たとえびと #2000字のドラマ
立川南高、プール
西田かつじ(17)と川原晋平(17)がプール掃除をしている。西田と川原は、デッキブラシでプールの床を磨いている。
西田「罰ゲームか!この広さをふたりでって罰ゲームか!」
川原は黙々と床を磨いている。川原は西田を見つめる。髪をかき上げる。
西田「江口洋介か!あの頃の江口洋介かよ!…おい、何か言えよ」
西田は首から下げたタオルで汗を拭く。
西田「この暑さでひとりで喋ってたら、危ない人だよ?ねー!」
川原は、ポケットからサングラスを取り出してかける。
西田「どういうこと?プール掃除中にグラサンかけるって、どういうこと?ここLA?」
川原は、サングラスを少しずらして、西田を見る。
西田「俺はカワイ子ちゃんなのか!?」
西田はデッキブラシを床に倒す。
西田「オイ、何か言えよ、まだ掃除は終わらないから長い付き合いになるんだぞ」
川原はサングラスをはずして、ポケットに入れる。
川原「いや、ちょっとまて、お前が例えツッコミの練習するから黙って掃除しろって言ったんだぞ。お前の例えツッコミの精度が低いから、サングラスかけて助けてんじゃねーかよ。あの頃の江口洋介ってどの頃だよ!」
西田「東京ラブストーリーの頃」
川原「古っ!世代違うだろお前、古いドラマの見過ぎはよくない」
西田「じゃいつ頃がいいんだよ」
川原「せめてロンバケ?」
西田「あんま変わんねーなー!」
西田はズボンを捲り上げる。西田は落ちているデッキブラシを拾う。西田はプールの床を磨く。
西田「確かに、同世代に合わせてもっとツッコミの精度上げないとな。女子に人気出ないよな。お前のネタと俺のツッコミで売れたいよなぁー」
川原は床を磨く。
西田「聞いてる?もう時間もないしな。ってか俺まだ親に言ってねーんだよ。芸人になるって、お前言った?」
川原は首を横にふる。川原は力強く床を磨く。
西田「寡黙だなー、ショーシャンクの空の主人公ぐらい寡黙だなー」
川原は床を磨いている手を止める。
西田「聞いてる?そろそろ例えてて恥ずかしくなってきたんだけど」
川原「西田…俺、結婚するんだ」
西田は手を止めて川原を見る。プールサイドの水溜りに日差しが反射する。ふたりは棒立ちしている。
西田「と、と、年頃の女子かよ!」
川原「卒業したら結婚するんだ、だからさ」
西田「あー!?あれか?自分を追い込む的なやつだ。少し高めの家賃に住む的なやつだ。はいはい、なるほど。川原、お前気合い入ってんなぁー」
川原「いや、ちがうよ。そういうんじゃなくて、フツーに結婚したい人がいるからするんだよ。だからコンビ組んで芸人やるってのは、ナシで。だからごめん、チョコパフェは解散だ」
西田「え?え?って誰と!?え、ってかチョコパフェって何!?」
川原「コンビ名だけど、言ってなかったっけ?かわいくていいかなって、チョコパフェ」
西田「あー、うん。すげーいいよ、それで行こうよ、いいじゃん」
川原は顔の前で手を左右に振る。
川原「いやいや、解散だから、卒業したら千夏先生と結婚するから、ナシナシ」
西田「ち、千夏先生!?千夏先生ってあの千夏先生?」
川原「そう、あのみんな大好き千夏先生」
川原は頭をかいて照れる。
川原「ま、俺の未来のカミさん」
西田「なに照れてんだよ!カミさんってなんだよ、お前その歳でカミさんって言っちゃうタイプなの!?渋すぎるだろ!なんだよお前、急に結婚とか解散とか、チョコパフェとか!チョコパフェはいいけど、ってか、解散結婚千夏先生カミさん、…先生と高校生が結婚!?」
川原「魔女の条件みたいだろ」
西田「うるせーよ!古いよ、えー!?情報量が多すぎて」
西田はプールの床に座り込む。
川原「オイオイ座るなよ、掃除しよーぜ。終わんないぞ、早くやって帰ろーぜ」
川原が、西田の肩を叩く。
西田「さわんなよー、もう掃除しない。もういい、放っておいてくれ」
川原「子供かよ!オイ早く掃除して帰るぞー」
西田は体育座りをして動かない。近くの木で蝉が鳴いている。
扇風機の前で西田かつじが体育座りをしている。その隣で西田渚がバスタオルを首にかけて缶ビールを飲んでいる。
渚「早い話がふられたようなもんだな。相方、随分アンタより遠くいっちゃったね」
かつじ「ねーちゃん、俺も結婚しようかな」
渚「は?アンタ童貞でしょ、何言ってんの?」
かつじ「!?…ちがいますよ、やだなーお姉さん、バンバンですよ」
渚「ウソつけ!アンタ古いドラマ見て遊んでるだけじゃん、見てたらわかるわ」
かつじが扇風機に向かって話す。
かつじ「ねーぢゃーん、女子じょゔかいしでぇー」
渚「は?馬鹿じゃないの!勉強しろ!ウジウジするな!古いドラマ見るな!ってか勉強しろ!」
かつじ「じでくださいよー、がわいそうな弟にぃ」
渚「じゃ、勉強したら、検討してやる」
かつじは立ち上がる。
かつじ「しゃー!」
扇風機に足をぶつける。階段にむかう。
かつじ「ねーちゃん約束な!」
渚「馬鹿だなー、いまから勉強すんの?」
かつじが階段で振り返る。
かつじ「明日からな!」