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キープランをつくろう!ものごとを正確に、素早く伝えるための技術

建築やインテリアの仕事において、「キープラン」という資料(図面)は思いのほか多く登場します。

これは「図面」が自分だけが理解すれば良いものではなく、第三者に正確に伝わってはじめて機能するものだからです。

実務者にとってキープラン作成は日常的なことなので、特に読むべきところはないかもしれませんが、僕は「現場写真の整理」や「部分改装の仕事の情報整理」にこのキープランを大変重宝しています。

興味のある人がおられたら、目次からそこへスキップしてお読みいただけたらと思います。


「キープラン」とは何か

「キープラン」とは英語で書くと「Key-Plan」で、直訳すると「鍵の平面」となります。
直訳すると良くわからないですが、Keyを「答えを解くための鍵」と解釈してみてください。

この図面自体には答えはないが、答えを導くための手がかりが記されていますよ、という図がキープランで、これを最も端的に表した日本語訳は「案内図」だと思います。

建築やインテリアの実務において登場するキープランは以下のようなものがあります。(「キープラン」のところを「案内図」に読み替えるとよりわかりやすいと思います)

  • 建具キープラン

  • サインキープラン

  • 衛生器具キープラン

  • 家具キープラン

  • etc

キープランの実例(建具図)


それでは建具図を例に実際の図面を見ていきましょう。

建具キープラン(案内図)

建具キープラン(案内図)は以下のような図になります。

建具キープラン(図の一部抜粋)

平面図の中に六角形の記号が貼り付けてあります。
その記号の中に「WD」や「既存」などの文字とともに、「番号」が記されています。

WDは木製扉(Wood Door)の略で、番号はこの種の建具のバリエーション数を表しています。
記号は他には「SD(Steel Door)」や「WW(Wood Window)」があり、最初の文字が素材を表し、次の文字が「扉」なのか「窓」なのかを示しています。

全く同じ形状の建具(樹種や仕上げ、把手やガラス、丁番などの金物類)が建物内に複数ある場合は、同じ記号を使います。
つまり、番号の数だけ「違う形状の建具」が存在することになります。

ちなみに、記号の形は六角形である必要はなく、好みのカタチで良いです。
場合によっては、新規建具の記号は色をつけて、既存建具は黒のまま、と言うように色分けをすれば、より見やすいキープランになるでしょう。


建具表

次に建具キープランに対応する建具表を見ていきましょう。

建具表|記号

この表には5つの建具の詳細が描かれています。
各々の表の最上段に、建具キープランに記していたものと同じ記号があります。

つまり、平面図に配置した記号が示す建具の詳細情報が、この表に一覧されているという仕組みです。

この表では建具の姿図、寸法、材種、把手や丁番、鍵の種類といった、建具を構成するすべての情報を網羅し、製作するに人に伝えているのです。

【重要】キープランと表はセットである。


実例で建具キープランと、建具表を紹介しました。
この章のタイトルに【重要】とある通り、建具キープランと建具表はそれぞれ独立した図ではありますが、切り離せない関係にあります。

表のみを工事会社さんに渡した場合を想像してみてください。
表に記載された情報をもとに、建具を製作することは問題なくできます。

しかし、出来上がった建具を現場に持ってきたとして・・・
どこにどの建具を設置するのかわかりません。

文章でつらつら書いているからわかりにくいかもしれませんが、考えると当然のことですね。

どこに設置するのか、以外にも重要なことがある。

「どこに設置するのかがわからないだけなら、現場で口頭で指示すれば良いではないか」と思われるかもしれません。

しかし、キープランには設置場所以外にも検証するべきことが含まれています。以下に挙げます。

  • 枠の形状の検討

  • 設置場所によって必要とされる性能が満たされているかの確認

  • 扉の開閉方向

  • 扉が開いた時に干渉するものがないかの確認

  • etc

まぁ色々あるものですね。解説します。

①枠の形状の検討

まず知っておきたいのは、建具を作る人と、建具の「枠」を作る人が必ずしも同じ人ではない、ということです。

建具の厚みと、建具が納まる枠の部分の厚みが違う、といったことが起こると大変です。
そうならないために、建具の製作者と枠の製作者とをつなぐ役割をする人が、現場管理者であり、その人と打ち合わせをして認識を同じくするために、キープラン(それを含む平面詳細図)と建具表をセットで提出する必要があります。

