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す 「スクワット」


筋トレをしている人なら分かると思うのだけど、スクワットは一番好きで、そして一番嫌いな種目だ。大嫌いだけど大好き。なんか、ティーンエイジャーの烈しい恋愛のようだ。「ビッグ3」と言われる種目がある。スクワット、デッドリフト、ベンチプレスがそれなのだけど、基本筋トレを真剣に始めた人はこの「ビッグ3」にまずは取り組むことになる。ベンチプレスは「みんな大好きベンチプレス」で、とにかく大人気だ。大胸筋が発達すると鏡で自分を見たときに満足できるし、筋トレしている人同士で「ベンチプレス何キロ挙げられる?」はもう挨拶みたいなもので、「重量マウント」も取れる。「え?100キロ挙がるんですか? すげー!」「いやいやたいしたことないよ」(満足顔)。

デッドリフトはきつくてややマニアックな種目なのだけど、これはそもそもやらない人が本当に多いからあまり話題にも上らない。僕はこの種目が大好きなのだけど、スクワットのような両義性はない。とにかく好きなのだ。めちゃくちゃきついんだけど、身体の裏側の筋肉をすべて動員するこの種目をすると、「筋トレをしたなぁ!!!」という満足感を得ることができる。

スクワットはじゃあ何なのか。

スクワットは……

スクワットは、哲学だ。

スクワットを語ることはその人を語ることなのだ。あなたがスクワットを見つめているのではない。スクワットがあなたを見つめているのだ。

自分でもちょっと何言ってるのか分からない。

自分でも分からなくなるぐらい、スクワットというのはやっかいな種目なのだ。まず、これは間違いないんだけど、無数にあるすべての筋トレ種目のなかで、高重量のバーベルを担いでフルボトムまでしゃがむタイプのスクワットは、最も難しい。僕はこれができるようになるまで4年半ぐらいかかった。フォームの習得がとにかく難しい。そして何より、怖いのだ。70キロとか80キロのバーベルを担いで、しゃがむ。「潰れたらどうしよう」という恐怖と闘うという意味で、120キロを扱うデッドリフトよりもぜんぜん怖い。その恐怖心に打ち勝ち、しゃがむ。立ち上がる。セットの後半は息が上がりすぎて気が遠くなる。中にはスクワットの後に吐く人もいるという。「明日がスクワットの日だ」と思うと前日から憂鬱になるぐらいだ。逃げ出したい。でも、やる。しゃがむ、立ち上がる。決然とスクワットをやる。

やり終わったあと、僕たちは思うのだ。あぁ、スクワットがこの世界にあって良かった、と。生まれてきて良かった。生まれてきて、恐怖心に打ち勝ち、そしてスクワットをする人生で、良かった、と。生まれ変わってもまたスクワットをしたい。大嫌いだ。でも大好きだ。

スクワットはそういう種目なのだ。

多くの人はちょっと何言ってるか分からないだろうけど、これが「分かる!!!」という人は僕に連絡をくれ。泣きながら明け方まで酒を酌み交わそう。


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