夫が妻の名字に変える

なんてことない平日に近所の居酒屋に飲みに行き、そこで名字の話になった。なんでだっけな、そうだ。オットのおじいちゃんは海軍でわたしのじいじは陸軍で、という話からだ。

オットのおじいちゃんは人間魚雷に乗る予定の人で、出撃の前日に終戦を迎えたそうだ。だから、オットは「そこまでして継がれてきた名字なのだから、という気持ちはその時あった」と白ホッピーを飲みながら言った。
九州の人間である。孫には女系しか生まれず、待望の男孫がオットだったそうだ。これで安心だね、継げるねって。

でも、今はそういう気持ちはないと言う。今年の夏で結婚して2年目。入籍前日ふたりして泣きながらどっちの名字にするかって大喧嘩してから2年になる。
「だから、来年2023年、俺がひさこちゃんの名字に変えるね」とオットが宣言した。泣くかと思った。

結局、「そういうもんだから」って“女”の私が改姓したのだ。日本の女性の96%が夫の姓にすると聞いたこともあったし、いつかは結婚したら私は自分の名字じゃなくなるんだってちっちゃい頃から女友達と話していたし。それは、私が“女”だからというだけの理由で。でもこれでは、自分らしくいられないなあ。結婚してからわかった。

改姓して、自分が何者かわからなくなっていた。旦那の名字にして嬉しいっていう女友だちはいるのだけど、わたしは別にたかが名乗る言葉での連帯感はいらないなって思った。名字を一緒にすることでしか受け取れない恩恵があるのも変だし、それに好きに名乗ることを制限されたくないと思った。

病院でオットの名前で呼ばれた時の絶望感とか、確定申告の書類に書かれた「オットの名字+わたしの名前」を見る時の寂しさとか、「女の人は二度生まれるのよ」って呪いみたいに絡みついてくる実母の言葉とか、そういうしんどさをオットは引き受けてくれるらしい。「フェアでいたいというか、アンフェアでいたくないだけからね」と、わたしたちは3年ごとに名字をバトンタッチすることにした。

何年か交互に名字変えて過ごして、最終的にはわたしの名字でもなく、オットの名字でもなく、ふたりの合体した名字にしたい。大和と吉川だったら、大吉といった具合にふたりの名字をクリエイトして始祖になりたいね、って話した。もし、この先仮に子供が生まれることがあったら、その子にも私達の作った名字を名乗ってもらいたい。そういう未来ってありかなあって飲みながら話した。



今度一人暮らしするタイミングがあったら猫を飼いますね!!