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黒猫様のお楽しみ vol.4

〈夜鳴き事件〉
 やってきたばかりの頃、フラットは夜によく鳴いた。
 低めの大きな声で。アオー、アオー、と。
 馴染んでいるように見えるが、やはり見知らぬ場所は不安なのだろうか。人が寝ちゃうと寂しくてかまってほしいのだろうか。
 初めの内は起きてあやしていた私だが、体力的にしんどいときもある。ベッドから「うんうん」「そうだね」「もう寝ようか」「寝て」などと言うだけで済ますこともあった。済まないんだけどね。
 不安が原因ならだんだん慣れてくれるだろう、と思って耐えていたんだけど、結果的には、あれは完全にかまってちゃんだったね。
 「起きろー」「暇だー」「遊べー」。そういう主張だったのだ。
 つまり、夜鳴きは月日とともに治まるようなことはなく、真冬で寒い時期以外は(お布団やベッドでぬくぬくしてるからね)けっこう頻繁に起き続けることとなったのだった。
 勘弁してー。
(一応、ネットで対策を検索したりしてみたところ、「寝る前にちょっとでもいいから運動させろ」とあったのだが、効果のほどははっきりしませんでしたね……よく遊んでも起きるときは起きる……)

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〈ジャンプ失敗事件〉
 猫テイマーとこっそり呼んでいる、猫扱いの上手な友人がやってきた。
 お土産におもちゃをくれて、それでじゃらしてくれている。これまでに見たことないほどのジャンプも見せてくれた。と、跳べるんだね!? 8キロの巨体で!
 そんななか、テンション高く走り回ったフラットは、ローテーブルを飛び越えようとして……はい、高さが足りず、お茶を蹴飛ばしましたとさ。
「わー!」
「ぎゃー!」
 飛び散るお茶。濡れるカーテン。悲鳴を上げる人間たち。走り去る猫。顔を見合わせて大笑いする人間たち。少し離れて「おや、何かありましたか?」みたいな顔してる猫。
 やれやれ、困った猫ちゃんだね。(笑顔で)

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〈行方不明事件2〉
 過日のテレビの裏事件以降、フラットがどこにいるかわからないということはなくなった。いないと思えばテレビの裏、というわけだ。
 と、思っていたのだが。
「あれ?」
 いない。見えるところはもちろん、テレビの裏にもいない。
「フラット?」
 しーん。
「どこ?」
 荷物もきてないし、外に出たはずはない。私は困惑しながら彼を探した。
「おーい、フラットー?」
 何度も呼び続けると、どこかから
「にゃー」
 声がした。
「……どこ?」
「にゃー」
「ど、どこ?」
 きょろきょろする私の視界に何か動くものが映った。そちらを見て、気づく。カーテンが揺れたのだ。
「え、そんなところ?」
 カーテンの向こう、細い窓枠にちょこんと乗ったフラットは、のぞき込む私を目をまん丸にして見返してきた。
 いやー、狭いところに上手いこと座って、しかも落ち着いてるもんだね。

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