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オタク文化が超巨大中国国有企業を救う?

タイトルや画像に惹かれてこの記事を開いた方へ
こちらの記事は最近中国で起きた超巨大国有企業が日本のオタク文化の要素を利用して自社サービスの広告宣伝を行い、若い世代のユーザーを取り込むブームが起きている事例を紹介した上で、コンテンツの二次創作や拡散について新しい動向を分析する内容を書かれています。この話に全く興味がない方に申し訳ありません。

初めにbillbill(ビリビリ)というサイトを簡単に紹介したいと思います。

billbill(ビリビリ)という動画配信コミュニティ

billbillはMAU(月アクティブユーザー)が2億人を超えた中国最大級の動画配信サイト。2009年ニコニコ動画を真似して、UGC(ユーザー投稿)機能と字幕機能(ユーザーが投稿したコメントを再生画面の上に表示する)を用いた動画のコミュニティサイトとして発足して、初期から日本のアニメ、漫画、ドラマ様々のコンテンツを主力コンテンツとして配信してたため、中国で日本の2次元文化の最大の発信地とも言われています。

広告、投げ銭、サブスクなどの機能により収益力が向上し、投稿者にレベニューする報酬額も潤沢となり、投稿者が大幅増えて、コンテンツの制作に専念できた投稿者はプロの製作者に転身して、様々の分野の質の高いコンテンツを安定で投稿し続けられるようになります。そしてbillbillはゲーム、ドラマ、アニメ、バラエティ番組など様々なコンテンツを自作して配信し始めて、サブスクサービスを充実させ、コンテンツの供給はPGC(自作や版権の購入)、PUGC、UGCの三層のピラミッド構造をしっかり築き上げ様々な視聴者が楽しめる総合的動画配信サイトとなりました。

2次元文化、字幕投稿など動画コミュニティの特徴を持ちつつ、中国最大級の動画配信サービスまで成長し、2018年Nasdaqへ上場し、今年の3月に香港市場で2次上場を果たしました。こんなbillbillですが、今回の記事の主役はbillbillではなく、billbillで投稿者アカウントを開設している中国聯通(チャイナユニコム)のことです。

ユーザーのことを一番わかっているのは中国聯通(チャイナユニコム)

中国聯通(チャイナ・ユニコム)は中国三大通信会社の中規模的に一番弱小ですが、携帯契約者数3億を抱えている超巨大国有企業です。かなり前からbillbillで公認の配信者アカウントを開設しまして、定期的にサービスの紹介動画を配信してましたが、当然再生数もフォロ数も伸び悩んで全く人気がなかったです。

ある日中国聯通の公式アカウントが突然これまでと全く違う雰囲気の動画を上げました。

当時中国版のTiktokやbillbillで「Handsom Dancer coincidence」という曲のMVを真似してダンスするMAD動画が大流行していました。オリジナル版はこちらです。

主役の二人の女の子は中国聯通のコールセンターのスタッフだったようで、この動画を通して二人がbillbillで正式”デビュー”しました。普段アップした動画の再生数はせいぜい数万しかなかったが、この動画が一気に200万回以上の再生数を獲得して、公式アカウントのフォロワー数も一気に増えました。

規模といえば世界でも有数の超巨大国有企業が公式でこんな動画を発表して”不謹慎”だと思われる人がいるかもしれませんが、しかしbillbillという特殊なプラットフォームにこういう動画が溢れるほど投稿されて違和感を感じず、billbillのユーザーにも好かれた内容に間違いない。女の子も可愛くて仕上がりもアマチュアとして上出来です。国有企業の公式アカウントでこういうちょっと”ふざけな”投稿をしたことを始めて見たため、新鮮な感覚を感じますが、嫌気になる人が全くいないです。

再生数やフォロワー数が”正義”であることを気づき、”正しい”動画の作り仕方を悟った中国聯通はそれから創作の意欲やアイディアが全開し、話題作を続々投稿しました。

この前indihomeというインドネシアの通信会社の広告が東南アジア風の魔性が溢れるメロディとユニークな制作のダサさのギミックでYoutubeやbillbillで人気が爆発して、これを素材にしたミーム動画がたくさん投稿された。中国聯通も早速参戦して、下記の動画を投稿しました。

ネット上で一番盛り上がっている最中で投稿されて、また同業の広告をネタにしたため、すぐに注目集められ、500万回以上の再生回数の記録を更新しまして、フォロワー数は他の公式アカウントと桁違い数まで増えました。

