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黄金ザクロ

 誰もいなかった。たった独りきりだった。
 ウゥゥー……ウゥー……。
 荒涼とした大地に、呻きにも似た何かが木霊していた。言い知れぬ焦燥感とともに空を見ると、天頂には眩い光があった。耳元には囁く声。誰も、いないはずなのに。

 見えるか? あの輝きが。ぴかぴかとしたあの光が。わかるだろう? 俺とお前が求めてやまなかったもの。ありとあらゆる犠牲を費やし得ようとしたもの。俺とお前の生と死。終わりにして始まり。全てを飲みこむ黄金の光。

 あれが、黄金ザクロだ。

 叫びをあげ、御堂弥勒は目を覚ました。夢……。心臓が破れるように高鳴っていた。また見てしまったのだ。いつもの悪夢を。
「なにが……俺とお前って……」
 これを見ると必ず不幸になる。
 弥勒が、ではない。
 身近な誰かが。
 はじまりは小学生の時だった。飼い犬のタロが死に、次に級友。大好きだった先生。そして六年前。中学入学の直後、父と母が自殺した。全て夢を見た後だった。
「……黄金ザクロ」
 呟きながら弥勒は震える。
 また誰かが死ぬのか? 俺が夢を見たから?
 つけっ放しにしていたネットラジオからは、連続殺人のニュースが流れていた。陰鬱な朝。
「くそっ」
 ラジオを消そうとして、その手が止まる。スマホが震えていた。奏太……叔父の家に預けている、幼い弟からの着信だった。
「どうした奏太?」
『お兄ちゃん……』
 ウゥゥー……ウゥー……。
 遠く、呻きにも似た何かが木霊している。
『ごめんね』
「奏太?」
 呻き……防災無線のサイレン? アナウンスが聞こえる……。

 ―― 通り魔の……容疑者……逃走……住民の方は……

『ごめん、僕』

 ―― 容疑……疑……容……俺とお前……

 俺とお前?

『僕……』

 黄金ザクロの贄になっちゃった。

 ウゥゥー……ウゥー……俺……俺とお前……。窓の外。空が赤く染まり黒煙がたなびいている。叔父の家の方角だ。

 奏太。
 たった一人の家族。

 ―― 贄……あと百三の肉体

 全身の血が沸騰する。弥勒は家を飛び出していた。

「奏太ー!」

【続く】

#逆噴射小説大賞2023

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