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シェアリングエコノミーの「HARD THINGS」

ここ数年で様々なメディアにも取り上げられる様になったシェアリングエコノミー(略してシェアエコ)。メディアに出てくるのはシェアエコが普及し始めた背景や、サービスのユニークネス・世界観といった話が多い様に思えます。今回は実際に働く中の人として、あまり語られてない様に感じるビジネスについての話をしたいと思います。

シェアリングエコノミーとは?

そもそもシェアリングエコノミーって何?については下のウェブサイトが分かりやすいです。

空き部屋や空き家など、目に見えるものから料理やDIYの代行など目に見えないものまで、「個人が保有している遊休資産の貸出を仲介するサービス」を指します。

領域は大きく「空間」「モノ」「移動」「スキル」「お金」といったものがあり、今日本でも既に数百といったサービスが生まれています。

一般社団法人シェアリングエコノミー協会HPより

2019年はシェアエコにとって歴史的な一年になる

世界では2019年3月29日にライドシェアのLyftがナスダックに上場。

そして今年はUber、そしてホームシェアのAirbnbのIPOも噂されており世界的に2019年はシェアエコ業界の一つのターニングポイントになりそうです。

また、先日発表された市場調査では2018年の経済規模が1.8兆、2030年には11兆を越えるという発表もあり、また日本政府としても国の重点施策として位置づけており、日本においてもシェアエコは成長市場となっています。


自身の仕事について

かんたんに私自身の仕事について触れておきます。スペースマーケットという、貸し会議室から球場までレンタルスペース簡単予約ができるといったコンセプトのスペースシェアサービスを運営する企業に現在勤めています。ビジネスサイド(マーケティング/セールス/アライアンス)を担当しています。

ビジネスモデルは、いわゆるCtoC(Customer to Customer/個人間取引)のプラットフォームモデルです。

サービスはローンチしてから5年が経ち、直近では事業シナジーを重視したシリーズCの資金調達を行い更なる成長に向けて邁進しています。

サービス5周年を記念してサービスの現況を公開しました。

ユーザー数はおかげさまで順調に成長を遂げています。

現在、10,000を越えるスペースが利用できる様になっています。

貸し会議室、飲食店、住宅、スタジオといった多種多様なスペースが会議やパーティ、撮影、ワークショップといった多種多様で利用されており毎日新しいイベントのカタチが生まれています。

今、まさに日本のシェアエコ業界のど真ん中で仕事している感覚があります。新しい価値を生んでいるというワクワク感とそのタフさ、両方隣り合わせで痺れる毎日を送っています。

シェアエコを普及させるために、ビジネスにこだわる

シェアエコの世界観を言い表す

人の持つ遊休資産が価値になる

という言葉。このとてもキラキラした響き。そして成長性が期待される業界。ここ最近、この業界に関心を持ち参入する企業や人が非常に増えています。私自身も様々なシェアサービスを通じて個人がエンパワーメントされる社会になったらいいなと思っていることが仕事の一つのモチベーションです。

ただ、シェアサービスはそのエモさとは裏腹に事業領域として難易度が優しい訳ではないと個人的には思っています。サービスは数百ありますが、中には人知れず撤退した、またはリビングデッド化しているサービスも。シェアサービスを一過性のブームで終わらせず、継続させ、本当に人々の生活の中のスタンダードにするために、私はビジョナリーでありながらもビジネスにこだわることが非常に重要だと思っています。

遊休資産の提供者と利用者両側のPSF/PMFを達成できるか?

日米で複数の起業経験を持つアントレプレナーにしてベンチャー投資家である田所雅之氏がスタートアップがスケールするためのプロセスを下記の様に整理されています。

田所 雅之氏の著作であるStartup Science 2018から引用)

CtoCプラットフォーム型のシェアサービスで何が難しいのか?というとこのスケールまでのプロセスを遊休資産の提供者と利用者それぞれで達成する必要があることに尽きるのではないかと思っています。

撤退もしくはリビングデッド化したシェアサービスに共通していると思われる失敗要因は主に下記2つです。

<1.提供者と利用者のバランスが悪い>

その遊休資産を提供したい人は大勢いるのにそれを求める利用者が少ない、もしくは逆のケース。

両方にマーケットが無かったり、マーケットがあっても顧客獲得に苦戦している場合、

片方で需要があっても満足な供給ができない→供給が少ないがためにサービスを利用する必然性が生まれない

といった負のスパイラルに陥ります。

下記は領域毎の市場規模推計ですが、各領域を更にバーティカルに切っていった際に両方に一定のマーケットがありそうなのか、そのマーケットの顧客に刺さるソリューションないしはプロダクトなのか、といった見極めがサービスの成長可能性の大半を決めると思います。

