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「履歴書の1行目」になりたくて、高校生・大学生のためのビジネスコミュニティをはじめた2年間の話

スタディメーター株式会社では、今年の2月に、高校生や大学生と一緒に新規事業を立ち上げる「First off Projects」というビジネスコミュニティをはじめました。

正式にコミュニティとして発表したのは最近ですが、実は活動自体は2022年から行っています。この活動は、僕が独立…つまり2020年ごろから考えていた「これからの時代の教育とは…?」という問いを煮詰めた結論であり、色々な変遷を経てようやくひとつの形になりました。今回は、このFirst off Projects(略してFoPs - フォップス)を紹介させてください。


学生と社会人の境目はなくなる

これまで、というか今でも、「学生」と「社会人」は完全に切り離されていて、学生のうちは勉強する、そして卒業したら就職して働くと考えるのが一般的です。

でも、時代は変わってきています。人生100年時代、社会人になってもずっと勉強し続けるのだ、という考え方が広まっています。流行り言葉で言えばリスキリングというやつです。社会人になっても「学生」の状態は終わりません。実際、社会人になってから勉強の必要性を感じて大学に行く、という話もよく聞くようになりました。

このように「学生の終わり」に対する意識は変わってきているのに、「社会人の始まり」に対する考え方は変わっていません。つまり、「社会人学生」はいるのに「学生社会人」はいません。僕はここに疑問を感じました。なぜ、「学び始めるのに年齢は関係ない」と言うのに「働き始めるのに年齢は関係ない」とは言わないのか。

今は、働き方も変わっています。副業やリモートワークが普及して、学業とのバランスを保ちながら従事できる仕事も増えています。ITが身近になり、すごいシステムを個人開発して、SNSを通じて世界に発信し、社会に大きなインパクトを与えられるチャンスもあります。学生だからといって学校の中で習作を作り続けるのではなく、自分の力を実社会で試してフィードバックを得る経験ができるし、むしろそういう経験こそ、大きな学びにつながるのではないでしょうか。

念のため補足しておくと「学校より仕事の方が大事」と言っているのではありません。学校は大事です。でも社会での経験も大事です。だから、子どもは学ぶ、大人は働くと決めつけずに、年齢に関係なく学びたい人は学び、働きたい人は働けるようになったらいいなと言っているのです。


1. FoPsの前身: 高校生向け事業企画ワークショップ

そんなことを考えながら僕が最初に取り組んだのは、高校生向けの事業企画ワークショップでした。高校や塾など、高校生が集まるコミュニティと組んで、事業を立ち上げる探求授業を開催しました。

実はいまでもサイトが残っています(運用はされていません)。

これは高校生の考えたビジネスアイデアを企業が実際に事業化する、という取り組みで、実際にいくつかのアプリをリリースしました。

しかし結論から言うと、これはあまりうまくいかなかった。参加してくれた高校生からは「今までにやった探求学習の中で一番面白かった!」とかなり好評だったのですが、企業側から見ると満足度は高くなかった。

「ワークショップ」という形態の性質上、1~2時間という制約の中でアイデアを立案したので、企業が本当に事業化したいと思える施策にならなかった、というのが理由です。失敗、というほどのものではないですが、プログラムの問題?それとも能力?高校生のオーナーシップ?とにかく、出来上がる施策の質をもっと高めないと、従来的な授業と大して変わらない…という反省を得ました。


2. 最初のきっかけ: 数学学習アプリ「ラクシマス」の開発

「ジブン高校未来部」の傍らでは、僕自身もITトレンドを学び続けるためにいろいろな開発に取り組んでいました。2022年の夏ごろは、数学学習アプリを作ろうと考えていたので、そのディスカッションのために、当時アルバイトとして働いていた大学生に相談をしました。

僕としては「みんなに数学を好きになってほしい」という想いがありました。そんな話をその学生さんにしたら、自身が家庭教師として働いている経験から、こんなことを言われました。

「数学なんて、やりたい人だけやればいいし嫌いでもいいんです。大事なのは、テストでそれなりの点を取れる効率的な勉強です。」

なるほど、と思いました。ちなみにこの学生さんは、東大の理系の大学院生(当時)です。数学が超得意な人が、普通言わないであろうコメント。これは面白いぞと思って開発したのが「ラクシマス」というWebサービスです。

キャッチコピーは「明日テストだ、どうしよう」。単元を選択すると「東大生厳選の10問」が表示されて、これを丸暗記すれば明日のテストで70点取れるぞ!という、数学の先生に怒られそうな、トガったサービスです。

しかしこのサービスは好評をいただきまして、自治体で使いたいという声や、高校生の利用者から「数Ⅲはいつできるんですか!?」といった前のめりな声をいただきました(数Ⅲはつくりたいけどまだなんです…ごめん!)。


3. これはいけると思った: 英語学習アプリ「Transable」

ラクシマスを経て、ジブン高校未来部ワークショップの問題点は「時間の制約」だけだったのだ、ということに気づきました。学生だから、とか関係なくて、時間をかけてやればちゃんと社会で評価されるものが作れるじゃないか。そこで、別の学生スタッフに今度は「何かやりたいことない?」とざっくりと聞いてみました。

