 『Angela』(2002/批評家週間)
ヴェネツィア : 『Tano da morire』(1997/国際批評家週間FEDIC賞・コダック賞)『I baci mai dati』(2010/イタリアの現在部門Brian賞)本作(2022/ヴェニス・ナイト)
ベルリン : なし
その他 : 『Mare nero』(2006/ロカルノ映画祭コンペ)『Angela』(2002/東京コンペ)

トランスジェンダーの女性たちが暮らすヴィラを舞台に、意に反して男装で埋葬された友人の遺志を叶えようとする住人たちを描く。コミカルな中にトランスジェンダーとして生きることの難しさが浮かび上がる。

 ロベルタ・トーレは1989年の短編以降ドキュメンタリー、TVシリーズなども合わせると18作品も監督しており、来年公開作も既に決定しているというような売れっ子女性監督のようです。ただ娯楽作が多いのか日本での紹介はほとんどされておらず、公開作は『氷の微笑』にあやかってつけられたであろう『氷の挑発2/曲解』のみ。ちなみに『氷の挑発』とは監督も出演者も異なる別物っぽい。
 このあらすじで思い出すのは2016年の東京国際映画祭で男優賞と観客賞を受賞した『ダイ・ビューティフル』です。こちらも男の姿ではなく女の姿で死に化粧してあげたいと奮闘するトランスジェンダーの話でした。コミカルで鮮やかな描写で綴られる感動作が期待されます。

『輝かしき灰[Tro Tàn Rực Rỡ]』(ベトナム/ブイ・タック・チュエン)

日本での公開作 : 『漂うがごとく』(2009)
カンヌ : 『Cuôc xe dêm』(2000/シネフォンダシオン部門)
ヴェネツィア : 『漂うがごとく』(2009/オリゾンティ部門FIPRESCI賞)
ベルリン : なし

ベトナムを代表する作家グエン・ゴック・トゥの小説を映画化。ベトナム南部の海沿いの村を舞台に3人のヒロインとそれぞれの男性との関係を描く。監督は『漂うがごとく』(09)のブイ・タック・チュエン。

 本作が長編四作目となるベトナムのブイ・タック・チュエンによる作品です。『漂うがごとく』は気になっていたのですが見逃してしまいました。
 映像が出ていないのでなんとも言えませんが、流麗なビジュアルが目を引きます。ベトナムの映画というのもあまり観たことがないのでこの機会に観るのもいいかもしれませんね。

『カイマック[Kaymak]』(北マケドニア/ミルチョ・マンチェフスキ)

日本での公開作 : 『ビフォア・ザ・レイン』(1994)『DUST ダスト』(2001)
カンヌ : なし
ヴェネツィア : 『ビフォア・ザ・レイン』(1994/金獅子賞)
ベルリン : なし
その他 : 『Bikini Moon』(2018/ファンタスポルト監督週間特別審査員賞)『Willow』(2020/ファンタスポルト監督週間作品賞)

『ビフォア・ザ・レイン』(94)でヴェネチア映画祭金獅子賞を受賞したマンチェフスキの新作。北マケドニアの首都スコピエの集合住宅を舞台とする群像コメディ。題名はトルコやバルカン半島で一般的な菓子の名前。

 長編映画デビュー作がいきなり金獅子賞を受賞、アカデミー外国語映画賞にもノミネートされたマンチェフスキの新作です。
 予告をみるに、シリアスでありながらかなり奇妙な作品だった『ビフォア・ザ・レイン』の作風と宗教的な題材はありつつも今作は独特なコメディタッチで良さそうですね。
 ファンタスポルトに過去二作が出品されていることを考えるとジャンル映画に分類されるのでしょうか。『DUST ダスト』は観ていないので予習がてら観てみようと思います。

『ライフ[Life]』(カザフスタン/エミール・バイガジン)

日本での公開作 : なし
カンヌ : なし
ヴェネツィア : 『ザ・リバー』(2018/オリゾンティ部門)
ベルリン : 『ハーモニー・レッスン』(2013/コンペ)
その他 : 『ハーモニー・レッスン』(2013/東京フィルメックス特別審査員賞)『ザ・リバー』(2018/東京コンペ)

『ハーモニー・レッスン』(13)で鮮烈なデビューを飾ったカザフスタンの異才エミール・バイガジンの監督第5作。企業経営に失敗し、全てを失った男の彷徨を驚異的な映像で描き、人生の意味を問う作品。

 三大映画祭でも結果を残しつつあるカザフスタンのバイガジン監督の新作です。本作は米アカデミー賞カザフスタン代表に選出されています。
 トロント映画祭でプレミアされているのですが、レビューが出てこないんですよね…
 スチール写真はかなり独特で「驚異的な映像」というのがどのようなものか期待させます。残念ながら彼の過去作は観られていないのですが、MUBIで『ザ・リバー』が10/20から配信されるようなので観てみようと思います。

『マンティコア[Mantícora]』(スペイン/カルロス・ベルムト)

日本での公開作 : 『マジカル・ガール』(2014)『シークレット・ヴォイス』(2018)
三大映画祭 : なし
その他 : 『マジカル・ガール』(2014/サンセバスチャン映画祭ゴールデン・シェル賞)『シークレット・ヴォイス』(2018/サンセバスチャン映画祭コンペ)

『マジカルガール』(14)でサンセバスチャン国際映画祭最優秀作品賞を受賞したスペインの俊英カルロス・ベルムトの最新作。ゲームのデザイナーとして働く若い男性とボーイッシュな少女との恋愛の行方を描く。

