月の男と墜落するシモン

月の男と墜落するシモン

聖人、山師、魔術師。
その男の噂は余りにも膨大で、そして余りにも纏まりがない。だがその噂はどれも不気味なほどの熱を帯び、今やルーンの植民地、カナの地を席巻しつつある。

月の男。

そう呼ばれている噂の主に、占い師シモンが遭遇したのはある朝のことだった。

辺りにかぐわしい香りが漂う中、男が口を開く。するとその言葉は光となり、煌めきながら天へと昇っていく。男が空に手をかざすと、まるで時が加速したかのように日が沈み、星と月が現れそして再び朝が訪れた。

それは啓示的な体験だった。シモンは己の現実が崩れていくのを感じていた。肚の底から熱いものがこみ上げ涙となって溢れ返った。シモンはついに噂の真実を見極めたのだと思った。そして己が予感していた時がようやく訪れたのだと確信した。

その晩、彼は人々を集め熱を帯びた口調で語った。

「彼こそ救世主、抑圧者ルーンからの救い手」

それが、カナの地を襲った第二の受難の始まりであった。

【「熱狂の渦」に続く】

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