『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』

【マーケティング定番書籍】その11

『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』

 著者:森岡毅 今西聖貴
 出版社:角川書店
 第1刷:2016年5月31日

確率志向の戦略論

1.  本書を読んだ背景

P&Gで大活躍され、USJの業績をV字回復させた著者の森岡毅氏のことはテレビ番組などマスコミ報道で存じておりました。
その森岡氏が、同じくP&GとUSJでタッグを組んだ今西氏と著した本書、自然に興味が湧き、書店で手に取りました。
本書につきましては、色々なところで多くの皆さんがレビューを書かれてますので、「何も私が・・」とは思ったのですが・・。

2. どんな人に向いているのか?

USJのV字回復は、社長の意志のより森岡氏と今西氏が入社され、凄まじい苦闘の末、マーケティング・ドリブンな組織に変革した成果です。
よって、マーケティングに携わる事業会社の皆さまとともに、経営マネジメント層の方々にもお薦めです。

もちろん、マーケター、リサーチャー、コンサルタントの皆さんにもお薦めします。
数学的素養のある皆さんにとって、学術ではなく実務面でこれだけの解説書があることは僥倖なのでは? と想像してしまいます。
「座右の書」の一冊になれば素晴らしいと思います。

3. 本書のポイント

3-1. 「第1章 市場構造の本質」から「第8章 マーケティングを機能させる組織」までは森岡氏が執筆、「巻末解説1 確率理論の導入とプレファレンスの数学的解説」「巻末解説2 市場理解と予測に役立つ数学ツール」を今西氏が執筆されています。
私を含め文系マーケター・リサーチャーは、数式の多い巻末解説(今西氏執筆)は流す程度で良いいでしょう。
そして、本書では需要予測がメインですが、森岡氏と今西氏のメソードにはこれだけの数学的根拠があるのだな、と認識することが肝要かと考えます。

3-2. (文系出身者にとって)数学的根拠は難解に感じますが、森岡氏のメソードの基本はそう複雑ではありません。
最も重要なキーワードを、本書では「プレファレンス」という用語で表現されていますが、それを決定しているのは、「ブランド・エクイティ」「製品パフォーマンス」「価格」の三つ。

売上を規定する7つの基本的要素とは、「認知率」「配荷率」「過去購入率」「エボークド・セット(≒考慮集合:井上注)に入る率」「1年間に購入する率」「年間購入回数」「平均購入金額」。
このうちコントロール可能なのは「認知率」「平均購入金額」のみ。

もちろん、需要予測の精度は高く、本書の巻末では森岡氏が、非公表になっている東京ディズニーランドの入場者数まで予測されていたことに感動しました。

3-3. これはディテール(細部)のことですが、数学マーケティングならではの注意点が説明されているのも特徴です。
例えばブランドの「助成想起」「純粋想起」(「Aided Awareness」と「Unaided Awareness」)です。
森岡氏もマーケターとしては「純粋想起」のほうを重視されていますが、今西氏のような需要予測の専門家にとっては、「助成想起」が最重要のデータになるとのことです。
それは「助成想起」のほうが「データの均質性」に優れているからで、得られたデータが比較やベンチマークにしやすい、しかも、「知らない人が知っているように答えてしまう問題」も、どのケースでも似たようなバイアスがかかるため、需要予測では大きな問題とならないとのこと。
こういった数学的なデータ観、ガチ文系の私には新鮮な驚きでした。

4.  感想

「映画だけのテーマパーク」から「世界最高のエンターテインメントを集めたセレクトショップ」というUSJのブランド戦略。
2014年7月オープンの「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」。
この需要予測モデルで導出された「200万人」実現のために必要な認知レベルは「全国規模で90%以上」。
「認知90%以上」のためにはマスコミの力が不可欠。
森岡氏の著作『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』(角川文庫)の出版は、何とお金を使わないメディア戦略の一環(勤務時間外で執筆された森岡氏の労力は凄すぎ・・)と知り、驚きました。

森岡氏のマーケターとしての“志(こころざし)”で感銘を受けたのは、価格戦略についてです。
USJのブランド力を高めた後、日本のテーマパークの入場料金の安さに対し、値上げを実現させたこと。
しかも、首都圏の競合(強豪)TDLまで追随させ、テーマパーク全体に値上げを波及させた意義は、「ハリーポッター」以上に歴史に残る快挙になるのでは? と思いました。
バブル崩壊後の30年、デフレスパイラルが続いてきたわが国で何が必要なのか?
森岡氏の“志(こころざし)”には、不肖、この私も感銘するばかりです。

以上です。

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水琴窟


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