黒猫様のお楽しみ　vol.2

〈「ん？」って言う〉
　フラットの特徴。
　大きい。
　みっしりしている。
　尻尾が短い。
　鼻の頭にちょっと傷跡がある。
　ルーズスキンがお腹でふるふるしている。
　「ん？」って言う。
　最後のこれ。本当に、人間が「ん？　何？」って言うみたいに「ん？」って言うんです。最初に聞いたときは可愛すぎて身悶えした。
　何度聞いても可愛すぎて身悶えするんですけどね。
　でも「『ん？』って言ってー？」ってお願いしても言ってくれません。そういうところ、ほんと、猫様だな。

〈巨猫事件〉
　まあ、フラットは、大きいわけです。
　もともとの骨格もしっかり大きいんだけど、まあ、言ってしまえば、その上に更に脂肪たっぷりなわけです。
　しかしその割には（？）、食べるのが苦手。食欲はあるんだけど、ちょっと量を多めに食べるとすぐ吐いてしまう。フードを入れっぱなしにするのはNGで、ちょくちょく足してやる必要があるとわかったのでした。
　そんな大猫フラットちゃんですが、まあ、大きいわけです。
　猫が自分のお腹をなめようとする仕草をご想像下さい。前屈みたいにする必要があるよね。
　脂肪たっぷりのフラットちゃん、お腹に、舌が届かないんです。
　そこで彼は、独自のやり方を会得していました。
　「フンッ」とばかりに勢いをつけて……前屈を……プ、ププ……笑っては、いけない……！
　私は笑いをこらえながらそっと手を差し伸べ、身体が滑らないように支えてあげるのでした。
　ダイエットしようね。

〈クイックルワイパー事件〉
　平日の朝は毎日、クイックルワイパーをかける（土日は休むことも）。不思議と汚れ具合は日によって違うが、だいたい二、三日で取り替える感じだった。
　それが、フラットがきて週明けの月曜日のことである。いつものように掃除を終えた私は、裏面を見てぎょっとした。
　真っ黒だ！？　何で！？　ね、猫！？　いや、でもケージで運ばれてきたし、泥汚れなんかあるわけが……。
　……あ、そうか、毛だ……。
　目に見えて落ちているわけではないのだけれど、かき集めれば裏面がいつもの倍以上黒くなるくらいには、黒猫の毛が床に落ちていたらしい。理解した私は苦笑して、クイックルワイパーのシートの消費が早まることを覚悟した。

〈おはぎ事件〉
　基本的に、人間の食べ物は与えない。というスタンスでいる。いた。
　フラットの方も滅多に興味を示さないので、その点は助かっている。いた。
　だが、ある日のことだ。お土産にもらったおはぎが入っているタッパーを開けた瞬間、フラットがダッと駆け寄ってきた。
「え？」
　私はその理由が理解できない。
「え、食べたいの？　これ、おはぎだよ？　魚とかじゃないよ？　何かと勘違いしてない？」
　フンフンフンフン。フラットはタッパーの匂いを嗅ぎ、何やら必死な様子。
「おはぎだよ……？　あんこと、ごはん……確か猫は、甘いのわからないんだよね？」
　困惑しながら尋ねる私。必死なままのフラット。
「じゃ、じゃあ、試しにちょっとだけね？　小指の爪先の半分くらいね？……食べたわ……満足そうだわ……」
　フラットさん、なんと、あんこが好物！
　猫は幼い頃に食べたものしか食べないと言うけれど、となると、野良時代にもらってでもいたのかな？
　「美味しかった」のしるしにベロンベロンと顔を洗うフラットを見ながら、「あんこが好きな猫かー」と何だか不思議な気持ちになったのだった。