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映画『VAiN』サウンドトラック制作の記録

趣味の延長で映画の音楽を作れることになるなんて。とても大きな経験だった。ここ2年くらいでただの業務過多リーマンだった俺の人生は大きく変わった。特に今年は大きく躍進した気がする。

映画「VAiN」のために今回作ったのは17曲。サラリーマンやりながら2ヶ月くらいでこの量を作れたのは最早快挙だ。自分でもどうやってこなしたのか分からない。とにかく無我夢中で作っていた。楽しいことに勝るものはない。

映画「VAiN」の公開、そしてオリジナルサウンドトラックのデジタルリリースから2ヶ月経過し、ありがたいことにアルバムの再生回数は合算で2000回を超えた。このタイミングで自分の備忘録として、このサントラの曲一つ一つをどんなことを考えながら作ったのか、記録しておこうと思う。

↓映画「VAiN」についてはこちら↓

1.Re:dawn

夜明け、再び。
物語の冒頭で流れるオープニング曲として制作したこの曲は、映画ラストの「theme Takigawa」の要素を入れている。この映画はラストシーンの時系列が物語冒頭の少し手前なので、本編を見終わった後にもう一度最初から映画を観ると時系列が繋がってループするように作ってあって、それに合わせて曲でもループを表現している。曲のタイトルにも「Re」をつけているのはそのためで、結末を知ってからもう一度この曲をぜひ聴いてもらいたい。「Natsu Dancing」のメインフレーズ、「Risa」の冒頭フレーズを使用しているのもこだわったポイント。

2.Big News

タイトルは映画の重要キャラクター、瀧川のセリフから。ナツと瀧川がカフェで会話するシーンは、元々は店内の環境音のみで音楽は作らない予定だった。だけど撮れた映像を見て、うっすらと店内BGMっぽい音楽が欲しいなと思って急遽作ることに。個人的には、この曲はもう一つの瀧川のテーマだと思っている。「theme Takigawa」が瀧川という男の核心を表す曲だとしたなら、こっちはナツの前では陽気に振る舞う表向きの「瀧川さん」を表した曲。
瀧川の第一印象として、ちょっと胡散臭い感じを出したくてチープなジャズ風音楽に仕上げてみたけど、今では結構この曲も気に入っている。

3.叶

「かなえ」というタイトル。これは監督が考えてくれた。
ナツの長年の夢だった映画の主演が決まり、喜ぶシーンの音楽。全体的に重いテーマを扱うこの映画で数少ない、希望を見出せるシーンなのだが・・・実はこの曲は後ほど登場する「願」と対になっていて、結末を知っているかどうかでかなり印象が変わる。

4.White Dreams

ちょっとハウスっぽい曲に挑戦したくて、前半パートはダンスミュージックの要素を取り入れてリズミカルに作った。映画の宣材写真の撮影はナツの晴れ舞台。夢が叶ってノリノリのナツ。ただし後半から瀧川視点になり、様子がガラッと変わる。瀧川は実は病気で、並々ならぬ想いでこの撮影に臨んでいた。物語が一気にシリアスになるシーンでもあり、本編をかなり意識して作った。前半はナツ主観、後半は瀧川主観でかなり表情が違う曲になっているので、このコントラストにはぜひ注目してほしい。

5.Natsu Dancing

ナツが公園で踊るシーンで流れる曲。実はこの曲が一番最初に完成した。
ダンスシーンであることがあらかじめ決まっていて、それを前提とした曲作りは初の経験だった。罪の疑いをかけられ戸惑いながらも、これまで支えてくれた姉と、ここまで引き上げてくれた瀧川への恩を返すために主演をやり切る決意を固めるナツ。そんな強い意志とは裏腹に、ナツはどこかへ消えてしまいそうな危うさも孕んでいて、この後の展開が決して明るいものではないことを暗に示すシーンでもある。この曲に、正直一番時間をかけたと言っても過言ではない。
完成した曲を元にダンスを振り付け師の方に依頼し、このシーンが完成した。ナツのテーマと言ってもいいかもしれない。この曲は映画予告編でも使われている。

6.虚実

4ビートと太めのシンセベースで物語が暗い方向へ向かっていく不穏さを表現し、後半は不安と焦り、苛立ちなどリサの心情にフォーカスした曲調に。記者が詰め寄るシーンの映像と、曲後半の展開のタイミングを合わせたのはこだわったポイントでもある。音数も多いので、マスタリングも結構時間をかけた記憶がある。

7.ごめんね

破れた夢。瀧川、そして姉への申し訳なさ。追い詰められたナツの選択。
ナツが壊れていく最後の過程を表現した曲。ピアノやストリングスは重ねすぎず、繊細さを保ちながら作っていった。自分を責めて自暴自棄になっていく時ってこんな感じだよな、を想像しながら。最初から後半までずっと続く3音の繰り返しは、募っていく虚しさ、寂しさを表すために入れ込んだ。