②設置場所によって必要とされる性能が満たされているかの確認

施設によっては、建具に防火性能や不燃性能を要求される場合があります。
これは防火区画などの法律が関係する話です。(これはまた別の機会に)

ある場所に設置する建具の防火性能の要・不要は平面図(キープラン)で確認するものですが、この図がなく防火性能の必要性の検討が抜けてしまうと、法的に不適切な建具が取り付けられてしまうことがあります。

これを防ぐために、キープラン上で防火性能の必要性についても記号で示し、確認ができるようにします。

設計者がどの建具がどのような防火性能を有するべきか、すべて認識しておけば良い話ではあるのですが、大量の建具がある場合など、記憶に頼るのは避けておいたほうが良いでしょう。

③扉の開閉方向

建具表だけをみると、平面的にその扉がどちら向きに開くのかわかりません。
①の建具枠の製作の話にも通じますが、開き勝手がわからないと、丁番を取り付ける枠の加工箇所がわからないことになり、ともすれば想定している開き勝手と反対になることも。

④扉が開いた時に干渉するものがないかの確認

建具を開閉したとき、把手が壁に当たってしまわないだろうか?
建具を開閉したとき、天井に設置している誘導灯などの設備に当たらないだろうか?

こういった検討事項もあります。
キープランか表か、片方だけ見ていてもこのような事象については検証ができません。

なお、天井に設置した設備との干渉の話は、キープランだけでは満足な検討はできず、展開図や天井伏図、設備図なども含めた検証が必要です。

まとめ

事例は建具に関することのみの紹介となりましたが、冒頭に挙げたいくつかの図面に関しても同じように、キープランは単純にモノの設置場所を示すだけでなく、設置に関わるその他様々な要件を確認するために存在していることを覚えておいてください。

応用編①:現場写真を整理する

キープランとリスト、の関係を応用すると、色々とモノゴトを整理するのに役立ちます。

例えば現場写真。
iPhoneやデジカメで撮影したファイルは、たいてい数字の連番になっていますよね。
それをフォルダに格納すると↓のように並ぶ。
そして、たいていの場合、あの部屋の写真はどれだったかな?と矢印キーを連打しながら、小さなプレビューを頼りに該当する写真を探す。

どの写真が見たいやつだっけ、、、💦

写真撮影をした後で、このようにデスクで写真を探す機会って結構多い。
そして毎度時間がかかる。

何分もかかる、ということではないですが、回数が多ければそれだけ時間はかさむし、なにより毎回イライラする。

そこで登場するのがキープラン。

現場写真のキープラン|撮影した場所に数字を記入する

他の図と同じように、平面図に番号を打つ。
そして、写真のファイル名をその数字に連動させる。
このようにして、キープランをパッと開けば、お目当ての写真がどれなのかが一目瞭然となってすぐに見つけられる、というような使い方をしています。

キープランはPDFにしておく。
Macだとスペースキー押せばプレビューが高速。

応用編②:部分改装のプロジェクトの工事内容をわかりやすくする

部分改装のプロジェクトの場合は、どこでどんな変更を行うのか、新築案件のように一から全部の図面を描くことは効率が悪い。

効率が悪いだけなら良いが、全部図面を描くと、どこをどう改装するのかがパッと見ただけではわかりません。

公共工事だと、改修前と改修後の図面をそれぞれすべて描くのですが、その前後の図面を見比べながら、どの部分が変わっているのか読み解くのは結構な手間です。というか個人的には至難の技。(建築図はモノクロで描かれていることが多いのでなおさらわかりにくい。ただ、どこをどう改変したのか、履歴をきちんと残す意味では重要)

プロがわかりにくい図なのだから、クライアントにとってはもっとわかりにくい。

こういう場合のために、「全工事の内容を把握するためのキープラン」を作ります。なおかつ、工種を色分けして。
事例がこちら↓

工種ごとの「やること」キープラン

これをプロジェクトの最初に描いておくと、クライアントとの打合せにも使い勝手が良いし、工事業者さんにも説明がしやすい。

この図を描いたあとは、それぞれの番号に沿って必要な図を描く、仕様を決める、選ぶ、など順を追って作業していけば、抜け漏れのない見積り依頼書を効率よく作ることができます。

このようにキープランと表(リスト)の形式は、いろんなシーンで応用が効きますし、設計の仕事でなくても使えます。
是非使い方を習得して、ものごとを正確に、素早く他人に伝えられるようにしていきましょう。


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