_note表紙画像_Yogaと哲学で

マトリックスが気付かせてくれる「リアルとは何か?」

きっと観たことがなくとも、知らない人の方が少ないのではないでしょうか。「マトリックス」という映画のことを。

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画像元:https://www.rottentomatoes.com/m/matrix/pictures

監督:アンディ・ウォシャウスキー、ラリー・ウォシャウスキー兄弟(当時は“兄弟”でしたが、現在は“姉妹”です)の持つ独自の感性、「オタク(アニメ、カンフー等)」「哲学・東洋思想」「信仰」などが一堂に会し、融合した作品です。

1999年に公開された時には、僕の齢が7歳という驚きの若さでして、その時(8~9歳ごろに初めて観たと思います)には分からなかったことが、たくさん分かるようになった今です。

ただ歳を重ねたから分かるようになったのか?と問われれば、そうではないと思います。インドという地で哲学というものを学び、彼らの信仰というものに触れたからだと言えます。

そのような体験を経て、あらためてマトリックスという作品を見ると、爽快なアクションの中に数々の哲学的名言が散りばめられています。

そういう風に感じながら観ていくと、以下のやり取りが「もしや…これが真理?」と感じてしまう不思議。

(質問「マトリックスとは?」に対して)

その答えは、どこかであなたを捜している。
そして見つけるわ。あなたが望めばね。

─トリニティ

序盤に「現実」やら「仮想現実」やら飛び交って、主人公のネオ(と、きっと観ている僕たちも)が「?」ばかりの状況で、ネオは質問します。

ネオ(主人公)「マトリックスとは?」

それに対して「その答えは、どこかであたなを探していて、あなたが望めば見つける」だなんて、普通だったら答えになっていないようなものが真の答えに聞こえてしまう…なんだか「求めよ、さらば与えられん」みたいですね。

この映画では、当たり前のように話していることや、知覚しているもの、それらに多くの“問い”を与えてくれます。

このように、日常を平和に暮らす僕たちに「ちょっと考えてみよう」というヒントをたくさんくれる映画、それがマトリックスではないかなと思っております。

各セリフの背景とともに、平岡解説でお送りいたします。
(意外と真面目に書いています)

”美味しい”も”好き”も、ただの思い込みでしかない

この肉も実在しないんだよな─
 口の中に放り込むとマトリックスが脳に信号を送り、
うまいと錯覚させる

─サイファー

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台詞背景:
現実世界に目覚めた主人公は、強いメンバーの集まるチームで行動をしているのですが、仲間の一人であるサイファーという男は現実世界に目覚めてしまったことに後悔しています。

現実世界にうんざりしてしまい、肉体はもう捨てて、仮想現実で生きていこうと決心したのです(現実世界に目覚める前はこの仮想現実がリアルだと、皆そう思って生きていました)。

味方の裏切りを決めたサイファーは、敵エージェントとの密会にて食事をしながら、

「この肉も実在しないんだよな─ 口の中に放り込むとマトリックスが脳に信号を送り、うまいと錯覚させる」

と言います。

“美味しい”という感覚は、仮想現実内の、ただの電気信号であると知っていても、なおそれが良いと思う彼。


平岡解説:
たしかに、食事の「美味しい」「美味しくない」って僕たちが決めていることなんですよね。その食材自体が「美味しい物」かどうかではないんです。例えば、珈琲を苦くて美味しくないものだと思う人がいれば、その苦みが美味しいと感じる人もいます。そもそも、珈琲の苦みですら千差万別の感じ方があったり。あれ?これって今の僕たちが住む世界でも言えることでは…

同様に、僕たちは勝手に頭の中で「好きな人」「嫌いな人」「いい人」「悪い人」も決めてしまいます。その人は、ただの“その人”にも関わらず。

食べ物や人を、完全に自分基準でカテゴライズしているだけなのに、あたかもそれが世の理のように思ってしまうことはないでしょうか。

美味しいお肉も、いい人も、本当に目の前に存在しているのでしょうか。

色即是空空即是色
色(シキ)は即ちこれ空なるものなり

およそ物質的な現象などというものには、すべて実体がないと説く。われわれの肉体はまさに物質的現象だが、間違いなくここにいる人一人として、あと百年とは存在していないわけだから、そういう意味では永遠不滅の実体ではないということ。 ─(般若心経より)



