長い夜を歩くということ 94
夕食はいつもよりもなぜか美味しく感じた。味の細やかな違いに気づき、それを味わうことができる。そんな感覚だった。
彼は素直にそのことを彼女に伝えると
「やっと私の料理の美味しさに気づいたの?全く仕事ばっかりの社長さんはこれだから困る」
と笑いながら答えた。
彼は苦笑いをしてなんとかやり過ごす。
彼女はすぐに来週歌う曲について話出したので、彼は相槌を打ちながらその話を聞いた。
食事を終えてから彼はソファに座り、彼女は食器を洗っていた。
食器洗いくらいは自分がやると彼は言ったが、彼女はそうさせなかった。
「ソファにでも座ってゆっくりしてなさい」とまるで犬を叱りつけるように彼にピシャリと言ったのだ。
彼がそうしてくつろいている時に、彼女はまるで忘れ物でも思い出すように言った。
「…ましょ?」
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