 『シークレット・ヴォイス』が人生ベスト級に好きなのでこれだけは何があっても観に行きます。コンペ作品で一番楽しみにしています。
 スチール写真みるだけでワクワクしてきます。恋愛ものという紹介ですがそれだけなはずがない!風変わりな作品であることは明らかです。カルロス・ベルムトの画面作りが本当に好きなので期待しています。

『山女』(日本/福永壮志)

日本での公開作 : 『リベリアの白い血』(2015)『アイヌモシリ』(2020)
カンヌ : なし
ヴェネツィア : なし
ベルリン : 『リベリアの白い血』(2015/パノラマ部門)
その他 : 『リベリアの白い血』(2015/インディペンデント・スピリット賞ジョン・カサヴェテス賞ノミネート)

18世紀後半、東北。冷害による食糧難に苦しむ村で、人々から蔑まされながらも逞しく生きる少女・凛。彼女の心の救いは、盗人の女神様が住むと言われる早池峰山だった。

 アメリカで制作した『リベリアの白い血』、そして『アイヌモシリ』とインディー映画界ではかなり有名な福永監督新作です。アフリカ系移民、アイヌ民族とマイノリティを常に描いてきた福永監督が今度選んだのはなんと時代劇。
 この予告はどうなんですかね…何も分からない…
 早池峰山は岩手に実際にある山で、そこを舞台に自然を大いに生かした映像が期待できます。「盗人の女神」というのがよく分かりませんが、スピリチュアルな物語になるのでしょうか。

『孔雀の嘆き[Vihanga Premaya]』(スリランカ/ サンジーワ・プシュパクマーラ)

日本での公開作 : なし
三大映画祭 : なし
その他 : 『フライング・フィッシュ』(2011/ロッテルダム映画祭コンペ)(2011/東京フィルメックスコンペ)『バーニング・バード』(2016/東京フィルメックス特別審査員賞)『ASU : 日の出』(2021/東京アジアの未来部門)

妹の心臓手術のために大金が必要となったアミラはとある会社で働き始める。それは望まれない妊娠で生まれた子供を外国人に斡旋する組織だった…。スリランカの逸材が描き出す社会のダークサイド。

 過去三作が東京で上映されており、東京生え抜きの監督と言っても良さそうです。
 社会派でありつつも風刺的なストーリーですね。クリップが公開されていますが、長回しフィックスで捉えられたショットが印象的です。黄色が特徴的な色彩に惹かれるものがありますね。

『テルアビブ・ベイルート[Tel Aviv Beyrouth]』(キプロス/ミハル・ボガニム)

日本での公開作 : 『故郷よ』(2011)
カンヌ : 『Mémoires incertaines』(2002/監督週間短編部門Gras Savoye賞)
ヴェネツィア : 『故郷よ』(2011/国際批評家週間)
ベルリン : 『Odessa... Odessa!』(2005/フォーラム部門CICAE賞)
その他 : 『故郷よ』(2011/東京コンペ)

1980年代のイスラエル、レバノン間の紛争を背景に、国境によって家族と分断されたふたりの女性の旅を描いたロードムービー。監督は『故郷よ』(11)で知られるイスラエル出身の女性監督ミハル・ボガニム。

 『故郷よ』が東京国際映画祭コンペに入りその後公開もされているイスラエルの女性監督作品です。政府との問題からキプロスで全編撮影、製作されているということで政治的要素を多分に含んだ内容なのは間違いないでしょう。
 映像がないので雰囲気は分かりませんが、スチール写真は非常に美しいですね。光や水を美しく捉えた映像が期待できます。

『This Is What I Remember[Esimde]』(キルギス/アクタン・アリム・クバト)

日本での公開作 : 『あの娘と自転車に乗って』(1998)『旅立ちの汽笛』(2001)『明りを灯す人』(2010)『馬を放つ』(2017)
カンヌ : 『旅立ちの汽笛』(2001/ある視点部門)『明りを灯す人』(2010/監督週間)
ヴェネツィア : なし
ベルリン : 『馬を放つ』(2017/パノラマ部門CICAE賞)
その他 : 『あの娘と自転車に乗って』(1998/ロカルノ映画祭銀豹賞)(1998/東京アジア映画賞スペシャル・メンション)『旅立ちの汽笛』(2001/東京コンペ)『馬を放つ』(2017/東京フィルメックスコンペ)

『馬を放つ』(17)で知られるキルギスを代表する映画作家アクタン・アリム・クバトの最新作。ロシアに出稼ぎに行っている間に記憶を失い、20年ぶりにキルギスに戻ってきた男とその家族を描くドラマ。

 監督作は観たことありませんが『馬を放つ』はなんとなく知っています。インディペンデントなヒューマンドラマといった雰囲気ですね。
 正直あまり惹かれませんが、過去作を観てみようと思います。

『第三次世界大戦[Jang-e Jahani Sevom]』(イラン/ホウマン・セイエディ)

日本での公開作 : なし
カンヌ : なし
ヴェネツィア : 本作(2022/オリゾンティ部門作品賞)
ベルリン : なし
その他 : 『Sizdah』(2014/釜山コンペ最高賞)

第二次世界大戦を扱った映画のヒトラー役の俳優が降板し、エキストラで参加していた日雇い労働者が代役に抜擢される。奇想天外な設定で描かれる風刺劇。監督は俳優としても活躍するホウマン・セイエディ。

 日本での紹介作はありませんが、俳優・監督として活動し、本作が長編6作目となります。また本作は米アカデミー賞イラン代表作品に選ばれています。
 あらすじだけだと風刺コメディかな?と思ってしまいますが予告編をみると極めてシリアスでサスペンスフルな作品のようです。映画内映画というのがどのように機能しているのか楽しみですね。

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