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我が家のレトロニム

緊急事態宣言が明け、今月から徐々に出社が増え始めた。
ここ数ヶ月のリモートワーク中、私の会社には新入社員が次々入社していて、直接対面で会話したことのない方も増えていた。

先日オフィスへ出社をすると、「お疲れ様です!」と快活な声で私に挨拶をしてくれたのはまさに最近入社されたばかりのAさんだった。何度かZoom上で会話したことはあったが、対面ではこれが初であった。
Aさんは続けて私に「生山道さんだ!」と言った。
一瞬聞き馴染みのない語感に、「火が通っていない状態の俺」と謎の解釈をしかけたが、どうやら「現実で会う私」を「生」と表現していたのだ。

有名人のような大げさな表現にその場では笑って終わったが、少ししてこれは対面以外のコミュニケーションが普通になってできた「レトロニム」だと思った。

レトロニムとは、旧来からあるもの新たに生まれた同種のものを区別するために元となる概念が再命名された言葉のことである。「固定電話」「回らない寿司屋」が有名で、ここ1.2年のコロナによる日常の変化によって「対面授業」など当たり前のものが書き換わるレトロニムの誕生を度々見かけた。
先週も友人と「有観客ライブ」の配信を見た後に「お酒が飲める居酒屋」を探すというレトロニム満載な休日を過ごした。

これらのような新旧の概念が市民権を得たものではなくとも、狭いコミュニティでだけで発生するレトロニムに着目してみるのも面白いなと「生山道さん」を聞いて思い、最も狭い家族だけで使われている我が家のレトロニムを探してみることにした。

我が家の最近のレトロニム

「ちゃんとしたビール」
父親は基本毎晩発泡酒を飲んでいるため、母親が「父の日はちゃんとしたビール買ってきてあげて」という。

「普通のテレビ」
TVerなどの見逃し配信やYouTubeをテレビで見ることが増えて、地上波のニュースを見たくなった母親が「普通のテレビに変えて」という。

「映す用PC」
大学から使っていたMacBook Airの液晶が映らなくなってしまい新しいMacBookを購入した。液晶が映らなくなったPCもHDMIに接続するとテレビには映るためネット配信をテレビで観たい時にだけ弟が「映す用PCどこいった?」という。

「エアコン部屋」
今年の夏、私の部屋のエアコンがつかなくなってしまい暑さでとても居れたものではなかった。そのせいで物置としてしか使っていなかった部屋が「エアコン部屋」と呼ばれだし避難場所となった。

言葉にゴールはなく、新しいものの誕生に強引でも順応していこうとしていく様が生き物のようで観察しがいがある。

数年後には今の母親を「3Dおかん」、今の父親を「カラーおとん」と呼んでいるかもしれない。まずはいい加減一人暮らしを始めてここを「実家」と呼びたい。

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