中国聯通の動きにようやく他の国有大手企業に気づかれました。競合である中国電信(チャイナテレコム)と中国移動(チャイナモバイル)はもちろん、銀行、証券、電力会社まで相次ぎ中国聯通を真似して、古く固いイメージと決別して、若い子を起用して振り付けダンス動画をどんどん投稿し始めました。

時代の最先端に立ち続ける中国聯通は他社の追随を許さないように、今年のバレンタインに出演者はJK姿で「君の彼女」という曲のカバーダンスの動画をアップしまして、投稿合戦の激しさを一層高めました。

JK姿で踊ることは中国語で「宅舞」といい、オタクが見るダンスの略です。宅舞はbillbillのダンスのカテゴリの中に絶大的な人気があるジャンルです。

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billbillのダンスのカテゴリ

この動画が投稿されてから、”中国聯通は一番ユーザーのことをわかる”と大絶賛の嵐が届かれました。これは引き金になって、各大手企業の公式アカウントは一斉に日本のアニメや人気曲を素材にしてJK制服で踊る動画を投稿し始めました。例えば下記大きい反響を呼んだ招商銀行の「書記舞」。

「かぐや様は告らせたい?~天才たちの恋愛頭脳戦~」の第三話のEDで生徒会書記藤原千花のダンスを踊ってみた動画です。今のbillbillの宅舞ジャンルで一番人気の高いテーマです。

いろんな挑戦者が現れたが、ブームを引き起こした張本人の中国聯通はまだ不動の人気の1位でした。そして各企業の公式アカウントは早く中国聯通に追いつくため、出演者、撮影、編集、ネタなど様々なところに軍配をあげようとしています。

この事象を通していくつか気づいた点について深堀したいと思います。

企業の公式アカウントの配信について

中国は日本と同じ若者のテレビや新聞紙の離れが深刻です。従来のテレビや紙媒体の広告は徐々にZ世代へ届けなくなり、消費能力がどんどん高くなるZ世代にどうリーチするか企業にとってこれからの競争で生き残る優先課題となります。

コマーシャルの主戦場も早くSNS、チャットアプリ、ゲーム、動画配信など若者が一番利用時間が長い、利用頻度が高いプラットフォームにシフトしてきましたが、それぞれのプラットフォームの特徴に合わせて広告の最適化しなければいけないです。

billbillもYoutubeも企業にとって単なる広告を配信する媒体だけではなく、自らチャンネルを開設してコンテンツを配信することも可能です。今はほとんどの大手企業がこの機能を利用しています。では、中国聯通の事例がどこが特別かというと、公式アカウントが”投稿すべきでないもの”を投稿してしまったことです。

比較してみればわかりやすいですが、例えば下記DocomoのYoutubeの公式アカウントが投稿したの動画一覧です。テレビCMや撮影経過の映像、5Gの関連情報や企業情報など、当たり前ですが真面目に運用されています。

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ですがほとんどの投稿の再生数は数千しかいかないです。しかし下記の動画は断トツに他の動画の約10倍4万回以上を再生されています。

ここは企業が見せたいものとユーザーが見たいものと一致してないことが明らかです。ではユーザーは興味がなても配信をし続ける理由はまずネット配信を従来のテレビ配信の延長線とみなして、最適化のことを全く考えず、テレビ配信することを前提で作られたコンテンツをそのままネットで流しただけだと思われます。

また最適化する意識がないだけの問題ではなく、どう最適化すればいいかイメージを持っていないのも一つの要因だと思われます。配信力を上げるため自社のアカウントはどうしたら人気がでるのか公式アカウントの運営スタッフなら必ず考えたことがあるでしょう。しかし本当でそう狙うなら、どことどこでリンクを貼りましょうという安易な手段ではなく、コンテンツの企画、制作から考え直さないといけないです。

 ユーザー参加型のコンテンツについて

誰でも少し勉強すれば手軽く動画編集できる時代になって、Youtube、billbill、TiktokなどUCG動画サイトで様々な2次創作が盛んで来ました。コンテンツのテーマや創作の形が様々あるの中、一番ハードルの低さの割に万人に受けるテーマの一つは曲に合わせるカバーダンスや流行のダンスの踊ってみた動画です。個人的にこれをユーザー参加型のコンテンツと呼びます。

billbillははダンスのカテゴリがありまして、普段の投稿は当然ダンスに興味がある人にしか情報が届かないですが、しばしカテゴリの枠を超えサイト全体に席巻し、やがって現実世界にも影響を及んで、社会現象まで発展するケースが起きっています。2016年の極楽浄土や2019年の新宝島は最も代表的な事例になります。