(株)情報通信総合研究所 2016年シェアリングサービス市場調査より

<2.先行者に負ける>

そのシェア領域に既に先行者がいて、特に差別化要因が無く先行サービスからのスイッチ理由が生まれないといったケース。シェアサービスに限った話ではありませんがWinner Takes All(勝者総取り)という法則に抗えずに負けてしまう。ただ、ヤフオクという中古品売買の先行者がいながらもプロダクトUI/UX・PR・マーケ(とそれを実現するGoBoldなファイナンス)の力で抜き去ったメルカリの事例もありますし、戦略次第では上記法則を打ち破る道はあるものと思います。


ユニットエコノミクス健全化に向き合う

PMF(Product Market Fit)が達成できた次はユニットエコノミクス健全化という試練が待ち受けています。ユニットエコノミクスについては東京大学にてスタートアップ支援を行っているTaka Umeda氏の下記記事が非常に参考になります。

シェアサービスにおいては提供者と利用者獲得双方にCPA(Cost Per Acquisition/顧客獲得コスト)がかかるのがハードルを高くしています。シェア領域によっては利用者は若年層でも提供者は高年層、という形でターゲットとする顧客層が異なり、オンラインマーケティング/オフラインマーケティング/セールスといった様に獲得手法を使い分ける必要も出てきます。スペースマーケットはいわゆる遊休不動産のシェアが領域でそれぞれの顧客層が異なるため、異なるリーチ手法を取ってきました。(このあたりはかなりの試行錯誤があった為、また別の記事で書いてみようと思います)

利用者:20-40代くらいの個人が主。SEO/広告/SNS/キャンペーンといったオンラインマーケティングでリーチ

提供者:様々な不動産を所有する法人、30-50代くらいの個人。オンラインマーケティング+時にチラシやFAXといったオフラインマーケティング+セールスでリーチ

ターゲット顧客層・獲得手法が異なれば異なるほどヒト・カネといったリソースを多く必要とし、マーケティング・セールスへの投資は膨らみます。ユニットエコノミクス達成のためのLTV(単価やマッチング頻度)は相応水準が求められます。

ネットワーク外部性を高められるかがカギ

このユニットエコノミクス健全化実現のハードルを下げる一つの鍵がCtoCプラットフォーム特有のネットワーク外部性をどのくらい高められるか?かなと思います。
ネットワーク外部性についてお手本となるのはメルカリ。2018年6月IPO時に発表された成長可能性に関する説明資料の中のスライドがとても分かりやすかったので抜粋させていただきます。

出品者増加→出品数拡大→購入者増加→購入数拡大→出品者増加

といったサイクルが回り続けることで購入者/出品者それぞれのCPAが下がると共にLTVが高まっていく。(尚、C2Cの「にわとりとたまご」問題は提供数をまず一定担保するのがセオリー)メルカリはこのネットワーク外部性の高さによりLTVがCPAを上回り、スケールしていくといった綺麗な成長モデルを描けていてまさに教科書的な事例だと思います。

また、メルカリがスケールした要因の一つが同一ユーザーが購入・出品両方を行き来しやすい領域のシェアサービスであること。購入者と出品者それぞれに新規獲得の広告費用を投下せずとも、購入者が出品者になってくれれば全体のCPAは低く抑えられるわけです。メルカリアプリのセンターボタンが「出品」であり、スマホで非常にかんたんに出品ができるUI/UXになっているのは購入者から出品者への転換を一つ意図としたものと推測されます。

スペースマーケットもネットワーク外部性について下記の様な形で整理しています。

以上、シェアサービスにおけるビジネスの勘所について大まかに今回整理してみました。

これは別にシェアエコに限ったものでもありませんが、スケールするためにはエンジニアリング/PR/マーケティング/セールス/カスタマーサクセス/法務/ファイナンスといったチームでの総合力が必要です。

数々の壁を無事に乗り越えてスケールできた場合に人々の価値観や生活を変えるほどの社会的インパクトがあるのがシェアエコで、その可能性に私をはじめ、多くの人が惹きつけられているのだと思います。

今、私自身もその「HARD THINGS」と向き合っているうちの1人な訳ですが、もっとこの業界のビジネスナレッジを皆でシェアし、業界全体で成長していくことでシェアエコがよりスタンダードになればいいなと思っています。

仲間を募集しています

シェアエコ関連企業が協力し、日本におけるシェアを活性化させるために一般社団法人シェアリングエコノミー協会という団体を運営しており、新しい取り組みとして個人会員を募集しています(同僚が出向して頑張っています)。各種情報提供やイベント開催を予定しているのでシェアエコに興味ある方はぜひ登録してみてください。登録は無料です。

また最後に、一緒にスペースマーケットで「HARD THINGS」を乗り越えてくれる仲間も募集中です!興味を持ってくださった方、お気軽に話を聞きに来てください。


スタートアップ/ビジネス開発といった自身の仕事について整理し書いてます。時々は子育てやローカルネタも。