8.Lost

リサの心情を描いた曲。喪失、深い悲しみ。これはLost IIに続くのだが、少しだけ雰囲気が違う。こちらはシーンに合わせて、ナツを失ったリサの絶望と、木野の後悔の念をオーバーラップさせたようなテイストに。ここから物語は後半へ突入する。

9.約束

木野視点の曲。犬井が木野を助けに来るシーンで使用。この曲も前半と後半で展開が変わる。後半で助けが来る場面で、明るめのストリングスを使って少し希望を見せるという展開は初めから決めていて、前半パートはそこに合わせにいく形で作った。アンビエントテクノの要素も取り入れながら、暗すぎず、明るすぎずを意識して制作。

10.Risa

リサのテーマ。吹っ切れた感じと、押してはいけないスイッチが押されてしまった感じを出したかった。この曲が流れるシーンも後半クライマックスの手前であり、曲調も冒頭の「Re:dawn」の引用にもなっていて、この曲が実質映画の主題の役割を果たしている。

11.願いの全ては、誰かの為に

最も力を入れた曲。登場人物達の願いはすべて誰かの為を思ったものであり、タイトルにはそんな意味を込めている。それぞれの願いが交錯し、皮肉にもすれ違っていくという、物語が大きく動く場面で流れるとても重要な曲で、曲構成と音色選びも細部までこだわった。サイレンの音、工事現場の音は、このシーンの撮影現場で実際に収録した環境音をそのまま使っていて、これは初の試み。なるべく撮影の現場で感じた空気をそのまま曲に取り込みたくて、その場の思いつきで音を録ることに。これが大正解だった。

ボーカルはフリー素材を切り貼りして作り、言葉にならない願いを表現している。

12.破られた誓い

「約束」と対になる曲。コーラスを重ね、次第に重厚さを増す展開にして絶望、後悔、別れ、喪失、といった複数の感情が重なっていく様を表現。隠し味で小さめに入れたモコモコ音は個人的なこだわり。心の動揺を表すために、ゆらゆらした感じを出したかった。

13.願&14.Lost II

「叶」と対になる曲。一見同じ曲のようで、こちらは瀧川視点の曲になっている。ナツの夢を叶えるという瀧川の願いにフォーカスを当てることで、全く聴こえ方が変わるのが面白いところ。瀧川の回想で流れる曲であり、希望に溢れた「叶」とは打って変わって、メロディが悲しく響く。

そしてこの「願」から連続して「Lost II」に移る。これはリサ主観の曲で、復讐劇を終えた後にナツを失った喪失感が再びリアリティを帯びて蘇ってくる、その感情の変化を表現した。ここでも木野の抱える絶望とオーバーラップしていて、「Lost」よりもさらに進んだ喪失の曲になっている。映画のラストを締め括る曲。

15.VAiN

エンドロール用に、壮大な曲を作って欲しいというオーダーを監督から受け作った曲。元々はメインテーマ用に制作していた。映画が終わった感、を出す為に洋画のエンディングなども参考にしながら、リバーブ強めにして奥行きを出したり、サビ前で派手めなドラムのフィルインを入れたり、ダイナミックさを押し出している。主旋律は安定のストリングス。ラストはコーラスパートで一気に雰囲気をチェンジ。完成度的にも、個人的にかなり満足している曲。

16.theme Takigawa&17.theme Takigawa(for Natsu)

瀧川のテーマ。サブスクでは「願いの全ては、誰かの為に」に次いで再生数が多く、人気な曲。これまた他の曲とは作り方が違う。はじめにナレーションが決まっていて、そのセリフと瀧川の感情の移り変わりに合わせて、リアルタイムに曲調が変化するように作った。実はボツになった原案は今とは全く違う曲構成で、監督とのイメージが合わなかった。話し合いを経て作り直したのがこちらの完成版。これは一発OKを貰えた。個人的にも自信作。
「for Natsu」は瀧川のナレーション入りで、セリフと合わせて聴くのも面白い。1:08付近から最後にかけての駆け上がりは、是非注目して聴いて欲しい。

最後に

改めて皆で作った映画『VAiN』はとても味わい深い作品。キャラクターそれぞれの設定も細かく作り込んでいて、セリフも良い。映像も良い。だから音楽を作るのも楽しかった。
環境音を入れてみたり、これまで作ったことのないジャンルに挑戦したりと、色々新たな試みも出来て曲作りの幅が広がる経験にもなった。今年はこれを作り切っただけでも大きな前進。今後どんな形で音楽を続けていくとしても、間違いなく自分にとって、記念碑的な作品になった。少しでも多くの人に聴いてもらい、『VAiN』の世界を知ってもらえたら嬉しい。

8月5日、8月26日の劇場上映の際には、CDも販売出来た。これも初めての経験。手にとって、買ってくれた方もいて、本当に嬉しかった。
そして何より、CDって形に残る。一生の思い出です。

さて、次はVAiNスピンオフの制作が控えている。
新曲も作る予定なので、こちらについてもまた気が向いたタイミングで制作記録を残そうと思う。

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