『悪意』のアンテナ(SS;2,600文字/エレクトロニック・ショート・ショート・カタログ)
「ねえ君たち、アンケートに答えてくれない?」
いつものように駅前で2人の女子高生に声をかけた私は、振り返った彼女たちを見てギョッとした。
「なんですかあ?」
その頭には揃ってえんじ色のカチューシャがはまっていたが、驚いたのはそこから、先端に白い球のついた2本の棒が斜め上に向かって突き出していたからである。
「‥‥あ、いやその、アンケートに答えてくれれば海外旅行が格安で行けるんだけど、どうかな?」
2人は顔を見合わせた後、もの欲しそうな目を向けた。通常のカモの反応だ ── 安心して説明に入る。
「時間は取らせないし、変な勧誘じゃない。君たち、もちろん、ウルトラ・ツーリストって会社は知ってるよね? え、知らないの? そうかあ……まだまだPR不足だなあ。僕はそこのマーケティング部のスタッフでね、今、若者の旅行願望を調査しているんだ。……あ、これはお礼の粗品」
私は紙袋からボールペンを取り出した。この後はアンケート用紙を埋めさせ署名をもらう、そしてその用紙が実は、年会費5万円の海外旅行情報クラブ入会手続きになっている仕組みなのだ。
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