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出版記念イベント#1 〜「多様性のあるまちづくり」における宿の役割〜

オーナーの渡邊が2019年の初夢で書籍を出版するという夢を見てからおよそ3年。ついに宿場JAPANとしては初となる書籍『ゲストハウスがまちを変える』の発売が実現いたしました!
今回はその出版記念に際して、著者の渡邊と、様々な分野でご活躍される豪華ゲストスピーカー4名と共著頂いたfootprints編集長 前田有佳利さんをお招きし、3回にわたりオンライントークイベント開催しました。


記念すべき1回目に行われたイベントのテーマは、「多様性のあるまちづくり」における宿の役割。

インターネットが普及する現代。時間や空間を超えて、誰もが世界中の人々といつでも、どこでも通じ合える便利な世の中で私たちは生活を送っています。常に人と繋がっているかのように思える社会が日常化する反面、対面でのコミュニケーションの機会が減少し、ますます希薄化する人と人の直接的な繋がりや、地域との繋がり。そこにさらに拍車をかけたのが2020年、世界中に衝撃をもたらしたコロナウイルスによるパンデミックでした。コロナの影響は、人との関わり方に様々な変化を生んだだけに留まらず、インバウンドの減少など観光業界に多大なる被害をもたらしました。インバウンド頼みだった観光地は次々に衰退していき、潰れてしまうお店も多く見られました。

そんな目まぐるしい変化の中、いかにして持続可能な地域社会を構築していけば良いのか。観光地ではない場所に宿があることで、地域にどのような価値を生み出していけるのか。宿場JAPANの企業理念にもある、「​​多様な文化や、価値観が共生する地域を創る」うえで、宿が果たす役割や、その先にある、サスティナブルな地域社会実現の可能性について、同じく多文化共生や災害支援、復興まちづくりの活動を行っている、一般財団法人ダイバーシティー研究所の田村太郎様をお招きしてお話を伺いました。


誰もが生き生きと活躍できる、多様性のある社会を目指して

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ー まず、ダイバーシティー研究所で行っている取り組みについて教えてください。

 「ダイバーシティー研究所」では、”誰もが暮らしやすい地域”、”誰もが働きやすい職場”、”誰もが活躍できる社会の実現” に向けて様々な分野を超えた支援活動を行っています。特に災害時には、多様性への配慮が後回しにされてしまうため、その時に誰も取り残されない社会を目指していけるように、防災時への取り組みにも力を入れています。これまでに、主に中小企業が取り組むダイバーシティー推進事業の支援を行ったり、企業が行う災害時の復興への取り組みや、避難所で言葉の通じない外国人への言語サポートを行ったりしてきました。


自ら起こしたアクションが多文化共生社会の実現を目指すきっかけに

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ー 田村さんが多文化共生社会を広めていきたいと思ったきっかけはなんですか。

 自身は高校を卒業後、大学には進まずにそのまま就職。スマホもなく、交通公共機関も今ほど発達していない時代に、2年間バックパッカーもしていました。アフリカから南アメリカに渡った時に、イミグレーションで色んな人種や、バックグラウンドを持つ職員が一緒に働いていることすらにも驚きを感じ、「居心地の良いまち」や「また訪れたくなるまち」の特徴についても考える良いきっかけになりました。帰国後、いくつかの仕事をしながらフィリピン人向けのレンタルビデオ屋で働いていましたが、しばらくして阪神淡路大震災が起きました。そこで仕事を一度辞め、誰に頼まれたわけでもないですが、自ら震災で被害を受けた外国人に対して、電話での通訳サポートを行う「多文化共生センター」を設立しました。最初は7人で始めた取り組みでしたが、1週間後には400人のボランティアが集まり、20以上の言語で24時間の電話対応が可能となりました。このようなバックパッカー時代の体験や、震災時の経験が基になり、日本に多文化共生の考え方をもっと広めていきたいと思うようになりました。
 その後は、社会起業家を目指す若者支援として「edge」というビジネスコンペを主催したり、東日本大震災を受けて、内閣官房「震災ボランティア連携室」企画官に就任します。現在は、大学の教員としても働きながら、復興庁復興推進参与として官民連携による復興支援を担当しています。


コロナ禍で懸念される在日外国人の現状

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ー コロナショックで社会全体が疲弊し、様々な社会課題が浮き彫りになっていますが、この状況に対してどのようにお考えですか。

 自然災害同様、全ての人がこのコロナ禍で苦しんでいるわけではなく、むしろ立場の弱い人により皺寄せがいくという認識を私はしています。一方で、このトークイベントがオンライン上できるように、移動をせずに遠隔でいろいろな取り組みができるようになったことは、距離や時間などの縛りを超え、新たな可能性が生まれたと感じています。例えば、現在地方で外国人が増えているものの、通訳できる人がなかなか見つからないという課題があります。しかし、リモートワークの普及と同時にリモート通訳が定着し、タブレット一つあるだけで翻訳が可能になりました。以前からこのようなツールはありましたが、このコロナ禍で普及が進んだように、新たな気づきも沢山あったように思います。「どのように新しい時代にうまく適応させていけるか。」が現代において重要なことなのではないでしょうか。

ー オンライン上での対話が増えた一方で、実地でのコミュニケーションが難しくなっていますが、田村さんの肌感覚として、在日外国人の弱者に当たる方に現在どのような課題があるとお考えですか?

