9.鈴奈(5)~放置~
価値あるもの
「また会いたい、また虐めて欲しい」という鈴奈からのメールを読み終えると、陶酔感が俺の身体の中心から湧き上がってきて、そして全身を満たした。自然と両腕が真っ直ぐに天を突き上げる。
俺は幸運な人間で、過去にも達成感を得る出来事は何度かあった。
ただ、それらは、俺自身が一人で成し得たモノというより、仲間のおかげや親から受け継いだDNAのおかげと思う部分が強かった。
しかし、今回、鈴奈が俺のことを「M嬢を辞めてもプライベートで会いたいご主人様」と考えたことは、俺が鈴奈に注いだ愛情が、純粋に鈴奈の心を掴んだからで、裸の一人の男として、裸の一人の女を「屈服」させたものだ。
裸の自分が成し遂げたもの、という意味で、自分のこれまでの人生で最も価値があるもののように感じた。
(鈴奈がアレを入れたかったと言っているところはちょっと気になるけど。やっぱりそこは父親のDNAのおかげなのか?)
俺は、早速返事を書いた。
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鈴奈、この2ヶ月間、お前は何をしていたんだ。
「また会って頂けないでしょうか。そして、もう一度、奴隷として厳しく調教して下さい」などと寝ぼけたことを書いていたが、そもそも、お前は、出会った時から俺の奴隷であり、俺の所有物だ。お前に自由は無い。俺が命令したら、お前は、直ぐに俺の所に来て、全てを捧げ、おれの欲望のはけ口として、お前の全身を道具として使って奉仕しなくてはならない。
来週、10日若しくは12日の午後2時にS駅前のマックの前で待っていなさい。
奴隷の分際で、勝手に俺から2ヶ月も離れていた罪は重い。お前のような身勝手な奴隷は、二度と俺から離れることができないように、身体に分からせる必要があるので、厳しい責めを覚悟して来なさい。
なお、当日は下着を着けずに来なさい。
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命令といいながら、10日と12日を選ばせるのは、俺がSに徹しきれないところだ。俺は鈴奈の家の場所は知らなかったが、以前、会話の中で鈴奈は最寄り駅がK駅だと言っていたからS駅に来るのは簡単なはず。
鈴奈からの返事は意外と時間がかかり、俺がメールを送った夜の翌日の午後だった。
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シュン様
お返事ありがとうございます。
それでは、12日の午後2時にS駅に伺います。
シュン様の奴隷に戻れるなら、どのような厳しい責めもお受けいたします。
当日は下着を着けずに伺います。
鈴奈は、ご主人様のご命令に従います。
シュン様に会える喜びで、はしたないところをお見せすることになるかもしれませんが、そんなどうしようもない女が、シュン様にふさわしい奴隷になれるよう、厳しくご調教ください。
鈴奈**********************************************************************************
有卦(ウケ)に入る
その時、俺と俺のチームは、大きな取引を抱えていた。1件の収益見込額が年度目標の半分。これを逃すか獲得するかで、チームと自分の年度の評価査定が大きく変わってくる。
入札は3月5日、顧客のニーズやライバル社の動向を探ったり、関連情報を集めたり、準備に忙殺されていた。
3月5日、取引はギリギリのところでライバル社に勝って成約した。これで、俺もチームのみんなも3月末を穏やかな気持ちで迎えられる。報酬は良い会社だったが、その分、プレッシャーもキツい。
俺に良い波が来ていた。良いことが続く時には不思議と続くもの。
俺は昔からギャンブル好きだが、ギャンブルに勝つ秘訣は、所謂有卦に入った時には取れるだけ取ること。そして、取れるだけ取れたら潮目が変わったところでスパッと止めることだと信じている。
