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長い夜を歩くということ

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【この夜はまだ明けない。まだ、明けて欲しくない。】 「雨は朝でも昼でもなく、夜に降るものが一番好きだ。なぜなら夜の雨は黒く、家や街すらも塗りつぶし忘れさせてくれる。そんな気がす…
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#毎日連載

長い夜を歩くということ 133

 次の日の朝一番に、院長に昨夜の件を報告すると口を結んで考え込んでいた。 そして、「対策…

しゅん
2年前

長い夜を歩くということ 134

「でも、まあ、記者に追われるようなことはもうごめんです。あれは驚くし、いきなり問い詰めら…

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 135

 夕方になってから院長に呼び出されたので院長室に入ると、穏やかな笑みで私を迎えてくれた。…

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 136

院長はおもむろに引き出しからファイルを取り出し、パラパラと捲る。 無数の名刺が透明なフィ…

しゅん
2年前

長い夜を歩くということ 137

 濃淡で模様を作る灰色の空が、裸の樹々を圧迫していた。 肌を刺すような冷たい空気はより透…

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 138

彼女は悪戯な瞳で私の顔を覗き込む。遊んでいるような、試しているような、演じているような。…

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 139

「それは…光栄なことですね。麗華さんにとって初めての男になったということですから」 「先生はそんなことまで言えてしまう人だったんですね。結婚生活は…なんだか苦労しそうですね。振られて正解だったかもしれません」 小鳥が笑うように囀った。彼女の体は少しでも動く度、無数の罅が入っていくようで、私の口は考えるよりも早く動く。 「でも、今まで言い寄ってくる人はたくさんいたでしょう。その中でも芸能界なら素敵な人もいたでしょうし。どうして結婚しなかったのですか?」 おしゃべりな私の

長い夜を歩くということ 140

彼女は 「私って意外と気さくだから、アプローチは誰からでも受けるのよ」 とわざとらしく胸…

しゅん
2年前

長い夜を歩くということ 141

彼女は口だけ笑顔を作り、葉から露が落ちるように視線を布団の上に落とした。 見つめる先には…

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 142

 新しい部屋での生活には何の支障もなかった。 家具家電は一通り揃い、1LDKの間取りは独…

しゅん
2年前

長い夜を歩くということ 143

 ゴッホが塗りつけたように無愛想な暗灰褐色の幹には、深緑の苔が吹きつけられ、上へ伸びてい…

しゅん
2年前

長い夜を歩くということ 144

「少し汗をかいてしまったので窓を開けても良いですか?」 彼女は「どうぞ」と目尻に皺を作る…

しゅん
2年前

長い夜を歩くということ 145

「どうしてですか?」 「ドラマでもよくあるでしょ?気になるところで翌週に持ち越したりする…

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 146

「でも、あれはやっぱり暑いものですよ。熱はこもるし、頭は坊主でも結局帽子を被るわけで、それはそれで暑いですから」 「先生は随分と詳しいのですね」 「ええ。中学までは野球をしていましたから」 「あら、そうだったんですか。先生はエアコンの効いた部屋で本でも読んでそうなものなのに。意外ですね」 「部活動以外の時はご想像の通りですよ」 「では試しに、坊主にしてみるというのはどうでしょう?中学時代の思い出も蘇ってくるでしょ?」 「思い出したいと思えるようなことに心当たりがな