ユーザー調査

[前編]UXリサーチと3つの手法

このnoteについて

産技大「人間中心デザイン」プログラム、第3講:ユーザー調査(Methodology of User Research)の内容の振り返りになります。

このnoteで伝えたいこと

ユーザー調査の講義と演習を通じて学んだことの中から、下記3点に焦点をあてて、整理します。

こちらの[前編]では下記1,2を、[後編]では3について説明します。

1. UXリサーチとは何か
2. UXリサーチの手法にはどのようなものがあり、どう使い分けるべきか
3. インタビュー演習を通じて改めて学んだ「ヒトの認知特性」について

1. UXリサーチとは何か

一言でUXリサーチの目的・位置づけについて表現するならば、「UXデザイン(User Experience Design)を支えるリサーチ」です。UXデザインについては、以前の講義を振り返ったこちらのnoteをご覧いただけると幸いです。

UXデザインのプロセス(下記チャート参照)を、雰囲気ではなく、きちんと進めようとする際には、まず行われるべきステップです。

ユーザー調査.002

では、次に、何を知るために行われるリサーチなのか?という点について説明します。
UX=User Experienceは、世界的に用いられているISOで下記の定義がされています。

製品、システム又はサービスの使用及び/又は使用を想定したことによって生じる個人の知覚及び反応
(ISO9241-210:2019)

しかし、このUXの定義から、UXリサーチで何を知るべきか理解するのは、少し難しいのではないでしょうか。

本講義の教員である奥泉先生にとっても同様だったらしく、UXリサーチで把握したいことを、以下のような軸で整理してくださっており、腹落ちがしやすかったです。

1. 時間軸
【時間軸による人の知覚と反応の変化を知るための調査】
具体的には、同じサービス・プロダクトでも、使う瞬間、利用に至る前、出会うきっかけになった時、過去に利用していた時、使った後などで反応に変化があるか、どのように変化したかを理解するための調査です。

2. 環境・文脈

【環境や文脈が人の知覚や反応にどんな影響を及ぼし得るかを知るための調査】
サービスやプロダクトはそれ単体では存在しません。必ず利用時の環境や前後の文脈があります。それを知るための調査です。

3. 人の内面

【人の知覚と反応の裏にある人の感性や多様性、可変性(※)といった人の内面を知るための調査】 (※)可変性:変わりうること
 同じ人が、同じような文脈で同じプロダクトを利用しても、感じ方が異なることがあります。そういったことを知るための調査です。

UXデザイン/人間中心設計のプロセスを、別の方法で表現したものが以下の図になります。こちらの図でも最初のステップとして「利用状況の把握及び明示」、すなわちUXリサーチがあります。この際に把握すべきことの軸が、上述の3種類でした。

ユーザー調査.003

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2. UXリサーチの手法を知る

このパートの注意点です。
UXリサーチというと、具体的な調査手法などに目が向きがちですが、ここで紹介したいのは、以下の2つのポイントになります。

 ・俯瞰的な観点からの、UXリサーチの手法の大まかな分類
 ・調査手法の大分類ごとの違いや、効果的に利用できるシーン

では、まずはUXリサーチの手法の分類について見ていきましょう。
こちらをご覧ください。これは米国のリサーチ会社(Daedalus,Inc)が作成・公開しているリサーチ手法マップです。

画像1

ここには合計23もの調査法が記載されていますが、これらはリサーチを通じて何を把握したいかにより、3つに大別することができます。

再掲となりますが、UXリサーチを通じて把握したいことは、前パートで述べたように、「時間軸」「環境/文脈」「人の内面」の3つの軸で分類できます。

先程のリサーチ手法マップの調査法も、この観点で以下のように3つに分けることができます。

スクリーンショット 2019-12-27 1.23.18

「時間軸」、つまり時間の経過によって、ある人の反応がどのように変化をするかを知るために日記調査は適しています。
「環境や文脈」、生活環境や、前後の文脈がある人の知覚・反応に与える影響を把握するために、エスノグラフィ調査は主要な手段になります。
そして、「人の内面」を把握するために行う調査として、デプスインタビューが広く用いられています。

これら3つのUXリサーチ手法を比較したのが以下のチャートです。

スクリーンショット 2019-12-17 3.24.23

デプスインタビューは他の調査方法と比較すると、時間やコストを抑えて実施することができるが、得られる情報が他の手法と比較して少ない。
エスノグラフィ調査は得られるデータ/情報の量が多いが、時間、コスト、リクルーティングなど準備が大変。
日記調査は、その間に位置するような関係です。

ここまでで、3大調査手法の特徴について説明しました。
前編の締めとして、各調査手法の活用の仕方について紹介します。

調査手法を選択する際には、どれか一つを選択しなければいけないわけではない、目的に合わせて組み合わせて利用することが重要です。
例え、『最近流行っている「行動観察」とやらだけではダメなのか?』というツッコミをされたとしても、調査の与件を把握した上で、最適な調査設計ができることが肝要です。

各調査手法の組み合わせ例を4つ紹介します。
1. 「日記調査」からの「デプスインタビュー」
 - 日記調査により、生活者の生活実態を概ね把握。その上でデプスインタビューを行い、背景や心情を深堀りする。疑似エスノグラフィ調査とも言われます。

2. 「エスノグラフィ調査」からの「デプスインタビュー」
 - エスノグラフィ調査で撮影したビデオや写真を共有しながら、回顧インタビューを行い、エスノグラフィ調査により得られた知見を補強します。

3. 「デプスインタビュー」または「日記調査」
からの「エスノグラフィ調査」
 - コストや時間のかかるエスノグラフィ調査を効果的かつ効率よく実施するための準備として、デプスインタビューや日記調査を先に実施します。
 - 往々にしてエスノグラフィ調査は高コスト。やるからには、よりよいリサーチにしたいというのが狙い。

4. 「エスノグラフィ調査」または「デプスインタビュー」
からの「アンケート調査」
 - エスノグラフィ調査やデプスインタビューにより得られた知見の、量的な確からしさをアンケート調査により確認する。
 - "数"で動く相手を説得する際の材料にもなりうる

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後編に続きます

以上、「UXリサーチとは?」と「UXリサーチ手法の3分類」についてのまとめでした。
続く後編では、3手法の中でも特に重要になる「インタビュー」の上達に影響を及ぼす、ヒトの認知特性についてまとめます。


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