 例えば、今は在日外国人の中で2番目に多いのがベトナム国籍の方ですが、生活に困っている方は駆け込み寺として、ベトナム系の仏教寺院に身を寄せて支え合っています。他方、観光でいえば、北海道の札幌市に多くの外国人が仕事を求めにやってきますが、公益財団法人「札幌国際プラザ」が食糧の配布をするなどの支援をしながら助け合って生活をしているという状況です。
このような在日外国人に対する支援自体は増えていますが、課題があるとすれば、日本はまだシェアエコノミーなどに代表されるIT化やデジタル化がまだまだ進んでいないように思います。外国人が比較をしてくれることで初めて気づくことは沢山あると思いますが、入国やビザ延長の手続きをはじめ、行政関連の書類手続きがアナログであることは多くの外国人からも驚かれています。すぐにデジタル化を普及させていくことは難しいですが、近年ようやく動きが見られるようになったので、今後に期待したいですね。


多様性のあるまちづくりにおける宿の役割

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ー 今回の対談のテーマが「『多様性のあるまちづくり』における宿の役割」ですが、近年このような取り組みを行う地域は沢山ありますが、宿が地域にどういう役割を担っているか、田村さんのご意見を伺いたいです。

 まず、「旅人」が訪れることで生じる「まち」の変化について考えを述べたいと思います。
私自身はバックパッカーを始めてから、最初に中国からシベリア鉄道に向かい、その後南アフリカに移動してそこでヒッチハイクもしていました。南アフリカは昔、黒人と白人が対立をしていた地域でしたが、行った時はちょうど時代の流れが変わるタイミングでした。ある時、旅人として街を歩いていると、黒人でも白人でもない私に興味を持って近づいてきた両者が、家に泊めてくれたことがありました。その時に彼らは利害関係が生じにくい旅人の私に対して、本音で自分が思っていることを打ち明けてくれたのです。旅人の自分は第三者という中立な立ち位置から、両者の意見が聞ける立場にいることをそこで気づきました。そういった本音の話が聞ける人や、他の街と比較できる視点を持つ旅人が訪れるようになると、より多様性のあるまちづくりに発展していくのではないかと思います。

また、宿の象徴的な役割は「外との繋がりの窓口」であることだと思います。宿があるからこそ、観光地ではない地域にも旅人が訪れるようになり、「街のファン」や、「交流人口」が増えるきっかけにもつながります。加えて、旅人は観光地だからこそ買うような旅のお土産となるものや、体験などの思い出消費を通して、地域にお金を落としてくれる貴重な存在でもあります。このように宿があってはじめて、旅人とまちが繋がることができるわけです。この宿があるかないかの違いや、外に開かれているかどうかで、まちの持続可能性や、災害が起きた際の復興までにかかる時間が大きく左右されることを実際に東日本大震災の支援に携わっていて感じました。


ー最後に田村さんが思う、多様性のあるまちの実現に向けてのお考えがあれば、教えてください。

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バックパッカー時代の経験を通じて、「居心地の良いまち」や「また訪れたくなるまち」の特徴には、いくつか共通点があることがわかりました。1つ目は、その地域に「選択肢がそこそこある」ということ。例えば、観光地でないにしても、飲食店が何軒かあったり、観光できるスポットが何個かあるなど、ある程度旅人自身が選択できることが大切かと思います。2つ目は、まちにいてよそ者感を感じないこと。3つ目に地元の人との「程よい距離感」。4つ目に地域がオープンで、他所から来た者でも受け入れてくれるような、寛容性の感じられる雰囲気があるかどうかが関係してくると思います。
私自身、観光地でないところに滞在する機会がこれまでに多かったのですが、以前泊まったゲストハウスで調理をしていた方がゲストハウスに住む地域住民の方で、旅行者との境目がほぼないことに驚きました。このようなシェアハウスと、ゲストハウスがミックスしたものが今後増えていくと、交流人口も増えて、ダイバーシティー(多様性)もより広がっていくのではないかと考えています。

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▼ 登壇者

田村太郎さんプロフィール

一般財団法人ダイバーシティ研究所  代表理事 田村 太郎氏

阪神・淡路で被災した外国人への支援を機に多文化共生や災害支援、復興まちづくりの活動に従事。2007年にダイバーシティ研究所を設立し、企業のCSRや自治体施策を通じた多様性配慮の取り組みをサポート。東日本大震災直後に内閣官房企画官となり、官民連携での被災地支援を担当。現在も復興庁参与として東北復興に携わる。共著に「つないで支える」「企業と震災」「好きなまちで仕事をつくる」などがある。大阪大学客員准教授、明治大学兼任講師、関西大学非常勤講師。

▼ 開催概要
日時:2022年3月10日(木)19:00~20:00

▼ 本イベントのYouTubeアーカイブ配信はこちら

▼ 書籍情報

5634_帯あり

著者:渡邊 崇志・前田 有佳利
監修:宿場JAPAN
定価:2,300円+税
発売日 ‏ : ‎ 2022/4/3 / 288ページ
ISBN-10 ‏ : ‎ 4761528141
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4761528140
発売元:(株)学芸出版社
書籍URL: https://amzn.to/3styIGP

(執筆:小河恵美里)