「投資したい国」へ変革を――2023年の日本と経済
年末になると、誰もが「来年はどうなるのか」と考えるに違いない。2022年はロシアがウクライナ軍事侵攻し、安倍晋三元首相が銃撃されて亡くなり、急激にインフレ(物価高)と円安が進んだ。
国内外ともに喧騒が続いた現況では、明るい展望を「言祝ぐ」のは難しいように思える。だが、来年(23年)は日本にとって前向きな変化の兆しもあると筆者は思っている。
景気が急に良くなるような変化はないかもしれないが、今後の30年に続く大きな構造変化の兆しが起こり始めている。
注目すべきは中国の動きだ。日本のバブルが弾けた1992年ごろから安価な労働力を武器に「世界の工場」として経済力を拡大し続けてきた。最初は「安かろう悪かろう」で品質にも問題があったが、人口13億人のトップ層から輩出された優秀な人材によって、最先端分野での技術開発でも世界の先頭集団を走るまでになった。
そうして30年、中国は「デフレ」を世界中に輸出してきた。日本企業の多くもそうだが、グローバル競争に負けないためには中国を生産拠点として使わざるを得なくなり、安い製品を日本市場にも供給してきた。
付加価値があり価格も高かった国産品は、品質を急速に改善させていく中国製品に勝てなくなる。日本企業では給与も上がらず、デフレの嵐の中で業績を悪化させてきたため、消費者は安い製品を買うしかなくなった。これが平成日本に「失われた30年」をもたらした。
今や米国に次ぐ世界2位の経済大国となった中国は、その経済力をテコに世界で影響力を強め、現在の専横的な政治体制を堅持しながら世界の覇権を狙うような動きに出ている。これに対し、米国はトランプ政権でもバイデン政権でも警戒を強め、通商問題を超えた安全保障上の脅威として捉え始めた。
米国と中国の「新冷戦」とも呼べる対立が、23年以降はさらに激しくなっていくだろう。最先端半導体の製造能力を持つ台湾に対して、中国の習近平指導部は武力統一も辞さない構えを示しているが、こうした中国の覇権拡大を米国は阻止しようと本気になってきた感がある。22年11月の米中首脳会談でも、両国の相違は抜き差しならぬ隔たりを感じさせるまでに冷え込んだ。
米中とも過去30年間に築いてきたお互いの経済関係を見直し、それぞれの経済圏を別個に確立する「デカップリング(分離)」が来年はさらに進むだろう。「米国を中心とする経済圏」と「中国を中心とする経済圏」にブロック化が進み、それぞれの間でモノやサービス、情報、カネの動きが遮断される。既にハイテク分野などで米国は中国製品を買わない、使わないなどの制裁に動いている。
日本は米国陣営に与することになるだろうから、中国の製品やサービスは今後、流通量が減っていくだろう。コロナ禍以前には多く来日していた中国人観光客も今後は伸びない可能性がある。安い製品が入らないため価格の上昇は続き、インフレが常態化するかもしれない。
一方で、新冷戦の最前線に位置する日本には再びモノやサービスを米国中心の経済圏に供給する役割が期待されるようになる。人手不足と高齢化が難点ではあるが、円安の局面で製造業もサービス業も新しく米側の経済圏から投資が集まる可能性が高まる。
半導体では最先端分野でトップの台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に約1兆円を投じて工場を建設中だ。これは台湾有事への想定もあるとされるが、日本が半導体分野では素材、製造装置などの技術集積がまだ多く、世界的に競争力を持つことも有利に働いた。
そうした「投資したい国・日本」が新たに始まる局面に向けて、日本人は新年から変革の努力を結集すべきだろう。
(初出:デーリー東北紙『私見創見』2022年12月20日付。社会状況については掲載時点のものです)
【後記:2024年9月25日】
既に2024年も後半になっている現時点でこの記事を振り返り、答え合わせをしてみると。
中国は経済的には「まだ大きい」が、バブル崩壊のあおりを受けて次第に元気は無くなってきた。
中国経済は停滞が鮮明になったが、武力侵攻などのリスクは依然、高いままである。
デカップリングは進んで実際に中国(中共)への圧力は強まったが、ロシア―中国およびBRICs諸国は緩やかながら連携を強め始め(特に2024年は)、いわゆる西側の自由主義経済諸国とは対立する方向へと向かった。
日本への中国製品の流入はあまり減っているとは言えず、特に2024年は極端な円安もあって中国からの旅行者の増える事態となった。
日本への投資は、「脱・中国」のトレンドからも増勢が続いており、特にAI(人工知能)ブームに伴うデータセンターや半導体関連工場への投資は拡大傾向が顕著になった。
――という感じだろうか。2024年の“予測”は別途、掲載したい。
(了)
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