すると「AIを活用した英語学習サービスを作りたい」とのこと。よしやろう、ということで3か月を経て完成したのが「Transable」というサービスです。

この学生は立命館の大学院生で、Transableを学校の先生に紹介しました。その結果、なんとTransableは立命館大学の英語の授業に採用され、英語教育の先進事例としてたびたびメディアにも取り上げられています。

Transableの経験は、学生が「新規事業を立ち上げる」プロセスにおける僕の役割を考える良い機会になりました。

最初のアイデアは「AIを活用した次世代英語学習システムをつくる」という、文字通りこれだけのアイデアでした。これを「次世代ってどういうことだろうね?」とか「既にAIを活用した英語学習サービスってたくさんあるよね?」という問いかけを繰り返し、最終的に引き出した答えが

「個人の英語学習は変わっているけど、教室の中は何も変わっていない」

だったのです。確かにそうです。「AIを活用した英語学習サービス」なんて数えきれないくらいあるけれど、学校の英語の授業ではどれも使われていない。そこでTransableは「学校の英語の授業で使えるAIサービス」というコンセプトで開発しました。だからこそ、「既存の○○があるよね?」とならなかったし、C向けのリッチな機能を作りこむこともなく、3か月という短期間でリリースすることができました。

アイデアの深掘り、IT技術指導、そして応援。これが僕の役割でした。振り返ると、ラクシマスのときもそうです。逆にこれだけあれば、開発も事業企画も未経験の学生が、社会で評価されるサービスをつくれるのだ、という実績に自信を持つことができました。


4. 軌道に乗った: 高校生インターンの採用

ちょうどTransableを開発していたころ、高校生インターンを斡旋する会社との出会いがありました。

ラクシマス、Transableと事例はできつつありましたが、この活動を継続する「学生の採用」の問題があったので、最終的にFoPsの活動が軌道に乗ったのはTeenWorkerとの出会いがあったからだと言えます。

これで高校生を採用するルートができたので、活動が一気に拡大しました。

これらはいずれも高校生の作品で、どれも非常に面白いサービスです。しかしすべてに共通しているのは、「大人がつくった」と言っても通用するレベルのサービスであること、そして僕がやったのはアイデア深掘り、IT技術指導、応援だけで、あとは学生が全部自分で作っているということです。

最近は、ChatGPTもフル活用しています。特に開発部分では、ChatGPTを活用することで、プログラミング未経験でも開発の基礎さえ勉強すれば、短期間でかなり高度なシステムを実装できます


5. いつも聞かれる: お金はこっちが払うんだ!

この活動の最も重要な特徴として、学生には給与が支払われるということがあります。「なんで?」「むしろお金もらうところじゃない?」としょっちゅう言われますが、これは弊社の主要事業が法人向けのIT研修であることがちょうどよかったのです。

学生たちと新規事業立ち上げやIT技術の実験を行い、その実績を新しい研修コンテンツとして売り物にする。このマネタイズ手法を確立したことで、給与を支払っても、立ち上げた新規事業自体に収益性が無くても全く問題はないし、学生たちも失敗のリスクを何も抱えずに活動できるのです。

実際、FoPsの話は講演で好評です。高校生が、ChatGPTを活用して、大人と見まがうアウトプットを出す。このストーリーは「AIなんて難しくてわからないです…」とか「リスキリングなんてしたくない」と言っている大人たちに大きな衝撃を与えます。そういえばNVIDIAの社長が「AIが君の仕事を奪うんじゃない、AIを使う人が君の仕事を奪うんだ」と言っていましたね…


「履歴書の1行目」に書いてほしい

コロナの最中にはじまった取り組みということもあり、FoPsの活動は基本的にリモートワーク。参加する学生も日本全国にいるのですが「みんなで集合したい!」ということになり、2023年の12月に当時の全員12人で集合するイベントを開催しました。

「First off Projects」という名前はその時にみんなで決めました。「はじめて」という意味の「First」に、Take offなど飛び立つイメージのある「off」を組み合わせた「First off」という造語で、学生が「はじめてやってみる」ことを表現しました。いわゆる「インターン」とはちょっと違うんだよな…という意識がずっとあったので、名前をつけたことでこの活動のコンセプトも説明しやすくなったし、みんなの帰属意識も高まった気がします。

FoPsの目標は、学生たちの履歴書の1行目に「First off Projectsに参加」と書いてもらうこと、そしてその1行が重要な業務歴として社会に評価されることです。
通常、日本人の履歴書にアルバイトやインターンの実績は書きません。まあ、GAFAMのインターンとかに行ったら書くのかも。つまりそれと同等の実績として認められたいということです。
そのために、FoPsという存在を認知してもらうこと、そしてここに参加する人はみんなすごい!と思ってもらえる成果をたくさん出すことが当面の目標です。

繰り返しになりますが、この活動は「働き始めることに年齢は関係ない」と言うため、そして働くことの楽しさや社会を相手に自分の力を試す機会になりたいと願っています。今後もFoPsでは様々な取り組みを行っていくので、ぜひnoteの発信やプレスリリースに注目してください!



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