極楽浄土について、こちらBuzzfeedの記事もご参考ください。2015年でYoutubeでオリジナル版を公開された後、見た人の誰かがbillbillへ投稿し、すぐに中国のネットに拡散されました。更にセミプロのダンサーから高校の物理の先生まで色な人は自分が踊ってみた動画をbillbillに投稿して、拡散の範囲もスピードも指数的に拡大して、ネットユーザーは誰でも数回か違うバージョンの極楽浄土を目にしたほとに普及されています。

再生回数2000万を超えたセミプロダンサーの極楽浄土を踊ってみた動画

高校の物理の先生も教室で、再生回数1000万以上

ここまで拡散されたら、踊った本人のメイリアさん達は中国で神様と言って全く過言ではないでしょう。その後中国の要素を意識して制作された「桃源恋歌」ももちろん中国で大ヒットしました。

極楽浄土の事例の場合、2次創作で作られたコンテンツがオリジナル版の爆発的な拡散の起爆剤となり、原作者に絶大な宣伝効果をもたらしまして、経緯が違いますが、同等な影響力を持った新宝島の事例もあります。

サカナクションの新宝島は日本でかなりの人気曲であり、オリジナルMVも一度見たら必ず印象に残るほどユニーク性が高いものです。しかし中国のほとんどの人にとって新宝島と言えば下記の顔を思い浮かぶこととなります。

billbillで最も多く9千万回再生される新宝島の振り付けダンス動画

名も知らないbillbillの利用者はネットからフィリピンのアマチュアのダンスグループIconX(サカナクションとなんの関係もない)が自作したダンス(Mathematics Dance Challedge)の動画を拾って、新宝島の曲に合わせで編集してアップした動画を勝手にbillbillに投稿しました。軽快なリズムにユニークな踊り、そして格好も構えも表情も怪奇さが満載で、キラキラで格好いいものを少し見飽きた若者が”変わった”ものを見たい心が刺されました。こちらもすぐに爆発的に拡散をされて、どこの学校も文化祭や運動会で新宝島を踊る企画があるほど中国全土に広げました。

その後IconXはbillbillで公式アカウントを開設して、様々な活動をしてましたが、サカナクション側は続きの動きがなかったのは少し残念でした。個人的に新大陸という名前の曲をリリースするのを待ち望んでました。

極楽浄土の動画と新宝島の事例から2つ重要な事実に注目していただきたいです。まずはオリジナルのコンテンツがユーザーの2次創作によりオリジナルを超える価値をもたらす可能性があることです。もう一つはこの2つの事例の共通点であり、バズった本当の要因だと思われますが。これはユーザーとコンテンツのインとラクティブに従来の「視聴して楽しむ」(x軸)、「感動して拡散する」(y軸)以外に、”体験してブームに参加する”(z軸)という新しい次元が増えたからだと思います。

情報の拡散について従来平面だったモデルはユーザーが作られたコピーにより無数の面が重なられ立体構造に変わってしまいます。また自分とつながりがある人の投稿ならもちろん、身分、容姿、体型。。。自分と共通点がある身近な人の投稿なら、オリジナルほどのクオリティがなくても、ユーザーがかなり高い関心度を持ちます。こうして情報は従来より遥かに早く、広く、インパクトが高く拡散されて、バズってしまいます。

コンテンツの制作側としてこの動向をしっかり意識して、よりユーザーが”参加”したくなる、より”参加”しやすいコンテンツの制作に心を掛けた方がバズる可能性が高くなると思います。

まとめ

中国聯通(チャイナ・ユニコム)の破天荒な投稿そして聯通の投稿に対してユーザーのリアクションは中国の大手企業の中に、公式アカウントの配信、運営について意識と行動の改革を引き起こしました。この変革は日本にも影響を及ぶか楽しみにしています。

また中国聯通は”宅舞”の分野を選んで乗り出したのはユーザー参加型のコンテンツがとしてとても注目されている分野だからです。日本発のコンテンツは中国を含め世界中に広めて絶大な人気を獲得しているの中、この動向をしっかり捉えて、ユーザーがより参加したがる、参加しやすい要素をコンテンツの制作に取り入れたらより高い人気や市場価値を獲得できるではないかと思います。



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