ただ、この潮目を見極めることと、これまで勝ってきたのにスパッと止めること、それは本当に難しい。欲望とは人が生き残るための本能だが、時にはその本能がその身を滅ぼす原因になる。
多くの人が、それに気付くのは、自らが死に瀕した時だ。
有卦に入った時の陶酔の中で、人は自分だけが優れているかのような錯覚に陥る。
しかし、実際は自分が思っているより、ずっと愚かだ。
俺もその愚か者の中の一人だ。
大きな取引だっただけに事後処理も多く、鈴奈との約束の日12日はあっという間に来た。
12日の午後2時、S駅のマックの前に3分ほど遅れて行くと、既に鈴奈は待っていた。
ベージュのコートに俺が「首輪」としてプレゼントしたペールピンクのマフラーを巻き、髪はいつも通りポニーテールにまとめている。
俺の姿を見つけると満面の笑みを浮かべ、こちらに向かって歩き出しそうな素振りを見せたが、俺がホテルのある方向を指し示してそちらに歩き出したので、急いで、俺に追いつこうと駆け寄ってきた。
以前も使ったことのあるホテルに二人で入った。
部屋に向かうためにホテルのエレベーター乗り込むと、鈴奈が突然しゃがみ込んだ。具合でも悪くなったのかと思って顔を覗き込むと、眉をハの字にして申し訳なさそうな表情をしている。
放置
「済みません。下着着けずに来ることを忘れてました。」
ちょうどその時、取った部屋の階に着いたので、無言のまましゃがんでいる鈴奈の手を取り、引きずるように歩いて、部屋に入った。
鈴奈を床に放り投げ、
「お前は俺の命令をどう思っているんだ!」
と吐き捨てた。
「立て!」
「コートを脱げ」
鈴奈は今にも泣き出しそうな顔で俺を見上げた。
ゆっくりと立ち上がり、コートを後ろに落とした。白いブラウスの上に明るいピンクのカーディガンを着て、下は濃い藍色のロングスカートを纏っていた。ペールピンクのマフラーは付けたままだった。
「首輪をとれ。お前に俺の首輪を付ける資格はない!」
鈴奈は、マフラーを取り、畳んでテーブルの上に置いた。
「今日は、お前がして欲しいことは一切してやらない。」
「言いつけを守らないダメな奴隷として、お仕置きをして欲しいんだろうが、いつものように尻を赤くなるまで張ることもしない。」
「スカートを脱いで、ストッキングと下着を取れ。
下半身裸になって、手を後ろに回せ。」
鈴奈はうつむいて命令に従った。ピンクのカーディガンも脱がせて上半身を白いブラウスだけにすると、俺は持ってきた赤い綿ロープで、鈴奈の手を背中で縛った。
部屋の冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出すと、キャップを開けた。
「口を開けろ。」
鈴奈は口を半開きにした。
「飲め!」
俺は鈴奈の半分開いた口にペットボトルの飲み口を差し入れると、お茶を流し込んだ。
「一滴でもこぼしたら、今日はもうこれで帰すぞ。」
鈴奈は反射的に飲み口に吸い付くと、こぼさないように必死にお茶を飲んでいく。ペットボトルが空になるまで鈴奈に飲ませると、静かに命令した。
「俺がいいと言うまで、そのまま、黙って立っていろ!」
俺は、自分のカバンからノートパソコンを取り出し、テーブルに置いて仕事を始めた。
鈴奈は俺の斜め前に、白いむっちりとした足を内またに閉じて、上半身はブラウスのまま後ろ手に縛られて立った。
申し訳なさそうな、切なそうな表情をしている。
俺は冷たい視線を鈴奈に向け、そして無視した。
俺が、パソコンに向かって仕事をつづけていると、鈴奈は、じっとしていられなくなり、太ももをこすり合わせながら全身をよじっている。
切迫してくる尿意に耐えかねているのか、「下半身だけが裸」という恥ずかしい格好で放置されている自分の姿に感じているのか、鈴奈自身がどちらかわからなくなるまで、俺は、鈴奈を放置することにした。
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