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機械仕掛けのコウノトリ 45

第1話

前話

 市役所の空気はどうしても毒を吸っているように胸を突き刺し、後ろめたさがぬぐえなくなる。

それをなんとか平常心で整えようとする事さえも、おかしな事であるように思えて怪しく感じる。

自分の番号が呼ばれて、受付にいくと個室に案内された。四十代か五十代だろうか、貫禄のある職員が手馴れながら、でも、丁寧に椅子に座った。

そして、少しだけ笑みを浮かべてから今回の特別措置についての説明を始めた。

試験については面接のみ行われるということだった。「あまり気負わずに臨んでください。これまでの五年間過ごした日常通りに思ったことをしゃべっていれば問題ないはずですよ」とまた職員は笑顔を浮かべる。しかし、私には絶対に逃すことができない奇跡のチャンスなのだ。私はこの職員に聞けることを何でも聞いた。過去にこのような例はあったのか?その時はどんなことを行ったのか?職員は笑顔のマスクをずっと貼り付け、テンポもペースも変えないまま私の質問に答えてくれた。

「個人情報なのであくまでも話せる範囲ではありますが」と前置きをつけながら。その内容自体に大きな意味があった訳ではなかったが、同じような措置が特例として密かに行われていた事実自体が、普通である私の人生に進める道が用意されていたような安心感を抱かせた。

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