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プロジェクト関係者マップをつくると仕事がスムーズになる。

空間デザインの仕事は日常の大半をPCの前に座り、黙々とアイデアを考え、図面を引いているイメージを持っている人が多いでしょう。しかし実際には他者とのコミュケーションに大きく時間を割く仕事です。
割く時間は「プロジェクトに関わる人数(組織数)」によって変わってくるので例を挙げてみます。

少ない
夫婦がクライアントの住宅のプロジェクト
個人事業主がセット面が3つくらいの美容室を開業するプロジェクト

ちょっと多い
事業オーナー運営者が同じでない、飲食店設計のプロジェクト
企業の一部署の担当者が企画し、本社幹部の承認を得る必要があるオフィス改装のプロジェクト

それはそれは多い
地方公共団体が古い町並みを保存する計画をし、外郭団体が調査や事業の実施を行なっている。対象になる家屋は複数あり、それぞれに家主が存在していて保存の検討を行なっている。建物の保存や活用を包括的に手がける事業者がコンサルティングを行い、改修後の建物を運営する事業者が複数いる。

こんなに一度に顔合わせしたら、絶対に名前を覚えられない。。

文の長さがそのままプロジェクトの複雑さを表しているようです。「それはそれは多い」プロジェクトになると、関係者全員で顔合わせをした初回ミーティング以降、竣工時までに顔を合わせない人がいたりします。
そういった場合でも、実はその人が重要な役割を担っていて、コミュニケーションを疎かにしていると、プロジェクトが本格的に進み始めた後で議論が前段に戻ってしまい、時間をロスして様々な方面のスケジュールを見直さなければならない、といった事態を招くこともあります。

こういった事態をできる限り防ぎ、プロジェクトをスムーズに進めていくための大事な作業が「プロジェクト関係者マップ」の作成です。

作り方は至って簡単。

人物あるいは団体の名称を書き、それを丸や四角で囲う。
形は好みで問題ありません。このマップにはいわゆる発注者側だけでな受注者側、例を挙げると設計事務所や家具製作者、工務店、造園会社といった主に構想をカタチにする製作者も参加するので、それらを視覚的に分けるために、発注者側は丸、受注者側は四角、のように分類するとより分かりやすくなるでしょう。
なお、どちらの側にも属さない人が登場することもあるので、その場合は記号を追加するなどで対応しましょう。

次に記入した名称の役割を記入する。
「事業主」「建築設計者」「家主」など。

最後は、丸や四角同士を矢印を付けた線でつなぐ。
そして線の上に、矢印の方向に提供している主なモノやコト、もしくは関係性を記入します。

ここまで読み進めた時に「これはマンガなどで本編に入る前に描かれることがある相関図みたいなやつだな」と思った人がいるはず。まさにその通りです。
上記手順に沿って完成した参考図を載せておきます。

少々ごちゃごちゃしていますが、実際はもっとキレイにつくります。


要するに、誰かと誰かはどのような関係であるか、利害関係はあるのかないのか、役割分担はどうなっている?といった関係性を可視化するのです。

こうすると、なんとなくわかっていた気がしていた情報に、色々と漏れがあったことに気が付くし、結果として「仕事の重複が解消される」「指示系統が明確になる」「情報を共有して良い範囲がわかる」といった効果が現れて、最初からプロジェクトをスムーズに進めることができて万歳となる。

なお、ビジネスの場においては「利害関係者の相関」の可視化に重きをおくことが多いため、このようなマップは「ステークホルダーマップ」と呼ばれることが多いようです。
「stake(掛け金)」「holder(保有する)」と言う言葉を由来にしたStakeholder = 利害関係者 の地図、と言う意味ですね。

プロジェクト全体の調整業務が非常に多く専門に人を置かなければならないような大きなプロジェクトの場合は、PM(プロジェクトマネージャー)という肩書きの人がチームに入っていて、プロジェクト関係者マップも作ります。

しかし、空間デザインの仕事においては、参加人数やチームの数は多いけれど、プロジェクトマネージャーがいるような仕事は稀です。(手がける仕事の規模が小さいだけかもしれませんが。)

キックオフミーティングを終えても関係性がわからないままヌルッとプロジェクトがスタートすることがほとんど。そういう時には、誰に頼まれる訳でもなく、さっとマップを作って関係者に送付し、内容が間違っていないかを確認することをお薦めします。

作成には初対面の人たちに聞きにくいことを質問したりと、面倒なことが多いけど、最初にそれをやっておくと「この人はプロジェクト全体を俯瞰して、スムーズに進めようとしているのだな」といった印象を持ってもらえて、その後の仕事がやりやすくなるのは、自身の経験として実感しています。

ぜひ「プロジェクト関係者マップ」つくるようにしましょう。

余談ですが、ある町並み保存調査の一環で古民家の視察に行った時のこと。
家主さんはこの時すでにこの建物にはお住まいでなかったので、視察のためにわざわざ鍵を開けにお越しくださり、中を案内してくれました。

閉じられた雨戸を開けて回られる後ろを付いて、立派な床の間のある広間に入った時のこと。
雨戸を開けて広がった視界は、遠くにこの町のシンボルである建造物を望む絶好のロケーションでした。

ただ残念なことに、窓とその建造物とを結ぶ視線の間に、周辺の建物より一際大きい比較的新しい建物が建っていて、視界を一部遮っていた。
反射的に「あの建物は邪魔ですね〜」と声に出した。

すると、家主さんが一言。
「あれ、今私が住んでいる自社ビルなんですよね、、、」

失言とはまさにこのこと。
その場にいた関係者の多くは事情を知っていたので、空間が凍てついて時間が止まった。。
プロジェクト関係者マップを作っても、さすがにそこまでの関係性はわからないと思ったが、もう少し事前に話を聞いておけば防げたかもしれないな、、と勉強になったエピソードだった。

終わりに

この記事を書いたあと、「noteで同じような記事を書いている人たくさんいるはず」と当たり前のことに思い至らなかった自分がいて、検索して色々拝見しました。

その中で、自分の仕事への考え方に近しいことを書かれている、共感を覚える記事がありましたのでリンク貼らせていただきました。
業種は違えど、こちらに書かれている考え方は、空間デザイナーの仕事に対する心構えとして共通点が多いので、新人スタッフ諸君は必読です。
もちろんステークホルダーマップの話題もありました。

ちなみに著者の方はマネーフォワードでUXなどを担当されている方でした。
僕が経営する会社では数年前からお世話になっているサービスで、大変に便利に使わせていただいています。


建築・インテリアなど空間デザインに関わる人へ有用な記事を提供できるように努めます。特に小さな組織やそういった組織に飛び込む新社会人の役に立ちたいと思っております。 この活動に共感いただける方にサポートいただけますと、とても嬉しいです。