考えても考えても、それは「脳の範囲」でしかない

速く動こうと考えるな。速いと知れ。
心を解き放つんだ
─モーフィアス

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台詞背景:
現実世界に目覚めたばかりで、まだまだ未熟者の主人公ネオ。彼に訓練をしてくれるチームのリーダーであるモーフィアス。現実世界に目覚めた利点は、「仮想現実を仮想現実と知れること」。つまり、“現実では不可能なことが可能になる世界だと認識できること”です。

ネオとモーフィアスの戦闘訓練、カンフーでの組手中に、なかなか相手(モーフィアス)に拳が届かないネオに対して、モーフィアスは体を動かすことのアドバイスをします。

「速く動こうと考えるな。速いと知れ。」
「心を解き放つんだ」

考えることを止めたネオは、驚くべきスピードで拳を繰り出すことになります。

平岡解説:
冒頭の「マトリックスとは?」の回答のように、「すでに知っていることを考えてみても、それは脳を使っているだけ」のようなセリフです。

例えば、頭で考えられる速さは、それよりも速くなることはありません。なぜなら、「自分の拳は100km/hまで」と思ったら、そこが限界値であり、頭(脳)を使って拳を繰り出そうとしてしまうからです。

「自分が速いと知れ」=「意識の拡大/想像の超越」ではないでしょうか。

速い自分を想像できること=それを実現できる

スポーツ選手の試合で勝つイメージが大事であったり、ビジネスマンの商談が上手くいくイメージが大事であったり、そのようなものと共通した意識であると思います。

頭を優先的に使うばかり、自分で自分のリミッターを作っていませんか?

意識が行動を変えるとは、まさにこのことではないでしょうか。



周りを変えようとするな、自分が変われ

曲げようと思ったら、曲がらないよ。
そうじゃなくて、真実を見ようとしなきゃ。
スプーンはないんだ。曲がるのはスプーンじゃなく自分自身だよ。
─スプーン曲げの男の子(候補者)

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台詞背景:
預言者と呼ばれるマトリックスのキーパーソンに会いに来た主人公のネオ。そこは預言者の家と呼ばれ、ネオが訪れた際には、特殊な能力を持った子どもたちが”候補者”として、多くそこに集まっていました。

預言者と面会直前に控室で待つネオ。そこにスプーンを曲げる少年がいました。その少年からスプーンを手渡されたネオに対して、

「(スプーンを)曲げようと思ったら、曲がらないよ。そうじゃなくて、真実を見ようとしなきゃ。」
「スプーンはないんだ。曲がるのはスプーンじゃなく自分自身だよ。」

すると、ふにゃっと曲がるスプーン…

平岡解説:
先述した「色即是空空即是色」という言葉・考え方もそうですが、瑜伽行唯識学派は、「個人にとってのあらゆる諸存在が、唯、八種類の識によって成り立っている」としています。このおよそ4世紀前には『華厳経』により、「存在するものは心の表れである」と説かれています。

「会社(同僚)が、、、」「家族(恋人)が、、、」と、自分は正しいから周りが変わるべきだ、なんて思ったことはありませんか?

”同僚が怠惰なのは自分が怠惰だから”かもしれませんし、”恋人の愛が足りないと感じるのは自分が愛していないから”かもしれません。

自分を変えるということは、自分だけが変わるのではなく、周囲も含めて変っていくものかもしれませんね。

心は工みなる画師の、種々の五陰を画くが如く、一切の世界の中に、法として造らざる無し。心の如く仏も亦た爾り。仏の如く衆生も然り。心と仏と及び衆生と、是の三に差別なし。諸仏は悉く一切は心より転ずと了知したもう。若し能く是の如く解せば、彼の人の真の仏を見ん。
─『華厳経』第16章「ヤマ天宮の菩薩たちの詩の草」

心は、巧みな画家がさまざまの五陰(色・受・想・行・識)〔から成る人〕を描き上げるように、一切の世界においてあらゆるものを造り出す。心のように、仏もそうであり、仏のように、衆生もそうである。心と仏と衆生との三者に、区別はない。仏たちは、みな、一切のものは心から起こるということをはっきりと知っている。もしもこのように理解することができれば、その人は真の仏を見るだろう。
(─参考・引用:華厳経入門, 木村 清孝, 角川ソフィア文庫, 2015年2月)


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おわりに

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映画の醍醐味と言えば、もちろん映像、”視覚”からの情報なのですが、少し言葉や音など”聴覚”を意識してみるのも楽しみの一つですよね。目からの情報量に圧倒されてしまいそうになりますが、ちょっと頭と心に余裕を持たせて、「この言葉の意味とは?」を考えるのもきっと面白いんじゃないかなと思います。

皆さまの、おすすめの映画を是非とも教えてください。


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