東洋決死圏
戦場を一陣の風が駆け抜けていく。
その風の名は沙也可(さやか)。
雑賀の沙也可。
(認めさせる。俺は速くて強い。里の誰よりも)
元服前。少年の面影を残す顔立ち。足軽鎧に身を包み、その手には奇妙な長筒。その長筒には刻まれていた──雷のごとき呪印、そして三本足の鴉。
その加速する視界は捉えていた。紀伊の山裾に蠢く軍勢、そして〈桐紋〉の旗印を!
「ははっ」
沙也可は笑った。あれこそは憎き羽柴の旗印。目指すべき敵! その前衛、足軽たちが禍々しき弓に矢をつがえている。それはアグネヤストラ。天竺で発掘された恐るべき古代兵器である!
「放て!」
号令とともにアグネヤストラの矢が放たれていく。光を放ち、弧を描いて宙を舞った矢は空気をも焦がしながら炎の雨と化す。それは万象を焼き尽くす炎。すべてに等しく死をもたらす万死の雨!
「はっ。くだらねぇ!」
沙也可は吠えた。そして軽やかな跳躍で炎の雨を潜り抜けていく。そして注いでいく。
「オンサンネイサンネイキレイギャレイソワカ」
己の〈プラーマ〉を、その手に持つ長筒へと! 長筒に刻まれし呪印が輝いていく──銃床から銃身へと向かって、まるで火がついた導火線のように。そして耀きが銃身の根に座す三本足の鴉へと到った瞬間──
「とくと味わえ、雑賀のタネガシマを!」
轟! 劫! 業!
その銃口から蒼き猛りが迸った。その直撃を受けた足軽たちの体が弾け、次々と肉の華と化していく。
沙也可はさらに駆ける。「貴様……っ」狼狽する足軽頭を銃床で打ち砕き、敵陣のさらに奥へと! 狙うは先鋒率いる羽柴秀次。その首である!
大気は震えていた。大地は震動していた。戦場は沸騰しようとしていた。
「!?」
沙也可は足を止め空を見上げた。比喩ではない。文字通り大気が震えている。空の向こう、迫り来る巨大な影が見えた。
「あれは……!」
宝寺城、姫路城、そして──大坂城!
それは想像を絶する超兵器。羽柴軍が誇る天翔ける天守閣。ヴィマナであった!
【続く】
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