『なぜ「つい買ってしまう」のか?』

【2019年以降注目のマーケティング関連書籍】その2

『なぜ「つい買ってしまう」のか?』

 著者:松本健太郎
 出版社:光文社(新書)
 第1刷:2019年10月30日

なぜ「つい買ってしまう」のか?

1. 本書を読んだ背景

デコムさんに送っていただいているメルマガで、デコムの松本健太郎氏のご著作が紹介されており、本書はそのうちの一冊でした。
“インサイト”探索において、マーケティングリサーチ会社ではピカ一のデコム社長の大松さん、切れ味が鋭すぎる松本氏という“兵器”を獲得されて益々ご隆盛かと推察いたします。

2. どんな人に向いているのか?

(言葉は失礼かもしれません・・)当然のことですが、本書にはデコムさんのサービスの営業ツール的な性格もあります。
ですので、事業会社のマーケターとリサーチャーの皆さん向きと思います。
但し、著者の松本氏自身の鋭い感性、豊富な経験によって獲得された知見は、デコムさんの“フレーム”から溢れんばかりですので、事業会社以外、つまり調査会社の皆さんにもお薦めです。

3. 本書のポイント

3-1. 最初に重要な視座を挙げます。
本書の最終章、最後の最後で松本氏が指摘していますが、わが国は欧米など諸外国に比べてリサーチ費用が少ない事実についてです。
この業界では昔から耳にタコができるほど言われてきたことで、日本では広告代理店さんが調査領域まで云々、がその理由だよ、という説が“諦め”とともに流布されてきました(調査会社の性格が生真面目過ぎてつまらない、、というのは私の偏見かもしれませんが・・)。
しかし、本書では「仮説検証型」に対して「仮説探索型」リサーチの認知が低いことを、リサーチ市場規模の小ささの原因として指摘されています。
たしかに、「仮説探索」は定性調査(フォーカスグループなど)、「仮説検証」で定量調査、という組み立てが一般的です。
ところが本書(≒デコムさん)では、「仮説探索」においても丁寧なフレームを用いた調査を提案されています。

3-2. これも本書の最後の最後で、松本氏が自説(≒デコムさん)を展開されていますが、コトラーのマーケティング・コンセプトの変遷を援用しながら市場をMECEにセグメンテーションすることよりも、発掘されたインサイトへの共感・非共感によるセグメンテーションを重視しています。
もちろん、デコムさんのコンセプト(思想)を考えると、当然と言えば当然でしょうか。

3-3. 本書において、デコムさんの方法論が全て網羅されているわけではないでしょうが、それでもアイデアを導き出す一連のプロセスが構造的に紹介されていることの価値は高いと思います。
さらにディテール(細部)につきましても、商品(サービス)のアイデアの評価軸を「購入意向」と「新奇性」の2軸のマトリクスで判定し、各々のTop2 Boxで60%を評価基準とする、など具体的です。
ディテール(細部)につきましては、他に「エンジェルインサイト」と「デビルインサイト」の両方を満たしていないと成功確率は低下する、写真による投影法でも同じように「良いイメージ」と「悪いイメージ」も兼ね備えた複合的な写真が有効である、など親切この上ない知見が記されています。

4.  感想

アイデア導出に至るプロセスとは、「新規事象」→「オポチュニティ」→「価値事象」→「インサイト」→「アイデア」というのは卓見です。
各プロセスが、「具体」と「抽象」の“往還”となっていることなど、「わが意を得たり!」と感服いたしました。

本書の前半部分ですが、読者の「反論」を想定しつつ、インサイト発見のフレームが解説されています。
私も読みながら「さすがに、飛躍じゃないかなぁ・・」と思った箇所もあったので、理解を助けてもらう一助になりました。

プロセスの上流部分は「新奇事象」なのですが、ここでデスクリサーチについて触れられています。
私事になりますが、私は週3日、『日経MJ』のほぼ全記事をPDF化しており(現在、5年分で約5万記事超)、約2,700個のフォルダに一つひとつ、日付とタイトル付きで収納しています。
そのフォルダのうち「“脱”予定調和”」「ニッチな流行」が、本書で重視されている「新奇事象」に相当するんだな、と(笑

最後も私事になりますが、「オポチュニティ」探索における「既存価値年表」というツールは、私のデスクリサーチの解析フレームにとって良き参考になりました。
どうもありがとうございました!

以上です

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水琴窟


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