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笑わない 女の子、平手友梨奈の異素材感について


先日遅ればせながら映画『響 -HIBIKI-』を観た。完全暴力的な響ちゃんの行動や言動に圧倒され、「ああ〜そんなことしたら響が怒っちゃうよーひょえー!」と響ちゃんのまわりの人々の行動にビクビクするのもこの映画の楽しみ方だと思う。それにしても芥川賞と直木賞両方受賞しちゃうって響ちゃんはどんな話を書いたのだろう? 

映画初出演・初主演の響ちゃん役の平手友梨奈。どこかの記事で監督も響をやるなら平手友梨奈しかいないと思ったと言っていた。たしかにそれくらいハマり役だった。次にどんな行動や言動をするか、響の一挙手一投足から目が離せないのは響のキャラクターそのものの魅力に加え、響役の平手友梨奈のオーラのおかげもあるだろう。

大ファンというわけではないが平手友梨奈のことはデビュー曲『サイレントマジョリティー』からずっと気になっていてライブや握手会みたいなAKBビジネスには課金したことがないけどテレビで見かければ目で追ってしまう存在だった。私レベルの感覚を持っている人って結構多いと思う。「あの真ん中をズカズカと堂々とモーセの海割りのように歩いてる女の子誰や!!」っていうところがスタートね。でも、圧倒的な存在感とは、たぶんこういうことで、ファンやアイドルオタクじゃない一般市民も”なんか”注目しちゃうような光り方ができちゃってるってことだと思うのだ。

以前、某音楽番組で平井堅と平手友梨奈がコラボしていたのを拝見した。『ノンフィクション』という楽曲で平井堅が繊細に歌い、平手友梨奈が踊り狂っていて、まるで映画のワンシーンのようだった。言葉が悪いかもしれないが、目の奥が死んでいるような澄み具合、まだ若いのに世の中を達観してしまった平手友梨奈の表情にはうっとりした。平井堅の歌声を相まってその場にいないのにビリビリとした心地よい緊張感を感じた。そのあとも何度もこの動画をユーチューブで観た。吸い込まれるような体験だった。

欅坂46の周りの子は笑ってテレビ出演しているのに、平手友梨奈だけむすっとしている場面も見たことがある。にこりと笑わずに、すん、と鋭利ににらみつける黒目。半開きになった口の口角は上がらない。どこか感じる孤独感が彼女の美しさの源だと感じた。

アイドル「なのに」という逆説的な見方がより一層平手友梨奈の魅力を底上げしていったように思うが、彼女にとってはそれが自分の本来のまっとうな佇まいなんだろうか。

後日、気になって調べたら平手はあどけなく笑っていた時代もあったことがわかった。加入後初期の頃らしい。そこからだんだんと険しい目つきになって笑わなくなっていったのを「闇落ち」と呼ぶ人が多いらしいが、私は笑わないことこそ平手友梨奈の本物の姿であるような気がした。本来の平手友梨奈の魅力が時間を経るごとに作られていったように感じる。魅力が増していく。

笑わない平手友梨奈のまわりにいる欅坂のメンバーの子たち。もちろんそれぞれの子に魅力があるのだろうが、外野にいる私みたいな一般人からすれば、グループのアイコンは平手友梨奈だった。誤解を恐れずにいうと「平手友梨奈 with かわいい女の子たち」 の構図に見えてしまっていたから、平手友梨奈しか欅坂46のメンバーの名前を知らない。

圧倒的な才能を目の当たりにしたとき彼女たちは何を思ったのだろうか。アイドルになったのなら誰しもがセンターで踊りたいと願うだろうが、平手友梨奈の誰にも取って代われない存在感について半ば諦めに似た感情と最年少ながら輝きを放つその姿勢にリスペクトの意思があったのだろうか。

代わりが効かない唯一無二の子なのだからいかに重宝されているのだろうかと感じていたら、先日平手友梨奈はグループを脱退をした。

私は欅坂46のCDすら買ったこともない、明らかな外野の一般市民だ。もちろんライブを生で聞いたり、直接会ったことはない。けれど、この脱退の報道がなんだかショックだった。

平手友梨奈はたぶん周りを一瞬で黙らせるような妙な説得力を持ち合わせているのだろうということは感じていた。その存在感だけで。だからこそ、周囲にいる子たちの存在が必要だった。周囲に人がいるからこそ、その異質感がより際立っていたような気がするのだ。周りが愛想いいからこそ、笑わないのが目立つ。ファッションでいう麻生地とシルクの質感違いのような「異素材感」を生み出していたところが平手友梨奈の役割だったように思えるのだ。

皮肉なことに、大勢の中でしか孤独という感情は感じられない。最初からひとりぼっちだったら、平手のような孤独の美しさは生まれない。脱退した今、素人目に感じた、平手友梨奈の孤独の美しさにはもう出会えないだろうということはわかる。

平手友梨奈は新しいフィールドでその異素材感は発揮できないかもしれない。ひとりになったときも、あなたの魅力のひとつである「孤独」の美しさを表現するのは、むずかしいかもしれない。今後、平手友梨奈が醸し出す新たな魅力は今までのものとは全く違うものであるからだ。

異素材のような違和感を放ち、危うく、もろく、孤独な平手友梨奈は、きっともう観られない。


今度一人暮らしするタイミングがあったら猫を飼いますね!!